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17話「再会を心待ちにする」




――エミリー視点――




私が隣国に留学してから二年が経過しました。


卒業が間近に迫ったある日、ある方から手紙が届きました。


手紙の内容は簡潔で、直接会って謝罪がしたいとのことでした。


生真面目なあの方のことだから、私が留学して直ぐに、留学先に訪ねて来ると思っていました。


ですが、予想していたより随分と謝罪に来るのが遅かったです。


もっとも二年前に彼が私のところに尋ねて来ても、彼の謝罪を受け入れられたかどうかわかりません。


二年前の私なら、きっと彼を怒鳴って追い返すか、もしくは彼の前でみっともなく泣いてしまったと思います。


そしてそのあとしばらく経過して、優しいあの方を傷つけてしまったことを悔やみ、罪悪感でいっぱいになったこと思います。


だからあの方が訪ねてくるのが、あの事件から二年が経過し、気持ちが落ち着いてきた今で良かったと思っています。


「会います」と手紙で返事を出し、それからいつ会うか細かく日時を決めました。


それから私はバタバタと忙しく過ごしています。


あの方と会う日取りは決めたのですが、場所を決めていないのです。


落ち着いて話せる良い場所はないでしょうか?


落ち着いていて、人が少なくて、上品な雰囲気で、それでいて気取っていない場所がいいのですがそんな所あるのかしら?


場所だけでなく、服も決めなくては行けません。


当日着ていく服は、質素系? 清楚系? いっそあの方の罪悪感が軽減できるように、隣国で上手くやってますよというアピールを兼ねて派手系?

にしたほうがいいかしら?


髪型は? メイクは? アクセサリーは?


考えれば考えるほどわからなくなっていきます。


「エミリー様、最近そわそわしていますがどうかされたのですか?」


「浮かれているようだが、もしかして恋人でも訪ねて来るのか?」


いつもと違う行動をしていたのを、カロリーナ様とマダリン様に気づかれて、からかわれてしまいました。


「違います! あの方はそんなんではありません!

 なんというかあの方は、幼い頃の私の目標で、清廉過ぎて近寄りがたい人で、だけど話して見ると気さくで、つまり私の兄や父のような存在なんです!

 その方が今度訪ねて来るので、良い感じのカフェかレストランを探しているんです!」


私はいったい何を話しているのかしら?


自分で言っていてわからなくなってきました。


「エミリー様、みなまでおっしゃらないでください!」


「わたし達は親友だ! 言わなくてもわかっている!」


お二人は何かを察したようです。


「それはつまり、遠方から想い人が訪ねて来るから、お洒落をしたいということですわね!」


「良い雰囲気になれるカフェを知っている! 当日は貸し切りにしておこう!」


全然、伝わってませんでした!!


お二人共何か誤解しています!


「親友のわたくし達におまかせくださいませ!

 早速ヘアメイクの達人のスケジュールを抑え、公爵家御用達のブティックに予約を入れなくては!」


「カフェで出すお菓子はエミリー嬢の手作りにしよう!

 男はまず胃袋を掴むのが大事だ!」


話がどんどん変な方向に進んでいます!


「だからそんなんじゃないんですってば!」


お二人が私を無視して、どんどん話を進めていってしまいます。


「あらでも、エミリー様。ラインハルト様の事はどうなさるおつもり? 彼あなたに気があるわよ」


「どうするも何も、ラインハルト様はただのお友達です」


カロリーナ様がおっしゃったのはラインハルト・キール様のこと。


彼は子爵家の次男で、黒髪に青い目の青年です。


彼が気さくに声をかけてくださったので、少しだけ仲良くなりました。


「エミリー様がそう思っていても、向こうは違うだろうな」


「マダリン様までやめてください! 今回訪ねて来る方は兄のような方です! だからそんなにおしゃれをする必要はありません!

 それからラインハルト様はただのお友達です!」


釘を差しておきましたけど、ちゃんと伝わったかしら?





◇◇◇◇◇◇








お二人には兄のような方に会うだけだと……何度も説明したのに。


彼に会う日、部屋を開けたらカロリーナ様と、ブティックの店長さんと、カリスマ美容師が立っていて……。


髪の毛をハーフアップにされ、毛先を少しだけカールされ、今流行りのメイクを施され、フリルとリボンがたくさんついた桃色のドレスを着せられてしまいました。


カロリーナ様ったらやりすぎです!





「待ち合わせ場所まで送ろう!」と言われ、マダリン様の馬車に乗せられて、ついた場所は一等地にある今流行りのカフェでした。


マダリン様からは、店名と住所しか聞いてなかったので、こんなにおしゃれなカフェだとは思っていませんでした。


友人から聞いたことがあります。確かカップルに人気のお店で、落ち着いた色づかいで、お洒落でモダンな雰囲気のお店だとか。


「想い人に会うにはムードたっぷりだぞ! 頑張れ!」


「だから違いますってば!」


マダリン様から謎のエールを送られました。


鍵を開けて店内に入ると、本当に素敵なカフェでした。


カフェの壁に私の刺繍したハンカチが額に入って飾られていて、一瞬困惑しました。


「エミリー様の刺繍は素晴らしい! できる女アピールも大事だ! 殿方は家庭的な女が好きだからな!」


壁にマダリン様の字で書かれたメモが貼ってありました。


マダリン様ってば何か誤解してます。


私の作品の展覧会のような雰囲気になってしまった場所で、あの方と会うのは気恥ずかしいです。


カウンターの上には高級感のあるティーカップと、高級な茶葉と金のスプーンが用意されていました。


「店員はいない。ティーセットは用意してあるので、悪いが自分で給仕をしてくれ」


カウンターにマダリン様の字で書かれたメモがありました。

 

給仕には慣れているので問題ありませんが、貸し切りにするとは聞いていましたが、まさか店員さんもいないとは思いませんでした。


この空間であの方と二人きりで会うことになるなんて……。


マダリン様が用意してくださったのはおしゃれで上品なデザインのティーカップでした。


ですが一つ気になる点があります。


ティーカップの柄が花柄なのです。


花柄のティーカップは恋人や婚約者相手に使う物です。


他のティーカップを今から用意するわけにもいきませんし、これを使うしかなさそうです。


あの方に変な誤解をされないといいのですが。


私はバスケットからアップルパイやクッキーやマフィンやマドレーヌやマカロンやカヌレや苺のショートケーキを取り出し、お皿に盛り付け、用意してあったケーキスタンドに乗せました。


「男性はまず胃袋を掴むんですよ!」

「殿方はまず胃袋を掴むんだぞ!」


カロリーナ様とマダリン様に声を合わせて言われ、彼女達に言われるままに色々と作ってしまいました。


少し作りすぎたかもしれません。


これは、久しぶりに会うあの方に「美味しい」と言って貰いたいだけで、他意はありません。


これでは本当に愛しい人と、待ち合わせをしていると誤解されてしまいそうです。


本当にそんなんじゃないのに。


気合いを入れすぎて、あの方に引かれてしまいそうで怖いです。


あの方は私のことを妹のようにしか思っていないのに……。


なぜでしょう? 今胸のあたりがチクリとしました。


今の痛みはいったい??




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