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連載版・夫婦にはなれないけど、家族にはなれると思っていた・完結  作者: まほりろ
第三章「リック編前編・学園にて」リック視点
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12話「ミア・ナウマンとの出会い」リック視点


学園に入学して二ヶ月がすぎる頃には、僕は煩わしい人間関係を避けて、図書室で魔導書を読む時間が増えていた。


「綺麗な装飾の本ね。

 これあなたの?」


いつものように図書室で勉強している僕に、彼女はそう言って話しかけてきた。


桃色のふわふわした髪、珊瑚色の大きな瞳、陶磁器のようにきめ細かく白い肌、目鼻立ちの整った顔……。


とびきりの美少女が僕の前の席に座っていて、僕にほほ笑みかけている。


母上や義姉上も美しい人だけど二人の美しさが霞むほど、目の前の少女は整った顔をしていた。


一瞬、天使が空から舞い降りて来たのかと思って声が出せなかった。


「あれ? 聞こえなかったかな?」


彼女の話し方は貴族らしくなかった、平民の子かな?


「い……いや、聞こえてる。

 そ、その本は図書室の本だ」


美少女が側にいると思うと緊張して、声が裏返ってしまった。


「ふーん、つまり学園のものってことね。

 じゃああたしが触ってもいいんだ」


そう言って彼女は、テーブルの上に積んであった本をペラペラとめくりだした。


「ちょっと……」


学園の本だけど、今は僕が借りてるのに。


それに魔術科以外の生徒が読んだって、本の内容なんかわからないよ。


つまらないって言って突き返されるに決まってる。


「綺麗な挿絵がいっぱいだね」


彼女は魔法陣を指差しながらニコリと笑った。


魔導書を見て、そんな風に言う子は初めてだった。


「それは……挿絵じゃないよ。

 魔法陣っていって……魔法の効果を効率を上げるための物だよ。

 ……その魔法陣の右上に描かれているルーン文字はフレイ神を意味し、呼び方はフェオといって富や豊かさを……」


僕は説明するのをやめた。


「こんな話されても、つまらないよね?」


今まで僕が魔術の話をしたとき、ちゃんと聞いてくれた人はいない。


話を逸らすか、席を離れるかのどっちかだった。


彼女だってきっと……。


「あなたは魔術について詳しいんだね。

 すご~い!」


彼女はそう言ってふわりとほほ笑んだ。


魔術についての話をして、女の子に褒められたのは初めてだった。


「もっとお話しして。

 あたし、あなたの説明を沢山聞きたいな」


彼女は僕の手に自分の手を重ねてきた。


僕の心臓がバクバクと音を立てる。







「いいよ。

 これはミョルニルといって雷神トールの持ち物で……。

 これは魔石といってね……。

 この薬草の効果は……。

 この黄金の指輪はアンドヴァラナウトといって、無限に黄金を生み出すんだけど、小人の呪いがかかっていてね……。

 これはカーバンクルといってね、額に赤い宝石が……」


彼女はニコニコしながら僕の話を聞いていた。


その間、僕の心臓は全力で走ったあとのようにドキドキしていた。


「楽しかったわ。

 またお話聞かせてね」


「うん」


「まだ名前を言ってなかったね。

 わたしの名前はミア、ミア・ナウマンよ」


「僕の名前はリック・ザロモン。

 侯爵家の次男だ」


「へーー凄いのね。

 あたしは男爵家の娘よ」


男爵家と聞いて、僕の胸がギシリと音を立てた。


「どうしたのリック、急に怖い顔して?」


「……下位貴族は嫌いだ」


彼女が下位貴族だったことと、急に名前を呼ばれたことと、衝撃的なことが二つ同時に起きて、僕はどう反応していいか分からなくなってしまった。


「リックはどうして下位貴族が嫌いなの?」


また名前で呼ばれた。


「小さい頃下位貴族にいじめられた。

 それに……」


下位貴族にいじめられたことは誰にも、家族にも話したことはなかった。


下位貴族にそんな目にあわされたなんて、カッコ悪くて話せなかった。


でも不思議と彼女には話せた。


「それに……?」


「いや、それだけだ」


それに、婚約者が下位貴族だけど、とても嫌な子だから……と続けようとして止めた。


なぜだか彼女に婚約者の話はしたくなかった。


「幼い頃下位貴族にいじめられたから、下位貴族が嫌いなの?」


「ああ、そうだ」


「なら大丈夫よ。あたし、男爵令嬢っていっても庶子だから」


庶子だってことを堂々と言えるって凄いな。


「私ね、半年前に男爵家に引き取られるまで、貴族の血が流れているなんて知らないで、平民として過ごして来たの」


明るく笑ってるけど彼女も苦労したんだな。


「だからあなたの嫌いな下位貴族の血は半分しか入っていないし、あなたの嫌いな下位貴族の教育は殆ど受けてないわ。

 だからあなたがあたしを嫌いになる理由はないのよ」


「そういうものなのかな?」


「そういうものよ」


ちょっともやもやが残ったが、次の瞬間彼女に手を握られて、そんな気持ちはどこかにいってしまった。


「だからあたし達、お友達になれるわ」


彼女は花がほころぶようにほほ笑んだ。


「でも……僕たち今日出会ったばかりだし、君のこと良く知らないし……」


友達ってそう簡単になれるものなのかな?


学園に入ってから一人も友達ができなかったから、よくわからないや。


「そんなこと気にすることないわ。

 アルドもべナットも、初めて会った日にあたしとお友達になってくれたわ」


「えっ? 君はあの二人と友達なの?

 というより呼び方!

 べナットはともかく、アルド殿下はこの国の第二王子だよ!」


婚約者のカロリーナ・ブルーノ公爵令嬢だって、殿下のことを「アルド様」と様付けで呼んでいるのに。


男爵家庶子の彼女が殿下を呼び捨てにしていることを知られたら、大変なことになる!


「庶民の間では、お友達になったら呼び捨てにするのは当たり前よ」


そうだったのか? 知らなかった。


「でもアルド殿下は王族で、ここは貴族が多く通う学園で……」


「なんで?

 それにアルドの方から言ってきたのよ。

『友達なんだから呼び捨てにしてくれ』って」


殿下とは七歳から友達だけど、僕は殿下から「友達なんだから呼び捨てにしてくれ」なんて一度も言われたことがない。


殿下はそのくらい彼女には気を許してるんだ。


「まぁ、殿下が名前で呼ぶことを許可したなら……」


仕方ないか、僕が口を挟むことではないし。









「アルドとべナットから聞いているわ。

 リックはあの二人とは幼い頃からの友達なんですってね?」


「そうだけど」


「ということは……友達の友達は、あたしともお友達よね!」


そう言って、可愛い顔でほほ笑まれると何も言えなくなってしまう。


「あたしが第二王子のお友達でも、あたしのことがまだ信用できない?」


「いや、そんなことはないよ」


第二王子の名前を出されたら、信用しないわけにはいかない。


「なら今日からあたしとリックはお友達ね!」


そう言って、彼女は僕の頬に口づけを落とした。


ドクン……! と僕の心臓が音を立てる。


「な、何をするんだ!

 いきなり……!」


キスなんて、婚約者のエミリーにもされたことないのに……!


「お友達になった証よ。

 庶民はね、お友達の頬にキスするのよ」


「そ、そうなのか?!」


「アルドとべナットは受け入れてくれたわ。

『庶民の風習なら仕方ない。上に立つ者は下にいる者の風習を知らなくてはならないからな』って言ってね」


「殿下が……!?」


アルド殿下が庶民の文化を受け入れたのか。


それじゃあ僕も断れないよな。


これも将来、上に立つ者の務めだ。


「分かった、僕も庶民の風習を受け入れる」


「よかった」


そう言って、彼女は無邪気にはしゃぐ。


彼女は対面の席から僕の隣の席に移動してきた。


「お友達になっんだから、リックからもあたしにもキスして」


「えっ? でも……」


「アルドとべナットはしてくれたよ。

 それともリックにとって、あたしはまだお友達じゃないの?」


ミアは眉を下げ、泣きそうな顔をした。


「違う!

 君は……ミアは僕の友達だ!」


僕はミアに悲しい顔をさせたくなかった。


「なら、キスして」


ミアが瞳を閉じる。


キスするのはほっぺなのに、どうしてもミアのみずみずしいピンク色の唇に目が行ってしまう。


思わず生唾を飲み込むと、僕の喉がゴクリと音を立てて、その音が人気のない図書室にやけに響いた。


これは浮気じゃない!


庶民の風習に合わせているだけだ!


アルド殿下もべナットしていることだ!


僕は自分にそう言い訳すると、意を決してミアの頬にキスをした。


今まで生きてきた中で、この瞬間が一番ドキドキしたと思う。

 

ミアに近づくと良い香りがして、ミアの頬はとても柔らかかった。


「これであたしとリックはお友達ね」


ミアの頬から唇を離すと、ミアは満面の笑みを見せた。


「もっと仲良くなったら、ここにキスしてあげる」


ミアの人差し指が僕の唇を撫でる。


く、唇へのキス?


友達同士で唇にキスするのも庶民の風習なのか?!


「実をいうとアルドの唇にはもうキスしたんだ。

 あたしたち仲良しだから」


「えっ?」


ミアと殿下はすでに口づけを交わしていた?


驚きよりももやもやの方が強かった。


僕がするよりも先に、アルド殿下とミアが口づけを交わしている。


殿下に負けているような気がして……嫌な気分になった。


「べナットとリック、先にあたしと仲良くなるのはどっちかしら?」


それは僕とべナット、どちらが先にミアの唇にキスできるかってこと?


「僕だよ!」


僕は婚約者がいることも、貴族社会では婚約者か配偶者としか口づけをしないことを忘れて、そう叫んでいた。


ただただ脳筋のべナットには負けたくなかった。


このときの僕にはそのことしか頭になかった。


「そうだといいね!

 あたしもリックともっと仲良くなりたいわ!」


「べナットよりも?」


「彼よりも、あなたと仲良くなりたいわ!」


そう言って無邪気に笑うミアに僕は完全に心を持っていかれていた。




読んで下さりありがとうございます。

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