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連載版・夫婦にはなれないけど、家族にはなれると思っていた・完結  作者: まほりろ
第四章「二年後王都にて」フォンジー視点
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15話「愚か者でも可愛い弟だった」フォンジー視点



――二年後――



侯爵家は少しずつだが信頼を回復していた。


ある時ふと気になって、弟の部屋を訪ねた。


主のいなくなった部屋は、薄っすらと埃が積もっていた。


屋敷で一番広く、日当たりの良い部屋を、父は弟に与えた。


弟の部屋には、父や祖父が買い与えた魔導書や魔道具で溢れていた。


中には子爵が贈ってくださった貴重な魔導書も含まれていた。


虫に食われる前に虫干ししたほうがよさそうだな。


私は換気の為にカーテンを開け、窓を開けた。


爽やかな風が部屋に入ってきた。


弟はこの部屋で何を考え、あのような行動に至ったのだろう?


彼の勉強用の椅子に腰掛け、勉強机に向かって見たがさっぱりわからなかった。


本人に聞けないので、何か手がかりがほしく、机の引き出しを開けてみた。


日記でもつけていてくれれば良いのだが。


ガサガサと漁ること数分、机の一番下の引き出しから、箱に入ったノートが出てきた。


ノートには数年前の日付が記されている。


「〇〇年〜〇〇年まで」と書かれたノートをめくってみる。


予想していた通り、それは弟が幼い頃につけていた日記だった。


日記を読んで私は愕然とした。







弟が破滅した理由が書かれていたからだ。


幼い頃からリックは人付き合いが苦手だった。


しかし勉強をしていれば周囲の大人がちやほやしてくれるので、弟は勉強にのめり込んでいった。


それでますます人付き合いが苦手になった。


彼が心を開いたのは、私と私の元婚約者のデルミーラだけだったのだ。


私が当主教育で忙しく弟の相手ができない時は、デルミーラが弟と遊んでいたらしい。


確かに幼少期の二人は、よく一緒にいた気がする。


そんなある日、弟は母と二人で教会にでかけた。


私や父は用事があって教会に行けなかった。


教会のお祈りが終わると、母は顔見知りの貴婦人たちと話し込んでしまった。


退屈になったリックは、一人で教会の探索を始めた。


そこで弟は下位貴族の少年数人と出会った。


彼らは私が「下位貴族でも平等に接する」という思想の元に動いていたのが気に入らなかったらしい。


彼らは一人きりになった弟を、複数人で虐めた。


その時、弟を下位貴族から助けたのがデルミーラだった。


彼女の凛とした態度に、下位貴族は臆して逃げ出した。


それ以来、リックはデルミーラに心酔し、彼女の言うことをなんでも聞くようになった。


彼女が善人ならそれでもよかった。


だが彼女は私が思っているほど心の清い人間ではなかった。


リックの日記には、エミリー嬢と婚約した時の事も書かれていた。


弟も最初は物静かでお淑やかで、お菓子作りの得意なエミリーに好感を抱いていたようだ。


そんな二人の関係を壊したのがデルミーラだ。


リックは誕生日にエミリーから、魔導書を貰って喜んでいた。


それはグロス子爵が遠方から取り寄せた貴重な魔導書だった。


翌日、弟はデルミーラに、エミリーから魔導書を貰ったことを報告した。


彼女は魔導書を貰ってはしゃいでいる弟にこう言ったのだ。


「リック、知っているかしら?

 エミリーはあなたのことをこう言っていたのよ。

『貧乏貴族の令息を手懐けるのは、犬を手懐けるより簡単だ。骨の代わりに物をやればしっぽをふって飛びついてくる。奴らはそこらの野良犬より卑しい』ってね。

 きっとその魔導書もリックの心を得るための道具なんだわ。

 純粋なリックの心を弄ぶなんて酷い女ね」と。


その言葉を真に受けてしまった弟は、それからエミリー嬢に冷たく当たり、彼女との約束をすっぽかすようなった。










私は愚かだ。


エミリー嬢に辛く当たる弟を叱るばかりで、なぜ弟が彼女に辛く当たるようになったのか、その原因を探ろうとはしなかった。


純粋な弟は、デルミーラに騙されていたのだ。


弟の日記には、エミリー嬢がお茶会の時間に遅れたり、へんてこなお辞儀をしたり、弟から貰ったプレゼントを壊したとも書いてあった。


私の推測だが、そのことにもデルミーラが関与しているのだろう。


私が愚かでなければ、デルミーラの本性を見抜けていたのに。


そうすれば、彼らは仲睦まじい婚約者のままでいられただろう。


弟とエミリー嬢には本当に申し訳ないことをしてしまった。


日記にはその他にも、第二王子の側近になったのはいいが、第二王子やリンデマン元伯爵令息と話が合わないこと。


学園に入学してから孤独だったこと。


相談したくても、弟には相談できる相手がいなかったこと。


弟が入学したタイミングで、私は領地に行っていて長期間屋敷を留守にしていた。


私がいないので、婚約者のデルミーラも屋敷を訪れることはなかった。


誰にも相談できず、リックの心は冷え切っていった。


そんなとき彼に近づいて孤独を埋めてくれる存在が現れた。


それがミア・ナウマン元男爵令嬢で、日記には弟が彼女に心酔していく過程が描かれていた……。







ごめん、リック。


純粋で人を疑うことを知らない子だった君を、デルミーラのような女に近づけてしまって。


彼女の本性を見抜けなかった間抜けな私を許してほしい。


第二王子と歳が近いからという理由で、父が君を彼の側近に推薦したとき、私は強く止めるべきだった。


人見知りの君を独りにしてごめん。傍にいて相談に乗ってあげられなくてごめん。


私は日記に向かって、ずっと「ごめん」と呟いていた。


日が傾く頃、日記は涙で湿気っていた。












弟の部屋を出たあと私は家令を呼び、リックの捜索を命じた。


華奢でひ弱な彼が、魔法を封じられて荒野で生きているとは思えない。


それでも、万が一の可能性にかけたかったのだ。




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