26話「祖国へ」
「ですが私、告白されたことなど一度もありません」
元婚約者のリック様との仲はあまりよくなかったですし、彼には他に好きな人がいました。
だから私は男性から「好き」って言われたことがないんです。
彼と婚約破棄した後も、誰からも告白されたことがありません。
告白されるどころか、デートに誘われたことも、プレゼントをもらったこと すらありません。
カロリーナ様やマダリン様には、留学した直後から、花やアクセサリーなどのプレゼントが連日届いておりました。
お二人が校舎裏に呼び出されて、殿方に告白されてるのを見たこともあります。
私にはそういうことが一切ありませんでした。
「当然ですわ。
エミリー様に遊び半分で近づいてくる優男はわたくしが潰しておきましたもの」
「わたしもだ。
エミリー様が腑抜けや、野獣の餌食にならないように、常に目を光らせていたからな」
えーとお二人のお話をまとめると、私に近づいてくる男性はいたけど、どの方もお二人のお眼鏡にかなわなかったので、お二人が排除したということでしょうか?
「エミリー様は実習で作ったお菓子をその辺の男子生徒に配っていただろ?」
「ええ、捨てるのもったいなかったので、同じクラスの方と一緒に騎士科の生徒を中心に配っておりました」
女子生徒は体型を気にしてお菓子をもらってくれないのですが、男子、特に騎士科の生徒は体を動かしてお腹が空いているのか、お菓子を喜んで受け取ってくれました。
もし学園の生徒にもらっていただけないなら、孤児院に行って配ろうと思っておりましたから、孤児院に行く手間が省けました。
ラインハルト様は騎士科ではありませんでしたが、よく私のクラスまでお菓子を貰いに来てました。
よほど自分腹ペコだったのでしょうね。
「あれは男子生徒の好感度を上げる危険な行為だったのだ。
余り物のお菓子をもらっただけで、自分に気があると思い込んだ男共が、エミリー様に近づこうと、躍起になっていた。
わたしはそんた男子生徒を何度潰したことか。
エミリー様の寮に忍び込もうとした不貞の輩を、投げ飛ばしたことは一度や二度ではない」
「そうだったんですか?
それはご迷惑をおかけしました」
余り物のお菓子を空腹な方にあげることが、そんなに危険なことだと思いませんでした。
「それでもしつこくつきまとっていたのが、ラインハルト様でしたわね。
わたくしは彼にエミリー様とザロモン卿の待ち合わせ場所を教えるのは、危険だと思いましたのよ」
「カロリーナ様だってあの時、『修羅場が見られる!』と言ってはしゃいでたではないか!
エミリー様の思い人がライオン殿をぶっ飛ばし、邪魔者が消え、エミリー様は恋人に惚れ直す、最高のシュチュエーションではないかと二人で盛り上がったではないか!」
お二人で昨日何を話していたのかなんとなく想像がつきました。
「とにかく!
エミリー様はモテるんです。
そのことを自覚なさってください。
五歳以上の男子にむやみやたらにお菓子をあげたり、密室で二人きりになってはいけませんよ!」
「はい、気をつけます」
カロリーナ様に注意されてしまいました。
「孤児院を訪問した時、大半の男の子はお菓子を配るエミリー様に惚れていたからな。
孤児たちにはエミリー様は天使に見えていたんだろうな。
十歳以上の体がでかい男の子など、エミリー様を押し倒す勢いで抱きついていた。
本当、子供といえど侮れん」
そうだったんでしょうか?
確かに孤児院を訪れた時、たくさんの男の子に囲まれましたが、あれはお菓子に群がっているんだと思っていました。
すごい勢いで抱きついてくる子もいましたが、プロレスごっこか何かの延長だと思ってました。
私はもっとしっかりしなくてはいけないようです。
「とにかくこれからは、ご家族やザロモン卿以外の人間と二人きりになってはいけませんわよ!」
フォンジー様と二人きりになってもいいんですね。
そうか、フォンジー様は家族みたいな方だから、二人きりになっても安心ということですね。
「カロリーナ様そのような言い方だと、 またエミリー様が変な方向に誤解してしまうぞ。
この方は想像している以上に、こと恋愛についてはぼんやりしているからな」
マダリン様、ぼんやりしてるなんてひどいです。
でも彼女の言葉は否定できません。
「まあよろしいんじゃなくて。
二人きりになって間違いが起こったら、ザロモン卿に責任を取ってもらえばいいんですから」
「あの真面目なザロモン卿が間違いを起こすかな?」
「そこは男女のこと、真面目な方でも好きな人の前では間違いを起こすこともありますわ」
「そうだな、そのような展開も楽しみだな!
エミリー様、ザロモン卿とはどんどん二人きりになるんだぞ!」
なんだか二人ともとても楽しそうです。
「あーあ、それにしてももうすぐ卒業か。
卒業したら皆はそれぞれの領地に帰ることになる。
エミリー様は将来の旦那様の領地に行くことになるんだがな(小声)
そうなったら窮屈な社交界でしか会えなくなるんだな。
寂しくなるな」
「あら社交界、わたくしは大好きですわよ。
新作のドレスをお披露目出来て、沢山の方とお話が出来て、楽しいではありませんか」
「カロリーナ様は、次にお会いする時までに社交界の薔薇と呼ばれ、ご婦人たちを仕切ってそうだな」
「マダリン様も社交界の麗人として、社交デビューしたばかりの少女たちの心は鷲掴みにしていそうですわ」
お二人は顔を見合わせて笑いました。
私には社交界の薔薇と呼ばれるカロリーナ様のお姿も、社交界の麗人と呼ばれるマダリン様の姿も、容易に想像できました。
「エミリー様は次にお会いする時には、社交界きっての善良なおしどり夫婦と言われていそうだな」
「まあそんなお姿が容易に想像できますわね」
「お二人とも気が早いです。
私にはまだ相手もいないのに」
「今は、ですわよね?
きっとそう遠くないうちに状況は変わりますわ。
こんなに可憐な淑女を、殿方が放っておくわけがありませんもの」
カロリーナ様はおっしゃってくださいましたが、そんなに簡単に相手がみつかるでしょうか?
「わたくしね、 夢がありますの。
エミリー様とマダリン様と同じ年に結婚をして、同じ年に子供を産んで、子供たちが同じ学年になる。
もし本当にそうなったら、子供達の話をしながら、三人でお茶を飲みましょう」
「素敵な夢だな。必ず実現してみせるぞ!」
「その夢が叶ったら、素敵ですね」
すでに相手がいるカロリーナ様とマダリン様には、実現可能な夢かもしれません。
まだ相手のいない私は、その夢に乗り遅れてしまうかもしれません。
その時は、お二人の第二子か第三子と、私の第一子が同じ学年になったらいいなと思っています。
その頃までには私もお相手ができていますよね?
こうして楽しかった学園生活を終え、卒業を迎えた私達は、皆で祖国に帰ったのでした。
読んで下さりありがとうございます。
少しでも面白いと思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。執筆の励みになります。