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連載版・夫婦にはなれないけど、家族にはなれると思っていた・完結  作者: まほりろ
第三章「リック編前編・学園にて」リック視点
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13話「ミアとの約束と過ちと転落」リック視点




「好きよ、アルド」


「俺もだよ、ミア」


学園の空き教室。


元々は生徒会室に使われていた部屋で、部屋には机や椅子やソファーが残されていた。


部屋には鍵がかかっていたけど、アルド殿下がどこからか手に入れてきた。


第二王子の権力を使えば、空き教室の鍵を手に入れるなど造作もないことなのだろう。


放課後、アルド殿下とべナットとミアと僕の四人で、この部屋で過ごすことが増えていた。


アルド殿下とミアが長椅子の上で抱き合って、口づけを交わしている。


はじめは重ねるだけのキスだったが、徐々に深くなり……。


今二人は、ちょっと僕の口では説明できない状態になっている。


ミアと出会って一カ月が過ぎた。


ミアは「仲良しの証よ」と言って、僕やべナットの唇にもキスしてくれるようになった。


だけど四人でいるときは、アルド殿下がミアを独占するので、僕とべナットはなかなかミアとキスできない。


そうこうしている間に、下校の時間を告げる鐘がなってしまった。


「今日はここまでだね!

 また明日ね、アルド」


「ああ、また明日ミア」


殿下は鼻の下を伸ばしながら、そう言って帰って行った。


殿下に続いてべナットが部屋を出ていく。


僕が部屋を出るとき、ミアが僕のポケットに何か入れた。


「また明日ね、リック」


ミアはそう言って、僕にウィンクをして帰って行った。


皆が帰ったあと、ポケットの中を見ると一枚の紙が入っていた。


「リックへ

 明日の自習時間、図書室で待ってるわ。

 ミア」


紙にはミアの字でそう書かれていた。


明日、僕のクラスとミアのクラスは同じ時間に自習がある。


僕はそのメモを読んだとき、胸の高鳴りが抑えきれなかった。


その夜は、ソワソワしてなかなか眠れなかった。


これで殿下とべナットを出し抜ける!


翌日の自習時間に図書室に行くと、ミアはすでに来ていた。


授業中のためか、他に利用者はいないようだ。


「奥に行きましょう」


彼女はそう言ってボクの手を掴み、図書室の奥へと僕を引っ張って行く。


誰に見られるか分からないから、やましいことをするならよりひと目のない場所がいいということか。


ミアに導かれるまま、僕は図書室の奥へと進んでいく。


図書室の一番奥、歴史書の並ぶコーナーに着くと、ミアは僕に抱きついてきた。


「本当はリックとももっとこういうことしたかったのよ。

 でもアルドが離してくれなくて……」


「分かってるよミア。

 相手は第二王子だ。

 彼に迫られたら君は拒めないよね」


僕はミアの立場に理解を示す。


「リック……キスして」


その言葉を僕はずっと待っていた。


僕はがっつくようにミアの唇に自分の唇を重ねた。


本当は……庶民が友達同士でキスする風習がある……という話を心のどこかで疑っている。


学園にはミアの他にも平民が通っているが、彼らが友人同士で口づけしているところを見たことがない。


僕たちだって人前でキスしないから、彼らももしかしたら隠れて口づけしているのかもしれない。


そもそも僕は、兄上と義姉上がキスしている現場すら見たことがない。


婚約者同士の二人でさえ、せいぜいお互いの頬にキスをしあう程度の仲だった。


でももしかしたら……兄上たちもふたりきりの時には、口づけを交わしていたのかもしれない。


今の僕とミアのように……。


でもその理論だと、僕とミアは友達を超えた関係だということに……。


だけどそのとき、ミアが深い口づけを求めてきて、そんなことはどうでも良くなってしまった。




◇◇◇◇◇





そんな日々が続いたある日、ミアがびしょ濡れで元生徒会室に入ってきた。


ミアに理由を尋ねると彼女は泣きながら、

「カロリーナ・ブルーノ公爵令嬢とマダリン・メルツ辺境伯令嬢とエミリー・グロス子爵令嬢に、

『男爵家の庶子ごときが殿下や上位貴族の子息と仲良くしてるんじゃないわよ! 生意気よ!』

 って言われて、噴水に突き落とされました。

 あたしはお友達と仲良くしているだけなのに……!」と答えた。


ミアは今までも彼女たち三人に、教科書やノートを破られたり、制服にインクをかけられたり、持ち物を隠されたり、廊下ですれ違うときに足をかけられたり、色々と意地悪をされていたようだ。


でもミアは、僕たちに心配をかけないように黙っていたらしい。


なんて健気でいじらしい子なんだ!


僕はミアの話を聞いて頭に血が上った。


こんなに清楚で可憐で華奢で優しいミアをいじめるなんて! エミリーは酷い女だ!


ブルーノ公爵令嬢とメルツ辺境伯令嬢も、とんでもない悪女じゃないか!


アルド殿下もべナットも、僕と同じ気持ちだったようだ。


この時から僕たちにとって婚約者は敵となった。


彼女たちに恥をかかせ、彼女たちにとってもっとも屈辱的な方法で婚約を破棄することが、僕たちの共通の目的となった。







「カロリーナ・ブルーノ公爵令嬢!

 マダリン・メルツ辺境伯令嬢!

 エミリー・グロス子爵令嬢!

 お前たちがミアを噴水に突き飛ばしたり、階段から突き落としたり、教科書やノートや制服を破ったことは分かっている!

 ミアに謝れ!

 土下座して謝罪しろ!」


学園の進級パーティの会場にアルド殿下の声が響き渡る。


僕と殿下とべナットとミアの四人で壇上に上がり、ミアを庇うように立つ。


僕たちが壇上に上がった目的はひとつ、ミアをいじめていたカロリーナ・ブルーノ公爵令嬢、マダリン・メルツ辺境伯令嬢、エミリー・グロス子爵令嬢の三人を凶弾するためだ。


彼女たちは僕たちがどんなに問い詰めても「身に覚えがない」「冤罪です」「証拠はあるのですか?」と言って白を切っている。


彼女たちの浅ましさに辟易した僕たちは、幼い頃からの婚約者である彼女たちと縁を切る決断をした。


「「「お前のような卑劣な女とは結婚できない! お前との婚約を破棄する!」」」


僕は殿下とべナットと声を揃えて言い放った。


僕の言葉を聞いたエミリーが、ポカンと口を開け間抜けな顔でこちらを見ていた。


ブルーノ公爵令嬢とメルツ辺境伯令嬢もエミリーと同じような顔をして、壇上の上にいる元婚約者を眺めている。


このときのエミリーの顔は傑作だった。彼女を嫌っている義姉上にも見せてやりたかった。


壇上に上がったときはオドオドしていたミアも、ブルーノ公爵令嬢とメルツ辺境伯令嬢とエミリーの間抜けな顔を見て、いつもの明るさを取り戻していた。


僕たちがこの笑顔を守ったんだ。


その日僕たちは、か弱いミアを悪女から守ったヒーローになれると本気で信じていた。


これが破滅の始まりだとも知らずに……。






進級パーティで婚約者破棄騒動を起こした事が問題視され、僕たちは貴族牢へ幽閉された。


貴族の牢屋なので普通の部屋と変わらず家具もテーブルも椅子もベッドもある。


トイレとお風呂もついている。


アルド殿下とべナットも貴族牢に入れられているが、僕とは別の部屋だ。


なぜ僕たちが貴族牢に入れられなければいけないのか!?


僕たちは悪女たちからか弱いミアを守っただけなのに!


罰せられるなら悪辣な手段でミアをいじめていた彼女たちだ!


王城では文官たちが、

「進級パーティで問題を起こした第二王子は王位継承権を剥奪し一生幽閉すべきだ」とか、

「殿下を止められなかった側近の二人は貴族から除籍し、王都から追放すべきだ」

などと勝手なことを論じているらしい。


牢屋に入っていてもそういう情報は入ってくる。


食事を持ってくるメイドが直接教えてくれたり、食器の下にメモが隠してあったり。


自分が正しいと思っていても、長い間牢屋に入れられていると不安になってくる。


だけど幸いなことに、僕たちが貴族牢に入ってる時間はそんなに長くなかった。


貴族牢から出るように言われ、メイドに案内された部屋に行くと、そこにはアルド殿下とべナットがいた。


久しぶりに幼馴染の顔が見れて、少しホッとした。


自分で思っていた以上に、貴族牢での生活はきつかったらしい。


そして部屋にはなぜか、アルド殿下の実母である側妃様もいらした。


側妃様は僕たちに、

「全てはミア・ナウマン男爵令嬢のせいにします。

 みな男爵令嬢に魅了の魔法をかけられていたのです。

 わかりましたね?」

と言った。


側妃様の言い方はやけに含みがあった。


ミアは魅了の魔法なんか使えない。


仮にミアが魅了の魔法を使えたとしても、魔力量の少ないミアの魔法は魔力量の多い僕には効かない。


僕は「どういう意味ですか?」と側妃様に聞こうとした。


しかしその時、

「分かりました、母上」

「承知いたしました。側妃様」

殿下とべナットがそう言ったのだ。


僕より成績の悪い二人が理解できた話を、成績優秀な僕が理解できないのは僕のプライドが許さなかった。


殿下はともかくべナットなんか、筋肉と剣術とご飯のことしか頭にないじゃないか。


今さら僕だけ「分かりません」なんて言えない。


「ザロモン侯爵令息、あなたもよろしいですね?」 


側妃様に念を押された。


「はい、側妃様。

 承知いたしました」


僕はプライドが邪魔してそう答えることしかできなかった。


その選択が僕だけでなく、周りも破滅に導くとはこのときの僕は夢にも思わない思わなかった……。







殿下とべナットは僕より先に側妃様に呼び出され、ミアがブルーノ公爵令嬢とメルツ辺境伯令嬢とエミリーにいじめられたという話が、嘘だと知らされていた。


「キスが庶民の間では友情の表現」という話も嘘で、ミアは学園に玉の輿狙いでやってきて、手当り次第男をたぶらかしていたことなど、色々と聞かされていたのだ。


側妃様は成績がいいから僕には、

「全てはミア・ナウマン男爵令嬢のせいにします。みな男爵令嬢に魅了の魔法をかけられていたのです。わかりましたね?」とだけ伝えれば、全てを理解できると思っていたらしい。


側妃様は僕を過大評価していた。僕を一を聞いて十を知ることができる天才だと思っていたようだ。


本当は僕は言葉の行間を読むのが苦手で、一から十まで説明を受けないとわからないというのに……。


側妃様からミアの正体を聞かされた殿下とべナットはあっさりミアを捨てる決断をしていたようだ。


そんなことすら僕は聞いていなかった。


あの場にいた僕だけが、何も知らされていなかった。



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