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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
一章 再会とお願い
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第9話 思わぬ再会

 冬の気配も近付いてきた十一月上旬。

 和樹はスーパーのレジに並んでいた。

 あの事件以後、とりあえず食料を切らすことはすまいと心がけるようになり、今日は買い出しに来ていたのだ。


 平日の夕方ということもあり、買い物客でスーパーはそれなりに盛況だ。

 本当はもっと遅い時間に来ればいいのだろうが、この時間だとタイムセールがあるのでそれ狙いである。とりあえず目的のものはだいたい確保できた。

 あとは会計を済ませて帰るか……と思っていたところに、予想外の声が後ろから聞こえてきた。


「あれ? 月下……さん?」


 振り返ると――懐かしいというほどではないが、一度見たら忘れられない顔がそこにあった。


「えっと……玖条さん、だよね」


 自分のすぐ後ろに並んでいたのは、カートを押した白雪だったのだ。

 少し印象が違って見えるのは、制服が冬服だからだろう。

 少しだけグリーンが混じったような濃色のブレザーに、制服のネクタイの赤が映える。

 清楚と表現するのが本当にしっくりすると思えてしまう。


「はい。お久しぶりです、月下さん」

「ああ、まあ……マンションから最寄りとは言わないけど、こっちのが安い……から?」

「はい。それに学校帰りはこちらの方が都合がよくて」


 実のところ、あのマンションからここに来てる人は、おそらくそれなりにいるのだろう。いつぞや、格安スーパーとして情報番組で報じられていたこともあるスーパーだ。

 同じマンションに住んでいても顔見知りとすらいえない間柄が普通なので、すれ違っても気付くことはない。

 ただ、さすがに彼女とは、会ったら挨拶くらいすべきだと思えるほどには、お世話になった。


「月下さんは、足はもう大丈夫ですか?」

「ああ。一応病院にもあの後行ったしね。骨に異常はなかったし変な癖もつかなかったから、大丈夫だよ。あの時は本当にありがとう」


 問題ない、という風に足を軽くトントン、とすると、白雪が嬉しそうに微笑む。

 そうしているうちに和樹がレジを済ませ、続けて白雪もレジを済ませた。

 何とはなしに、二人並んで袋詰めをしている。


「……多いね、ずいぶん」


 和樹がカゴ一つ程度で済む量だったのに対し、白雪がカートで買っていたのは、買う量の違いもあるが、何より重量物が多かった。

 油に料理酒、醤油にみりん風調味料。これだけで四キログラムはありそうだ。


「このところ文化祭の準備で忙しくて、買い物もあまりできてなかったら、色々なくなっちゃいまして」


 そういえば、学生はこの時期にそういうイベントがあったっけ、と思い出す。

 見ると、教科書などが入っているであろうカバンも、かなり重そうだ。


「まあでも、その量は無理があると思うよ。どうせ帰る場所は同じだし、持たせてもらってもいいかな?」


 実際和樹が購入したのは、白雪のそれの半分以下だ。

 他に余計な荷物もほとんどないし、この程度なら問題なく持てる。


「え……そんな、悪いです」

「それこそ、この間の恩返しだよ。どう考えてもあれはお釣りが来てたと思うから……よっと」


 エコバッグに詰められた白雪の荷物を持つ。

 和樹には大したことはないが、女性であり比較的細身な白雪にはやはり厳しい気がした。


「ありがとう、ございます」


 エコバッグに入りきらなかった調味料の小瓶などを白雪はカバンに詰める。

 それを待って、二人は並んでスーパーを出た。

 時刻は十七時過ぎ。十一月もこの時期になると、もう空は薄暮といっていい色になっている。

 そんな中、二人は並んで歩いていた。

 歩くペースは白雪に合わせているが、意外に彼女も速めに歩くタイプのようだ。

 

「この重さはちょっと無理があるよ。俺でもそれなりに重いと思うんだから」

「私も、ちょっとだけ無理しすぎかなとは思ってはいました……すみません」


 そのまま並んで道を歩く。

 おそらくこうやっていると、兄妹の様にはみられているだろうなと思っていると、なにやら考え事をしていた白雪が、意を決したように口を開いた。


「あの、差し支えなければ、なのですが……月下さんって、お仕事されているんですよね?」

「ああ、まあ一応社会人だけど」

「どういうお仕事なのでしょう?」

「へ?」


 さすがにいきなり職業について聞かれるとは思っていなかった。


「すみません、不躾な質問で。ただ、なんとなくサラリーマンだと思っていたのですが、平日のこんな時間にスーパーでお会いするとなると、普通の会社ではないのかな、というのが気になりまして」

「ああ、なるほど」


 確かに普通に平日昼間に働くサラリーマンはこんな時間にスーパーで買い物をすることはないだろう。


「そういう意味じゃ、俺はサラリーマンじゃない。いわゆるフリーのエンジニアなんだ」

「フリーのエンジニア?」


 さすがに高校生にはあまり耳馴染みのない職業だったか。


「要は、コンピューターで制御されるシステムを作るエンジニアだ。まあ、普通は会社が受注するんだけど、俺は会社に所属せずにフリーで請け負ってる。もっとも、どっかの会社が請け負った仕事の助っ人ってことが多いけど、時間が自由になるのが利点だな」


 登録派遣と異なり、定められた期間に決められた納品物を納めるなら、特に制約がない。その分、保証もなく収入が安定しにくいと言えるが、幸いにも和樹は比較的仕事がよく来てくれるくらいには評判を得ていた。


「ああ、それでパソコンがあったのですね……。ということは、パソコンとか、プログラムとか、詳しいのですか?」


 何かを期待するような眼差し。

 ただ、その意図がわからなかった。


「まあ……そうだね。素人よりは詳しいよ」


 素人と比較するのが問題外ではあるのだが、言い回しとしてはこの方が分かりやすいだろう。

 すると白雪は、足を速めて和樹の前に出て、立ち止まると振り返った。


「あの、それでしたら……よければ、お願いがあるのですが」


 それが、後の二人の方向を決定づけるとは、この時はどちらも全く想像していなかった。


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