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25話「それぞれの道」



「わたくしの卒業後の進路は入学前から決まっておりますわ」


「それもわたしも一緒だ」


「良い婿を見つけ、実家の公爵家を継ぐことですわ」


「わたしもカロリーナ様と一緒だ。

 わたしの使命は良い婿を見つけ、辺境伯家を継ぐことだ」


すごいです!


お二人とも入学前から心が一ミリもぶれてないのですね!


私もお二人の意思の強さを見習いたいです!


「ですからわたくしは卒業後、祖国に帰りますわ。

 家族に会わせたい人もおりますし」


カロリーナ様は名門ブルーノ公爵家の長女。


彼女がご家族に合わせたいという方は つまり婿養子候補!


一体どのような殿方なのでしょう? 気になります!


「聞いても宜しいでしょうか?

 カロリーナ様がご家族に会わせたい人というのはどなたなのですか?」


自分の話を聞かれるのは気恥ずかしくて仕方ないのに、他人の恋の話は気になって仕方ありません。


これは人間の性というものなんでしょうか?


「あら?

 エミリー様には言ってませんでしたか?

 わたくしの相手はウィラード・リーゲル様ですわ」


「ええっ!?」


ウィラード・リーゲル様はこの国の第二王子で、私達と同い年。


成績優秀で眉目秀麗なお方なのですが、少々口が悪いのが難点です。


彼は留学してからずっとカロリーナ様に突っかかっていました。


お二人がよく口喧嘩をしているのを見かけました。


先週も政治と経済の話題で白熱したバトルをしていたはずですが?


「カロリーナ様はウィラード殿下と恋仲だったのですか?

 でもお二人は顔を合わせれば、喧嘩ばかりしていたではありませんか?」


てっきり犬猿の仲だとばかり思っておりました。


「興味があるから会話をするのです。

 どうでもいい相手と議論するなんて時間の無駄ですもの。

 わたくしはね、わたくしに言い負かされて、めそめそ泣いて帰る男達の顔を見るのがとても好きでしたの。

 最も、わたくしに言い負かされても泣かなかったのは彼が初めてでしたけど。

 いつか彼のことも泣かせてやろうと思っておりましたわ。

 それがいつの間にか恋心に変わっていたようです。

 彼のような骨のある男なら、公爵家の支えになってくださるでしょう」


お二人の間には私にはわからない、深い絆があったようです。


それにしても、愛の育み方は人それぞれなのですね。


カロリーナ様にそのようなSっ気があるとは知りませんでした。


そういえばウィラード殿下は、カロリーナ様以外の女性には紳士的な対応をしていました。


というより彼は、カロリーナ様以外の女性には興味がないようでした。


ウィラード殿下は好きな人にかまってほしくて、つい乱暴な口をきいてしまうタイプの方だったようです。


そしてカロリーナ様はそのような殿方を返り討ちにして、泣かすのが趣味だったようですね。


口喧嘩がいつしか恋心に変わる、そのようなこともあるのですね。


勉強になりました。


「わたしも卒業後に帰国する予定だ。

 家族に紹介したい人もいるしな」


「マダリン様もですか?

 不躾な質問で申し訳ありませんが、ひょっとしてそのお相手というのはマダリン様の恋人ですか?」


カロリーナ様だけではなく、マダリン様にも恋人がいたなんて、初耳です!


マダリン様のお相手は一体どのような方なんでしょう?


「そうだ。

 イエル・レフラー公爵令息。

 彼を連れて帰ろうと思っている」


「ええっ!?」


イエル・レフラー様は、この国の公爵家の三男で騎士科に所属しています。


彼は冒険者ギルドに所属していて、確かA級冒険者の称号を持っていたはず。


「そんなに驚くことか?」


「お二人がよく剣術の訓練をされているのをお見かけしました。

 私はお二人はただの剣術仲間なのかと思っておりました」


マダリン様とレフラー公爵令息が、お昼休みなどに剣の稽古をしているのをよくお見かけしました。


ですが……互いに剣術の腕を磨いているという感じで、お二人の間に色っぽい雰囲気は微塵も感じ取れませんでした。


「フッ、互いに剣を交えるうちに確信したのだ!

 この男になら私の背中を預けられるとな!」


「なるほど、そういうことだったのですね」


凄腕の剣士であるお二人には、彼らにしかわからない愛の育み方があるのかもしれません。


勉強になりました。


「イエル様ほどの腕なら国境の警備を任されている辺境伯家の婿として申し分ない。

 彼は学園の成績の方もまずまずなので、書類仕事の覚えも早いだろう」


確かにお二人なら国境の警備をお任せできます。


イエス様が辺境伯家に婿入りしたら、祖国の警備は万全になりますね。


「お二人ともおめでとうございます。 婚約式には呼んでくださいね」


「もちろんお呼びしますわ」


「一番に招待状を書こう」


お二人とも家を継ぐ覚悟が揺らぐことはなかったのですね。


素敵な婚約者を見つけて、国に帰れるなんて羨ましいです。


私はまだ次の婚約者を決める気にはなりません。


元婚約者のリック様のことはとっくの昔に吹っ切れました。


ただ婚約を破棄したことで、恋愛とか、恋人とか、結婚とかそういうのがよくわからなくなってしまいました。


マダリン様もカロリーナ様も、私がフォンジー様に恋をしてるとおっしゃいますが、本当によく分からないのです。


彼のことを思い出すと胸の音がドキドキと音を立てる、この気持ちの名前が何なのか。


それにしても、進路のことについても、婚約者のことにしても、私はお二人に大きく遅れを取ってるようです。


そもそも高位貴族で才色兼備なお二人と、平凡な自分を比べること自体が間違っているのですが。


「エミリー様、その顔はもしかしてわたくし達と自分は違う……とか考えおりますの?」


「えっ? どうしてそれを……?」


カロリーナ様は、どうして私の考えていることがわかったのでしょうか?


「エミリー様は何でもすぐに顔に出るから、あなたの感情は手に取るように分かりますわ」


そうだったんですね。これからは気をつけなくては。


「言っておくが、三人の中で一番異性に人気があるのはエミリー様だからな」


「ええっ……!?

 マダリン様、それは流石に嘘ですよね??」


カロリーナ様は容姿端麗、成績優秀、マナーも完璧、ダンスもプロ並み、完璧な淑女と評される高嶺の花。


マダリン様は眉目秀麗、剣術の腕はプロの冒険者以上、凛とした佇まいがかっこよくて、男子生徒だけでなく女生徒からも人気があります。


そのお二人を差し置いて、平凡な私がモテるわけが……。


「エミリー様の小動物のような愛くるしい見た目は、祖国にいたときから殿方に人気がありましたのよ。

 この国に来てから、わたくしがあなたに髪のセットの仕方やメイクを教えたことで、あなたの美しさには磨きがかかりました。

 わたくしがブティックを紹介し、服装のアドバイスをしたことで、垢抜けました。

 ダンスやマナーの再レッスンをしたことで、服装やメイクだけでなく仕草も洗練されました。

 そんなあなたがモテないはずがないでしょう?

 あなたに想いを寄せる殿方は、祖国にいた時以上に多いのですよ」


「そうだぞ!

 刺繍や料理が得意な君を『家庭的で良い! お嫁さんにしたい!』と言っている男子生徒が大勢いるんだからな!」


ええ……! そうだったのでしょうか?!


そのことに気づかない私は、かなり鈍感なのでしょうか?



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