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連載版・夫婦にはなれないけど、家族にはなれると思っていた・完結  作者: まほりろ
第四章「二年後王都にて」フォンジー視点
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16話「元婚約者の本性」フォンジー視点



それから数日後、私はある屋敷のパーティに出席していた。


弟が事件を起こしてから、パーティどころではなかった。


領地にいる間もパーティーには出席できなかったので、約三年ぶりの出席となった。


今回もパーティーに参加する気はなかったが、仕事の付き合いでどうしても断われなかったのだ。


あの事件から二年が経過し、前と変わらない付き合いをしてくれる人も増えた。


だが相変わらず冷たい態度を取ってくる人達も多い。


まだまだ信頼の回復には時間がかかりそうだ。


今は、当家を信じてくれる人達を大切にしよう。







「リュート男爵、お久しぶりです」


パーティー会場で顔見知りの男爵に声をかけたが、無視されてしまった。


おかしい。数日前、教会の慈善事業で彼にあった時は、にこやかに話しかけてくれたのに。


もしかしてパーティ会場だから避けられているのか?


その後も、関係が回復した人達に声をかけて回ったが、全員から無視されてしまった。


無視されているだけでなく、遠くでひそひそと噂されている気がする。


パーティー会場とそれ以外の場所だと、こうも態度が違うものなのか?


それとも私の知らないところで何かが起きているのだろうか?


私の直感は嫌な形で当たることになる。





◇◇◇◇◇




「フォンジー、来ていたのか?」


「ナード?」


学園時代のクラスメイトに声をかけられた。


彼はナード・トロエン、子爵家の一人息子……ということになっている。


彼は茶色の髪に黒い瞳をしている。


どこにでもいるごくごく平凡な容姿…………に普通の人は見えるらしい。


彼は弟が事件を起こしたあとも、変わらず接してくれた数少ない友人だ。


「ああ、仕事の付き合いで断れなくてね。だが皆に無視されて来たことを後悔してるところだよ」


彼には不思議と弱音を吐けた。


「ちょうどいい、君に見てもらいたいものがあるんだ。来てくれないか?」


「私に見せたいもの」


「話しても信じて貰えないだろうから、直接見せたほうが早いと思ってね。君が皆に無視されている理由がわかるよ」


そう言って彼は、私の手を引いてバルコニーに連れて行った。


「カーテンの影に隠れていて、これから起こる事を見てほしいんだ。でも声を出してはだめだよ」


彼はそう言って私をカーテンの影に押し込め、自身も私の隣に隠れ、少しだけバルコニーに続くドアを開けた。


バルコニーに目を向けると、そこには数人の若い男と一人の女性がいた。 


彼らはバルコニーの窓が開いたことに気づいていないようだ。


男たちの中心にいる派手なドレスを纏った若い女性には見覚えがあった。


女は胸元が大きく開いていて、スカートの部分にはスリットが入った真っ赤なドレスを纏っていた。


あまりにもケバケバしい服装をしていたから気が付かなかったが、彼女は私の元婚約者のデルミーラだ。


彼女は私と婚約していた時は、白や水色の清楚なドレスを纏っていた。


私と別れたあとドレスの趣味が変わったようだ。


彼女の周りにいる男たちは、彼女の胸元や素足を下卑た目で眺めている。彼女はそんな男たちの反応を楽しんでいるように見えた。


弟の日記を読んでデルミーラの本性を知ったつもりになっていたが、彼女は私が思っているより数段たちの悪い人間だったようだ。


あ然としている私の耳に、デルミーラの声が響いてきた。


「元婚約者のフォンジーは酷い男だったわ。わたくしは常に彼から暴力を振るわれていたのよ」


デルミーラはそう言ってハンカチを目元に当てた。


「誠実で名を売っているザロモン侯爵がそんな人だったなんて! 幻滅したよ!」


「いや、俺は前からあの善人面の下には何かあると思っていたね。

 なんせ白昼堂々と公衆の面前で婚約破棄を宣言し、後日婚約者に謝罪するどころか、『愛人を囲うから金を出せ』というような奴が弟なんだ。

 ザロモン侯爵家ではろくな教育をしていないんだろうよ」


「可哀相なデルミーラ。今まで誰にも話せなくて辛かっただろう」


私は何を見せられているのだろう?


嘘八百を並べる元婚約者と、そんな彼女を支持する男達……。


見ていて気分が悪くなった。 


ナードは私の服の袖を引っ張ると、「大事な話がある。場所を変えよう」と小声で囁いた。


私はそれに無言で頷き、彼のあとに着いてこの場所を離れた。





◇◇◇◇◇




ナードの跡をついて歩いていると、屋敷の庭にあるガゼボに着いた。


ガゼボもライトアップされているようで、明かりには困らなかった。


「ここなら人気もないし、大事な話すのに丁度いいね」 


私は彼の言葉にコクリと頷いた。


「バルコニーでの出来事が、君が私に見せたかったものなのか?」


「ああ、君は彼女と婚約していた時、彼女に惚れ込んでいたからね。

 彼女の本性を口で説明しても信じて貰えないと思って、直接見せたんだ。

 君には刺激が強すぎたかな?」


「少しね」


人の悪口や陰口には慣れたつもりでいたが、元婚約者に悪評を広げられていたというのは、応えるものがあった。


「君がパーティに参加しないのをいいことに、彼女はああやって君の悪評を広め、悲劇的なヒロインを演じて、男達の関心を集めているのさ。

 もっとも彼女の話を信じているのは、彼女に下心のある男と、君の清廉潔白な性格を嫌っている人間だけだけどね」


先に弟の日記を読んでいなかったら、彼女の本性を知ったショックで熱を出していたかもしれない。


弟の日記を読んで、自分のことを嫌っている人間がいることと、デルミーラの本性を知っておいてよかったと思っている。


「言いたくはないが、彼女は君の思っているような清楚で純粋な人間ではないよ。

 君が領地の復興の為に王都を離れている間、彼女が王都で何をしていたか知っているかい?」


「いいや」


そういえば私が王都を離れている間、彼女がどこで何をしていたか知らなかった。


領地復興に、弟の起こした事件に、当主交代に、謝罪に……色々なことが一度におきすぎて、それどころではなかった。


以前の私なら、私がいない間デルミーラは王都で花嫁修業をしていたと思っただろうが、彼女の本性を知った今は、そんな貞淑な振る舞いをしていたとは思えない。


「僕はね、二年前君が領地復興の為に王都を離れているとき、彼女を仮面舞踏会で見かけたんだよ」


「仮面舞踏会で?」


仮面舞踏会とは、素性を隠して、一夜の関係を持ちたい貴族の社交の場だ。


婚約者や恋人がいる人間は参加しないし、貞操観念がしっかりしている令嬢は絶対に参加しない。


「デルミーラがそんなところに参加していたなんて……まぁ、彼女ならやりかねないか。

 それよりも私は君がそんなところに参加していたことの方が心配だ!

 彼女を仮面舞踏会で見かけたと言うことは、君もそこに行っていたんだろう?

 一人で行って大丈夫だったのか?

 君の身にもしものことがあったら……」


元婚約者の悪行の追求が、いつの間にか友人の心配になっていた。


「君は心配性だね。

 僕が仮面舞踏会に参加していたのは社会勉強の一環だよ。

 そういうところに参加する貴族の観察をしてただけ。

 やましいことは何もしてないよ。

 それに護衛も一緒だったから大丈夫だよ。

 ちゃんと変装していたから、僕の正体に気づく人間もいなかったしね」


「それならいいけど」


彼の護衛をさせられている人達も大変だろう。


彼は好奇心旺盛でとんでもないところに首を突っ込みたがるクセがあるから。


「くれぐれも無茶はしないでくれよ」


「わかっているよ」


本当に無茶なことをするのはやめてほしい。


第二王子が失脚した今、この国の将来を背負って立てるのは彼だけなのだから……。


「話を元に戻そう。

 彼女を仮面舞踏会で見かけた時、君と彼女は婚約中だったし、生真面目な君の婚約者がそんなことをするはずがないと思った。

 だから、見間違いだと思って君にそのことを伝えなかった。

 君は領地の立て直しで忙しそうだっし、婚約者のことで余計な心配をかけたくなくてね」


「ありがとう」


友人の気遣いが素直に嬉しい。


「だが君と婚約破棄したあと、彼女は変わった。

 変わったというか、本性を顕にしたといった方が正しいかな?

 デルミーラの最近の言動を見ていて、彼女は清廉潔白な人間ではないと確信した。

 だから彼女の過去を部下に調べさせたんだ。

 そしてあの時の仮面舞踏会に、彼女が参加していたことが判明した。

 僕の見間違いではなかったんだ。

 仮面舞踏会っていうのは……まぁそういう男女の営みも兼ねてる場だから、彼女はその時点で貞操を……」


彼は少し言いにくそうにしていた。


友人の元婚約者が、婚約中に浮気していたなんて伝えにくいだろう。


「そうか、教えてくれてありがとう」


「意外とあっさりしてるんだね。

 もっとショックを受けると思ってた」


弟の日記を読む前なら、きっとショックで床に膝をついて泣いていたと思う。


「実は弟の部屋で日記を見つけて……」


私は弟がデルミーラに洗脳されていたことを、ナードに話した。


「そうか……そんなことがあったのか」


彼は黙って私の話を聞いてくれた。


「弟の日記を読む前だったら、君から彼女の本性を告げられて、心を打ち砕かれていたかもしれない。

 だが今は、彼女の本性を知ってもそうか、という感じだ。

 彼女なら、私との婚約中に他の男性と関係を持っていても不思議じゃない」


そんな女と結婚しなくて良かったというのが本音だ。


「慰めの言葉になるかわからないけとど、結婚前に彼女の正体に気づけて良かったね」


「そう思うことにするよ」


ロルドのいうとおりだ。本当に彼女と結婚しなくて良かった。


「それと僕を始め君の人柄を信頼してる人間は、彼女の嘘に騙されていないから安心してほしい」


「ありがとう」


彼にそう言って貰えると心強い。


私は良い友人に恵まれたようだ。


「もし、彼女の家から慰謝料を請求されているなら、仮面舞踏会で彼女を見たことを証言するよ。

 相手は婚約中に不貞を働いていた。

 慰謝料を減額、いや帳消しにし、逆に君の方から慰謝料を請求できるように手助けするよ」


「助かるよ」


分割で支払っている彼女の家への慰謝料がなくなる。それだけでも、当家の生活は格段に楽になる。


「君が友人で本当によかった」


「困った時はお互い様だろ。

 僕が困った時には助けて貰うからね」


彼はそう言って冗談っぽく笑ったが、高い借りになりそうだ。







私はデルミーラとの婚約を破棄された時の事を思い出した。


私はデルミーラとの婚約中に、彼女に慰謝料を払うようなことを一切していない。


たまたま弟の起こした事件が余りにも大きかった。


だからデルミーラの家から「ザロモン侯爵家の子息と婚約していたという事実だけで損失だ」と言われ慰謝料を請求されたとき、強く断われなかった。


相手の家に迷惑をかけた罪悪感もあった。


それが彼女と彼女の家を付け上がらせる結果に繋がってしまった。


当時は私もメンタルが弱っていて、正常な判断ができなかった。


相手に言われるままに、慰謝料の請求に応じてしまった。


だが彼女が婚約中に浮気していたことがわかったので、そんな罪悪感は消え失せた。


裁判を起こし、慰謝料の減額をしてもらおう。


いや、逆に当家からデルミーラの家に慰謝料を請求しよう。


パーティに出るのは憂鬱だったが、一つ良いこともあった。


一歩前進だ。








その後、ナードの手助けもあり、デルミーラが私との婚約中に浮気をしていた事実を相手側に突きつける事に成功した。


今までアブト伯爵家に分割で支払っていた慰謝料の全額回収に成功し、浮気による慰謝料も請求することができた。


このお金はグロス子爵家への借金の返済や、領地の復興などに当てようと思う。


ちなみに婚約中の不貞がバレたデルミーラは、婚約破棄後に複数の男と関係を持っていたこともバレ、どこにも嫁げなくなり修道院に入れられたそうだ。


彼女がパーティーで触れ回っていた私の悪評も、彼女のついた嘘だと証明され、私の信頼は回復した。


デルミーラとパーティー会場でつるんで、私の悪評を広めていた男たちがどうなったかというと。


女遊びや他の悪事がバレて、婚約者に逃げられたり、実家から勘当されたりしているらしい。


自業自得なので同情する余地がない。





読んで下さりありがとうございます。

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