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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
十章 二度目の年末年始
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第73話 帰宅と初詣計画

 正月三日目の二十三時過ぎに、和樹は新横浜駅にいた。

 白雪から連絡があったのは二十一時過ぎ。

 予定通りなら、二十三時半には新横浜駅に到着する。


「またやたら疲労してないといいんだが」


 去年、疲労困憊で和樹の家に入ってきたのは、いまだによく覚えている。

 もっともあの時は、普通席で帰ってきたとのことだったから、二時間以上たちっぱなしだったのだろう。疲れて当然だ。


 あれからちょうど一年。

 思えばあの時以降、白雪との距離が大幅に縮まったというのは、間違いない。

 その意味では一周年の記念日と言えるが、さすがに今日に関してはさっさと家に帰って寝てもらわなければならない。


 ホームで待っていると、新幹線の到着を知らせる音声が流れた。

 やがて、滑るように新幹線が入ってきて、停車する。

 そして、ホームドアが開き――。


「おかえり、白雪」


 聞いていた通りの扉から白雪が出てきた。

 和樹を見つけると、嬉しそうに微笑む。

 その美しさに一瞬呆けそうになるが、すぐ気を取り直した。

 ただ、その笑顔を見る限り、去年に比べれば状態はずっといいように見える。


「はい、ただいまです、和樹さん。本当に来ていただけるとは。でも、嬉しいです」

「この方が安心できるしな。実際、高校生が出歩いていい時間ではないだろうし」


 そういうと、和樹は白雪の持つキャリーケースの取っ手を取った。

 白雪は一瞬「あ」とだけ言ったが、そのまま任せることにしたのか、手を引っ込める。


「もう遅いからな。タクシーでいいか?」

「はい。私も去年そうでしたので。あ、さすがにそれは私に出させてください」

「……わかった」


 改札を出てタクシー乗り場に並ぶと、他にもタクシーで帰る人が十組ほど並んでいる。幸い台数が多かったようで、十五分ほどでタクシーには乗り込めた。


「前ほどは……疲れてないか」

「そうですね。ペース配分を覚えたのかもです。気の持ち方というか」


 やはり、去年に比べると遥かに体調はいいらしい。

 少しだけ笑うその顔にも、翳りはない。

 この正月のイベントは、来年は受験生だからわからないが、この先も彼女は関わらざるを得ないことを考えると、慣れるのはいいことだろう。

 などと思っていたら、白雪が頭を、和樹の肩に預けてきた。


「白雪?」

「すみません。やっぱり、少し疲れてるので……ダメですか?」

「別にそのくらいは構わんが……」


 相変わらず距離感が近すぎる気はするが、家族なら別に普通だろう。

 昔妹も、甘えた時に良く膝枕を要求してきたから、それよりはマシだ。


 深夜かつ正月ということもあり、車は非常にすいていたため、二十分ほどでマンションに到着した。


「素直に部屋に帰れよ?」

「わかってます。あ、でも明日は朝からお邪魔したいです」

「いや、俺は一応仕事があるんだが」

「邪魔はしません。食事の準備だけさせていただければ」


 実際、夏休みなどもやっていたパターンではある。

 そしてお昼時に昼食が出来上がってる状況というのは、確かにありがたい。


「朝からというが、九時頃でいいな。大晦日のパターンはさすがに勘弁だ」

「う。ダメですか」

「やる気だったのか」

「ちょっとだけ」

「まずはちゃんと寝ろ。眠そうにしてたらダメだぞ」


 とりあえず再度釘を刺すと、さすがの白雪も九時頃というのは承知した。

 こういうところで約束を違えることはないという信頼はしてるので、一安心する。


「じゃあお休み、白雪」

「はい。おやすみなさい、和樹さん」


 一応扉の前まで送ったが、白雪は素直に家に入っていった。

 とりあえず一安心して、和樹も家に戻る。


「去年よりは大分よさそうだが……実家でいいことでもあったのか」


 それであれば和樹としても安心できるが、正直に言えば、あまり期待できないと思っている。

 和樹では想像もできないが、『玖条家』という名の白雪に対する重圧プレッシャーが、そうたやすく和らぐとは思えない。

 あるいは、こちらに戻ってくることで、自分に会うことで復調しているのなら、それは家族冥利に尽きるが、和樹がいつまでも白雪のそばにいることができるわけではないだろう。

 元々、本来は住む世界が違うのだ。


 それでも、彼女がそばいる限りは家族として支えていく。

 彼女が幸せであるために、できるだけのことをする。

 それは彼女の両親の墓前に誓ったことであり、和樹にとっては今や最優先事項の一つになりつつあった。

 遠からず終わる関係なのはわかっている。

 おそらく白雪の高校卒業が大きな分岐点(ターニングポイント)だろう。

 その時、彼女がより良い未来がつかめることを――和樹は祈らずにいられなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「初詣?」


 仕事始めの一月四日のお昼ご飯の最中に、白雪が切り出してきた。


「はい。できれば……また行きたいのですが。あ、でも和樹さん済ませてます?」

「いや、実はまだだ。以前は毎年善光寺行っていたんだが、実家が引っ越しててな。行くのが大変で、結局後でとなったというか、多分うちの親や美幸は、今日あたりに行ってるんじゃないかな」


 美幸はこっちで初詣は済ませているが、行かない理由もないだろう。


「長野の善光寺、ですか?」

「ああ。以前は長野市内に住んでいたから近くて行っていたんだが、今の実家は軽井沢の辺りでな。車でも電車でも一時間以上かかる。だから、混んでいる正月は避けたくていかなかったんだ。善光寺自体は元旦以外はそれほどでもないんだが」


 実のところ、ものすごく寒かったから全員行く気がしなかったというのが実情だ。

 さらに言うと、行くなら二日だったのだろうが、その日は大雪で、車の運転を誰もしたがらなかった――免許取りたての美幸以外――ので、見事に引きこもりの正月を過ごしている。


「なるほど」

「そんなわけで俺もまだ行ってないが……」

「でしたら、もしよければ、また鎌倉とか」


 少し考える。

 行くなら平日に限る。

 年始早々に仕事がいくつか入っているが、締切はいずれも月末。

 時間的には余裕がある。

 そして調べてみると、今年もまた江ノ島ではイルミネーションがやっていた。

 去年行ったっきりだから、また行くのは悪くない。


「それじゃあ、明後日行くか」

「いいのですか?」

「……去年もこんな会話したな。まあ大丈夫だ。現状、去年よりむしろ余裕があるくらいだ」

「はいっ」

「もう最初から一日遊ぶつもりで行くか。前回行けなかったところもあるし、白雪も先に行きたいところ探しておいたらどうだ?」

「じゃあ、がんばってピックアップしますね」


 そういう白雪は、本当に嬉しそうで、提案したこちらが嬉しくなるほどだった。


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