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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
十一章 揺れ動く気持ち
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第76話 旧知の人たちとの再会

「ようこそ聖華高校へ。洛央院の皆様」


 一月の下旬。今年一番の寒気で底冷えするほど寒い日、聖華高校の生徒会館のホールは、多くの人々の熱気に包まれていた。

 姉妹校として提携している洛央院の高等部の生徒会役員が、聖華高校を訪れていたからだ。

 今回の目的は共同研究を主体とした交流会ではない。

 それであれば、提携したいくつかの部活動が主体となって対応するし、実行委員会が設置されて、対応はそちらの委員会が行う。

 今回のこれは、洛央院の学校行事として特別学習――修学旅行とは別らしい――というのがあり、それで東京を訪れているのにあわせて、姉妹校に生徒会役員が訪問してきたのだ。


 生徒会同士の交流という事もあり、主体となるのは当然だが生徒会。つまり主催は生徒会長たる白雪となる。

 ただ、その白雪にとってはこのイベントはやや気が重くなるイベントだった。


 洛央院中等部はかつて白雪が通っていた学校であり、同学年である高等部の生徒会の、今回訪問してくる生徒会役員八人のうち半数は、白雪が名前を見た記憶がある生徒だったのだ。


「名前を見た時はまさかと思いましたが……本当に貴女でしたか。玖条さん」

「私もまさかこのような形で再会するとは思いませんでした。斎宮院さいぐういんさん」


 斎宮院(さいぐういん)孝之(たかゆき)

 洛央院の生徒会長であり、玖条家や西恩寺家とも並ぶ、名門斎宮院家の嫡男。

 おそらく本来であれば、白雪の婚約者候補の一人に名前が挙がる人物なのだろうが、彼の場合は幼少期からの許嫁がいる。それゆえに、そこに名前が挙がることはない。

 とはいえ、当然白雪の状況を知る人物の一人だ。


 洛央院の生徒会役員は八人。

 迎える聖華高校の役員は最大でも四人しかいないが、さらに補佐委員に手伝ってもらっている。


 予定されていた催事とはいえ、実態は軽い軽食をしつつの交流というだけで、身も蓋もないことを言えば雑談するだけではある。

 この催し自体、毎年必ず行われているというものではなく、実際去年は実施されていなかったらしい。


「僕も驚きました。いえ、いい意味で、ですが。貴女は生徒会長などをやるタイプではないかと思っていたので。成績を含めて、とても優秀な方でしたが、あまりそういう……目立つことをされるタイプではないと」

「そうですね……中学の頃の私が、今の私を見たら驚くだろうな、とは思います」


 確かに孝之の言う通りだ。

 特に中学の頃の白雪は、『白雪姫』と確かに呼ばれていたが、陰では『氷のように冷たい白雪姫』等とも揶揄やゆされていた。

 実際あらゆる人に対してひどく冷めた、言い換えれば冷淡な対応しかしない人間だと思われていただろう。

 それはおそらく、この学校に来て半年ほどは同じだったのだろうが。


「今の貴女は……そうですね。文字通りの意味で、白雪姫とお呼びしたくなるほどです」


 その言葉はあまりにも予想外だったため、白雪は思わず吹き出してしまった。


「斎宮院さんでも冗談言うのですね」

「それだ。その反応。いやはや、かつての貴女からは考えられない。いい出会いがこの学校であったという事でしょうか」


 いい出会い。そういわれて、真っ先に思いついたのは、和樹ではなく、雪奈と佳織だった。

 多分彼女たちが、中学の時から変わない白雪に冷淡にされながらも、それでもめげずにずっと友達であろうとしてくれたこと。

 それがなければ、白雪の心はもっと冷えたままだったかもしれない。

 前の学校同様、『白雪姫』として憧憬の念は集め、異性として告白されることはあっても、親しくなろうと踏み込んでくる人がいない状況では、白雪の心は中学時代からさらに冷え込むだけだっただろうから。

 それを少しずつでも溶かそうと努力してくれたのは、雪奈であり佳織である。


 そして、和樹との出会い。

 あれがなければ今の自分がないことは、他ならぬ白雪自身がよくわかっている。


「そうですね。とてもいい人たちに出会えましたから」


 その時、孝之の顔が一瞬驚いたようなった。


「斎宮院さん?」


 なぜか彼は、うろたえたように顔を抑えている。


「あ、いや。なるほど、本当に貴女は変わったようだ」

「あ、会長~。今頃になって玖条さんの魅力に気付いたとか?」


 話に入ってきたのは、洛央院の女生徒。

 白雪は直接話したことは数回しかないが、よく知っている。

 名前は春日かすが美雪みゆき。中学の頃、同じ成績優秀者として何度も上位者名簿に名を連ねていた人物だ。そして彼女が、孝之の許嫁でもある。

 少し色落ちしてカールがかかった髪は天然らしいが、いかにも今風という雰囲気が、彼女にとても似合っていると思える。


「ち、違う。彼女がこっちに行ってしまったのは惜しかったというのは、否めないが。生徒会役員としてだぞ!」

「そんな言い訳いいって。今の玖条さんの笑顔、私でも惚れちゃいそうだもん」

「ち、違うっ。私はあくまで洛央院の生徒会長としてだな」


 なにやら言い訳めいていて、それがおかしく感じられた。


「久しぶり、玖条さん。でもさっきの笑顔はホントに素敵だったよ。白雪姫って言われるだけのことはあるよ、ホントに」

「春日さんも、相変わらずですね」


 孝之はいかにも名家の令息という振舞をするのだが、その許嫁である美雪は、名家の令嬢らしからぬところがある。

 この二人のやり取りだと、孝之がいつも揶揄からかわれていた。

 ある意味『今風』の女子高生っぽいというか。


 白雪は、昔はこのノリがかなり苦手だったのだが、今見ると別に普通だと思える辺り、白雪自身中学の頃より変わったのだろうと思える。


「うん。まあ私は私だし、変わらないわよ。でも、玖条さんはすごくいい方向に変わった感じ」

「ありがとうございます」

「硬いなー。まあそこが玖条さんらしいか。せっかくだし、友達紹介してよ」

「あ、はい。そうですね」


 そういうと、雪奈と佳織、それに俊夫を呼ぶ。

 とりあえずお互い自己紹介をしてもらいつつ――。


「で、佳織さんと俊夫さんは幼馴染でもあるんです。とても仲が良くて」

「姫様ー!?」「会長!?」


 佳織が何か言う前にとりあえず逃げ道を塞ぐ。

 言われた方は、顔を真っ赤にして抗議をしているが――。

 誰がどう見ても、この二人がどういう関係かが明らか過ぎて、いっそ笑えて来る。


「ああ、うん。本当に楽しそうだね、玖条さん」

「ホントにねー。こっちに行っちゃったときは寂しいと思ったけど、いい友達に会えたわけだ。って、ところで、その『姫様』って何?」

「ああ、中学の時は……その、姫様のことを『白雪姫』って呼ぶ人、いなかったんですか?」

「いや、そう呼ぶ人はいたけど……」


 雪奈の質問に、孝之が答える。

 孝之や美雪にそう呼ばれることはなかったが、中学からそう呼ばれてはいた。

 ただ、今のその呼び名と中学の時の呼び名は、その含んでいる意味がだいぶ違う気はするが。


「で、それだと他人行儀だからって、私や佳織は『姫様』って呼ぶんです。他のあだ名考えたんですけどね、あまりいいのがなくて」

「ああ、貴女が雪奈さん、だっけ。雪ちゃんじゃだめねぇ。私も『雪』だけど』

「考えてみたら、ここに三人も『雪』が付く人がいるんですね」

「よし、ここは『雪三姉妹』と名乗ろうーっ」

「おー、いいですねーっ」


 美雪の宣言に、ノリノリの雪奈。


「ちょ、ちょっと雪奈さん、春日さん!?」

「ちょい待ち。白雪ちゃん。なんで彼女は『雪奈さん』で、私が『春日さん』なの。そこは親しみを込めて『美雪ちゃん』と呼んでくれないと」

「あ、あの……?」

「姫様、差別はよくないです、差別は。雪三姉妹としてお互い親しく呼び合うべきです」


 そう言って、雪奈と美雪が肩を組み合って楽しそうに笑っている。


 混ぜるな危険。


 なぜかそのフレーズが頭をかすめた。

 ここに朱里を加えたら、どうなるか見たいような怖いような気分だ。


「斎宮院さんも……色々頑張って、下さい、ね?」

「ああ……玖条さんも、なかなか楽しい友人がいるようで、何よりだ」


 そう、少し呆れ気味に応える孝之は、斎宮院家の令息というより、ごく普通の高校生に見えた。


 この交流会、始まる前は、以前の知り合いに会うのが、ただ憂鬱に思えていた。

 だが、実際に話してみれば、かつて記憶と結びつかないのではと思うくらい、普通に、あるいは楽しい時間を過ごせている。


 今にして思えば、中学の頃の自分は、周囲全てを拒絶するかのような態度を取っていた。

 そんな有様では、他の人だって対応は冷淡になる。

 その変化のきっかけは、やはり雪奈や佳織であり、そして和樹なのだろう。


 あと、一年あまり。

 たとえその短い間であろうと、その一日一日を胸に刻み付けようと、白雪は固く決意するのだった。


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