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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
十一章 揺れ動く気持ち
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第78話 お花見計画

「お花見ですか?」

「ああ」


 金曜日。

 学校が終わって、着替えてから和樹の家に来た白雪に、今日連絡のあった話を共有した。


 桜の開花は三月末から四月上旬。

 ただ、最近の傾向としては明らかに三月下旬には満開になる。

 そして和樹の家から歩いて十分程度の距離に、少し桜が多くある公園があるのだ。

 桜の名所と言われるほどの場所ではないため、混雑することもなく、しかし花見を楽しむにはとても適しており、毎年誠や朱里、友哉らと一緒に花見をやるのが定番だった。


 ただ、さすがに去年は誠と朱里が結婚式を控えていたので実施されなかったが、今年は問題ないということで実施したいと連絡があったのは三月の中旬頃。

 また、友哉が無事弁護士資格を手に入れることになったので、そのお祝いも兼ねてとのことらしい。


 さらに、もう受験で忙しくなるからという理由で雪奈や佳織、さらに俊夫まで一緒にやりましょうということだが――。


「狙いは白雪のお弁当だろうな……」


 生徒会メンバーが参加して会長である白雪だけが来ないという選択肢はない。

 そして、例年であれば、駅前で花見用の弁当などを買い込んで飲み食いするのが基本だ。

 別にそれでもいいとは思うが――。


「私はいいですよ? お花見のお弁当、作るの楽しそうです」


 相変わらずの白雪がそこにいた。


「まあ……いいけどな。とりあえず、必要な買い物リストは後でくれ」

「はい、わかりました」


 普段の買い物ならともかく、大人数の材料調達となると白雪も大変なので、和樹が白雪に頼まれて調達しているのだ。

 実際、夏やクリスマスの食事会でも、材料は全て和樹が白雪の指示を受けて調達している。


 日程は開花予想などからすでに決めており、三月最後の土曜日となった。


「技術料でも払わせるか、あいつら」

「別に私が好きでやってることですからいいですよ。私も楽しんでいるんですから」


 そうはいっても悪いと思えてしまうのは、あるいは自分が自営業と言えるからか。

 白雪を見ると、早速弁当のメニューを考えているようだ。

 そういう時は本当に楽しそうに見える。


(まあ、本人が楽しそうならいいんだが)


 ちなみに先日ホワイトデーだったが、その時は白雪の希望で、和樹の趣味である山城巡りに付き合いたいと言われ、ホワイトデー直前の休みに、この辺りでもっとも有名で、かつ遺構がはっきり残っている八王子城跡に行った。

 ちょうど梅の季節だったのもあり、近くの梅まつりも行ったりと結局一日楽しんできている。

 あまり人に勧められる趣味ではないと思っていたが、白雪はとても楽しかったらしい。


 実際、誠や朱里、友哉たちと会うのはクリスマス以来だから、会うタイミングは悪くないだろう。あの二人の結婚一周年というのもある。

 そういえばそろそろ子どもの話などもないのだろうかと思うが、あの朱里が母親になる光景が想像できない。

 それでもそのうちあるのだとは思うが。


 もうすぐ新年度。

 和樹が誠らと出会ってから、もう丸七年が経過しようとしてる。

 言い換えれば、物心ついてからの人生なら、その三分の一には彼らがいる状態だ。

 多分この付き合いはそうそう切れることはないだろう。


 そして気づけば、彼ら以上に会う頻度が増してしまっているのが白雪だ。

 もうすぐ彼女の高校生活最後の年が始まる。

 それが終わる時、彼女の状況がどうなっているのかは、今の和樹には分からない。

 ただ、できるだけ彼女が幸せだと感じられる状態であることを、和樹は祈るしかなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 花見の前日の金曜日。

 白雪は今日は自宅で明日の弁当の仕込みをしているらしいので、珍しく――と言えてしまうのもどうかと思うが――今日は来ていない。

 一度だけ、和樹が買っておいた食材を受け取りに来ただけである。

 量が量で、かつ手間を考えたら、白雪の家のキッチンの方が広くて準備しやすいのは事実だ。


 手伝うことがあるかと考えたが、飲み物などを準備しておくくらいしかやることはないだろう。もっとも、それは白雪にはできないことなので、今はかなりの量の飲料――酒含む――が冷蔵庫に入っている。


 とりあえず自分一人の食事――少し寂寥感を感じるのは否みがたい――を済ませてから、明日の確認をしつつ、あとはのんびりテレビを見ていると、突然スマホの着信音が鳴り響いた。この音は、音声通話の着信だ。

 音声通話の着信は珍しい――白雪も普段はメッセージアプリで連絡する――ので、少しだけ嫌な予感がする。

 音声通話はほぼ家族――と思ったら、やはりそこには『月下美幸』の名前が表示されていた。時刻は二十三時前。普通、電話する時間ではない。


 一年余り前の、受験のために美幸がこちらにくる連絡を、母親が忘れてた事実が思い出される。

 あの時は白雪が家にいたから、本当に冷や汗モノだった。

 さすがに今はそこまでの緊急事態ではないが。


 無視するわけにもいかず、通話ボタンをタップする。


『あ、兄さんよかった、起きてた。ね、明日家にいる?』

「は? 何だ急に」


 もう寝てるかもしれないという可能性を考えていたのに電話したのかと言いたくなったが、何とか我慢する。


『あのね、私の家、なんか水道施設のメンテしなきゃならないって、明日一日水が止まっちゃうの。だから、兄さんの家に行っていい?』

「友人の家に行けばいいだろうが」

『うん、その予定だったんだけどね。予定してた子が、親戚に不幸があったとかで、急遽帰省することになっちゃってさ。今から他の子に頼めないし』


 なら兄はいいのか、とツッコミを入れたくなる。

 実際、明日は夕方くらいまで居ない。


「泊まるだけならいい。だが、明日は出かける予定があるから、夕方くらいまではいない。そのくらいは、どっかで時間つぶしておけ」

『あ、そうなんだ……うん、わかった。どっか出かけるの?』

「まあそんなところだ。昼前から夕方くらいまで居ないが、遅くとも十九時には帰ってる見込みだ。あとは連絡しろ」

『……うん、分かった。じゃ、明日お願いね、兄さん』


 それで電話は切れた。

 急な話だが、事情を聞く限り今回は仕方ないだろう。

 白雪には明日の朝に説明しておくべきかと思っていると、白雪からメッセージが来ているのに気付いた。


『明日なんですけど、場所取りとかって必要なんでしょうか?』


 例年通りなら、多少人はいても場所がないということはなかったが、今回は人数がいつもより多いというか、倍だ。

 確保しておいた方がいいかもしれないと思えてくる。

 起きているなら話した方が早いと思い、電話をかけた。


『こんばんは、和樹さん。……なんか電話って少し新鮮ですね』


 言われてみれば確かにそうだ。普段直接会っているし、家にいるならメッセージアプリの方が多いので、電話というのはかなり珍しい。


「そういえばそうだな。まあメッセージより早いと思ってな。明日なんだが、念のため場所は確保しておこうかと思うので、俺は朝九時くらいにはいくつもりだ」

『わかりました。じゃあ、私もそのタイミングで出ます。お弁当もその時に』

「そこまで急がなくてもいいと思うが……」

『集合時間十一時ですよね。それならあまり変わりませんから。それに……あの、お弁当結構重いと思うので、一緒に持っていただけると……』


 確かに考えてみれば、大人八人分の弁当だ。相当な量になるだろう。


「確かにそうだな……分かった。じゃあ、九時にそっちに行けばいいか?」

『はい。ではそれで』

「あ、そうだ。白雪、ついでだから知らせておく。明日、急遽美幸がうちに来ることになったんだ」

『え?』


 戸惑うような白雪の返事が聞こえた。

 当たり前の反応だが。

 とりあえず事情を説明すると、白雪も納得したようだ。


『それじゃあ……明日の夕食はご一緒できませんね』


 顔は見えないが、少し残念そうな雰囲気だ。

 ただ、こればかりはどうしようもないだろう。


「すまない。日曜日の午前中には帰るとは思うが」

『わかりました。残念ですけど、仕方ありません。それでは、また明日』

「ああ、また明日。お休み、白雪」

『はい。おやすみなさい』


 それの言葉を最後に通話を切る。


「なんか明日は忙しい一日になりそうだな……」


 昼から夕方にかけて花見、その後に美幸が家に来るということになる。

 あまり羽目を外すつもりはないが、程々にしてた方がいいだろう。


 とりあえず明日の準備――レジャーシートやら飲み物――を最後に確認すると、和樹は早々に寝る準備を始めるのだった。


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