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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
十一章 揺れ動く気持ち
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第80話 お花見開始

 他愛のない話をしていると、時間はそれなりに過ぎていく。

 白雪が今日来る予定の美幸のことを聞きたがるので、知ってる範囲を話したりしていた。妹の失敗談の話ばかりになっていた気がするが。

 というか、遅刻エピソードが多過ぎる。


 もっとも、美幸が小学生の頃の話が主で、今では改善されているかもしれないが、その望みは限りなく薄いと思っている。

 根拠は母親だ。


「いつかお会いしてみたいですね……」

「なんか美幸は白雪とニアミスしがちだからな……嫌なフラグだが」


 今日来る時にも、またニアミスしかねないという気はしている。

 少なくとも美幸は白雪のことを覚えているのは、確実だ。


 そんなことを話していると、最初に佳織と俊夫が現れた。

 時刻は十時三十五分。予定よりだいぶ早い。


「おはようございます、姫様、月下さん。すごくいい花見日和ですね」

「おはようございます、佳織さん、唐木さん。本当にいい天気でよかったです」


 二人は靴を脱いでレジャーシートに上がると、周囲を見渡した。


「すごいですね。大きな駅からほど近い場所なのに、こんなにたくさんの桜って。姫様、お誘いいただきありがとうございます」

「いえいえ。私も和樹さんにお誘いいただいたので」


 というよりは、卯月夫婦から今回の花見の連絡があったわけだが、その時点で、すでに高校生組の参加が前提の様に話されていた。ちなみに俊夫すら数に入れられているっぽい。


 そんなことを考えていると、仕掛け人――卯月夫妻――が現れた。

 十一時五分。少し遅いが、許容範囲だろう。


「やっほー。あらら。私たちが最後か」

「和樹、場所取りありがとな」


 どこかで合流したのだろう。友哉も一緒だ。

 各自、レジャーシートに陣取ると、飲み物――誠たちも追加で買ってきているが――が配られる。

 社会人組は缶ビール、高校生組はジュースだ。


「んじゃ……あれか。新年度に乾杯ってことで」

「あとあれだろ。友哉、弁護士資格取得、おめでとうって」


 誠の言葉に、和樹が補足すると、一同の目が一気に友哉に注がれた。


「え、凄いですね、滝川さん」


 白雪も驚いて見ている。

 確かに考えてみたら、ちゃんと説明したことはなかったかもしれない。


 その友哉は少し気恥ずかしそうにしているが、まんざらでもない様子だ。


「まあ、無事資格とれたよ。ありがとな」

「これからどうするんだ?」

「当面は先輩が所属してる事務所に勤めさせてもらう。いずれは企業の顧問弁護士をやれるように、かな」


 弁護士はすべての法律に強いというわけではなく、それぞれいくつか専門を持つ者らしい。

 前に知財――知的財産関連――は強いと聞いたが、それ以外はよく知らない。

 ただ、知己に弁護士がいるというのはやはり心強いとは思う。


 ちなみに、和樹もこれまで企業とは何度か契約を交わしているが、その際に文章で不安があると友哉に相談していたことはある。

 ただ、さすがに今後無償というわけにはいかないだろう。


「あとはあれですね。誠さんと朱里さん、結婚して一年ですよね?」


 白雪の言葉に、そういえば、と全員の目が二人に注がれる。


「そう……なるな。うん、やっと一年か」

「どうだ? 結婚して一年経っての感想は?」


 友哉の質問に、二人は顔を見合わせ、それから首を傾げた。


「いろいろ発見があった気もするんだが、前から知ってたことって感じもあってな。ただ、一年経ったんだなぁ、と考えるとやっぱりちょっと感慨深いな」

「そだねー。誠ちゃんとは今までもずっと一緒だったけど、毎日一緒にいるっていうのはまた違う感じ。でもそうだね。幸せなのは間違いないよ」


 そう言って笑う二人は、本当に幸せそうに見える。

 見てると、こちらまで嬉しくなるほどに。


「それじゃ、もろもろ色々おめでたいってことで、かんぱーいっ」


 結局最後はいつも通りに朱里の音頭で乾杯となった。


「ぷはーっ、美味しい~。やっぱり昼から飲むってちょっと背徳感あるけどいいよねぇ。花見ならではだよ」

「程々にしとけよ、朱里。誠、ちゃんとみとけ……遅いか」


 すでに誠は缶ビールを一気に飲み干している。

 ちなみに年長組は朱里含めて全員それなりにお酒には強いが、誠は顔にはすぐ出るので、見た目はすでに楽しそうに赤くなっていた。


「ま、いいか」


 最悪酔いつぶれても何とかなるだろう。

 見ると、友哉も楽しそうに酒を飲んで、雪奈や佳織と話していた。

 そして白雪の弁当が開かれ、ほぼ全員が感激していた。


 折り畳み式の大型の弁当箱六個にそれぞれ色々なおかずやおにぎりが入っている。

 さらにバスケットボックスにはサンドイッチなどもあり、八人でも食べきれるかというくらいにあった。


「さすが白雪ちゃんっ。すごいっ。天才っ」

「あ、あの、朱里さん。そのくらいで……」

「白雪。適当に流しておけ。あれはもうただの酔っ払いだ」

「ひどいな~。和樹君。まだ宵の口だよ?」


 酔いの口の間違いだろう、と言いたくなる。

 もっとも朱里もあれで正体を失うほど飲むことはまずないので、多分大丈夫だろう。

 そして雰囲気に当てられたのか、高校生組もテンションがやたら上がってるらしい。というか、佳織が絡み酒――酒は入ってないはずだが――で俊夫に絡んでいるように見えるが。


「友人とのお花見って私初めてだったんですけど……なんか楽しいですね」


 白雪が少し上気した様に呟いた。

 雰囲気に酔ってるというのはあるかも知れないが――ただ、和樹も楽しいのは事実だ。

 以前までの四人での花見もよかったが、心を許せる相手が増えていることに、少しだけ嬉しさもある。


(俺も少しは――前に進めているんだろうか)

 

 周囲を見ると、いつの間にか同じような人たちも増えていて、上を見上げれば美しい薄紅色の花が咲き乱れている。

 その光景は、これまではなかった新しい光景。

 社会人になって年度の変わり目すらあまり意識しなくなったとはいえ、やはり桜に囲まれていると新しい何かが始まった気がするのは、日本人ならではか――。


「あ、やっぱりいた! 兄さん、久しぶりっ」


 和樹がぼんやりしていたところに響いたその声は、唐突に和樹の意識を覚醒させた。

 それは、今ここで聞こえるはずのない声だが――。


 振り返ると、見覚えのある姿が小走りに近付いてくる。


「美幸!?」


 確かに今日来る予定ではあったが、なぜここにいるのか。

 何も教えていないはずだ。


「いや、ダメ元だったんだけどね。天気がいいから花見してるんじゃないかって思って。で、近所でお花見できそうなとこって目的なく歩いてたのよ」


 確かに家にいても水道が止まってるわけで、出かけているのは当然だ。

 そして、こっちに来る予定になってるのであれば、この辺りならいくらでも時間は潰せるから、来ていても不思議はない。

 花見をしてることは言ってなくても、推測は出来るだろう。

 それでも、こうも見事に遭遇するのは予想外だが――。

 そこまで考えて、和樹は致命的な問題に気付いた。


「おい、和樹。この子は?」

「あ、私は月下美幸です。兄さんの……月下和樹の妹です。初めまして」


 誠に質問に、美幸は自己紹介しつつ丁寧にお辞儀をする。

 そして顔を上げて、その場にいる人たちの顔を見て――。


「え? なんでこの子がここにー?!」


 白雪を見て、驚愕の声を上げる。

 和樹は思わず、天を仰いでいた。


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