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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
十章 二度目の年末年始
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第68話 大掃除

 十二月二十九日。

 あと二日で今年が終わるというこの日に、和樹は白雪の家にいた。

 そしていろいろと走り回っている。


 年末。

 白雪が日本人よろしく大掃除をすると言っていたのを聞いて、その手伝いを申し出たのだ。

 実際、あの家を一人で掃除するのは本当に大変だと思う。

 白雪も普段から全てを掃除しているわけではないらしく、いわゆる『開かずの間』的なものも結構あるらしい。

 だが、年に一度の大掃除では、さすがにそこも掃除するとのことで、一人では大変だろうから、という申し出に、白雪は本当に嬉しそうにそれを承知した。

 実際大変だというのはあったのだろう。


 掃除機については和樹の家から持ち出した。

 さすがに白雪の家も掃除機が二台あるということはないが、どうせ二人でやるなら同時にやった方がいい。


 白雪曰く、いわゆるゲストルームの掃除は基本ほこりの除去と掃除機掛けだけでいいらしい。

 水場は全く使ってないので、水垢汚れなどが生じるはずはなく、掃除機さえかければ問題はないという。

 一応最後に水を流して、それをふき取るらしいが。


 というわけで、和樹はとりあえずゲストルームを掃除しているのだが――。


「これがゲスト用とはね」


 和樹の家のリビングに匹敵するような広い部屋に、大きなベッド――さすがにマットレスのみ――とテーブル。それに洗面所にトイレ、風呂まである。

 これにキッチンさえあれば、下手な1LDKマンションより遥かに豪華だ。


 換気機能が行き届いているこのマンションだけあって、埃などはあまり積もっていなかった。

 掃除の原則に従って上から下に埃を払って、最後に床に掃除機をかける。

 それから窓ガラスの掃除。

 この部屋からもバルコニーに出るガラス戸があるので、それを丁寧に掃除する。

 一時間ほどで、ゲストルーム全体の掃除は終わった。


「白雪。とりあえず終わったと思うが、念のためチェックを頼めるか?」


 リビングに戻ると、白雪がガラスを掃除しているところだった。


「あ、はい。あとで行きます。先にこちらを終わらせようかと」

「手伝うよ。上の方は俺なら台が要らないしな」

「……そうですね。お願いします」


 天井がやや高く作られているこのフロアは、当然バルコニーに出るガラス戸も普通よりやや高い。

 和樹であれば手を伸ばせば上まで届くが、白雪では台を持ってこないとならないのだ。


 一通り終わった後に、ふとピアノが目に入った。

 ピアノは年に一回は調律が必要だと聞いたことがある。


「これ、整備というか調律とかってやってるのか?」

「はい。一応秋口に。あ、来ていただいているのは女性の調律師なので、心配はなさらなくて大丈夫ですよ」


 心配が顔に出ていたのか、白雪が補足する。

 さすがに白雪一人のこの家に男性一人を入れるのは――家族枠になってる自分は例外としても――ないらしく、少し安心した。


「前聞かなかったが、やっぱりピアノも弾けるのか?」

「はい。いろいろ習い事をさせられた中に、ピアノと……あとは楽器だとヴァイオリンと(こと)をやりました。ピアノは母もやっていたので、それで私も好きですし多分そこそこは弾けますが、ヴァイオリンや箏はあまり得意ではないですね。一応発表会とかに出るくらいにはなってますが、最近は全くやってないので錆び付いているかもです」

「すごいな。俺は楽器はさっぱりだから、尊敬する。中学までのリコーダーくらいだ。今度聴かせてもらいたいな」

「あ、それなら誕生日はピアノで演奏すればよかったでしょうか」


 生演奏付というのは魅力的だが、恥ずかしさの方が先に来そうだ。


「それは……また今度で。っと、そろそろお昼か」


 いつの間にかお昼になっていた。

 お昼は白雪がラーメンを作ってくれた。

 生麺タイプの市販品だが、トッピングに自家製チャーシューがあるのはさすがだ。


「冬のラーメンはやはりいいな……」

「ですね……でも私、ラーメン屋って行ったことないんですけどね」

「そうなのか。一度くらい行ってみるか?」


 ここなら徒歩で行ける距離にも数多くの名店がある。


「今度ぜひ。……あ、そうでした。和樹さん、年末年始のご予定は?」

「そういえば言ってなかったな。帰らないつもりだったんだが、美幸と一緒に帰ってこいと言われてしまってな。今年は仕方なく帰省する」

「あ、そう……です、か……」


 明らかに白雪ががっかりしたような顔になっていく。


「あ、いや。帰るのは元旦だ。大晦日まではこっちにいる。どうも美幸が友人と初詣に行くらしくてな。だから、去年と同じでいいか?」


 とたんに白雪が、パッと嬉しそうになる。

 あまりにも分かりやすすぎて、笑いそうになるのをかろうじて堪えた。


「去年の白雪と同じで、元旦早朝に帰省だ。京都に行く白雪とは方向が違うが」

「あ、でもそれなら、途中までは御一緒できますよね?」

「白雪は新横浜からじゃないのか?」

「最寄りはそうなんですが……送られてきたチケット、東京駅からになってるんです。だから、東京駅からでも乗れるんですよ。東京と新横浜の区別がついていないんじゃないかと」


 なんともアバウトな予約だ。


「美幸さんとは待ち合わせは?」

「東京駅だ。あいつの家は都内だからな」

「じゃあ東京駅までは一緒に行きましょう」

「……それは構わないが、その状態で美幸に遭遇するのは勘弁な」

「さすがに分かってます。お帰りは?」

「三日目の夕方には家にいるよ。翌日から仕事もあるしな。ただ、去年みたいなことは勘弁だぞ」

「……はい」


 去年、深夜に帰ってきた挙句、疲労困憊で和樹の家に転がり込んできた。

 さすがにあれを繰り返すのは良くない。

 もっとも、あれがきっかけで今の関係が構築されたわけだが。


「私も三日目の夜には帰るつもりです。今回は最初からそのつもりで、終電近くなってますが予約もしてありますので」

「……てことは、去年はもしかして、無理矢理普通席で帰ってきたのか」


 白雪がしまった、という顔をしている。

 もう過ぎたことではあるので怒るつもりはないが。


「……白雪。帰りの電車に乗ったら、連絡をくれ。駅まで迎えにいく」

「え?」

「前科持ちだからな。家にきっちり送り届けないと不安だ」

「し、信用ない……です?」

「この件に関してはないな」


 というか、深夜に会いたくなって来られるくらいなら、最初から迎えに行ってきっちりマンションの部屋まで送り届ける方がマシだ。

 白雪は頬を膨らませていたが――来てもらえること自体は歓迎したいらしい。


「まあ、細かい時間はその時に。さて、そろそろ再開するか?」

「あ、はい。そうですね。ちなみに夜ご飯の準備は済ませてます。今日はお鍋です。あ、今日だけはこちらで食べていってくださいね?」

「ああ、わかった」


 さすがに掃除を終えてから和樹の家に行くのはそれはそれで手間だろう。


「あと、明日は和樹さんの家の大掃除ですから」

「いや、別に俺の家は……」

「やります。やらせてください」

「……はい」


 なぜかこういう時の白雪には反論できない。

 こと、家事能力に関しては明らかに白雪の方が上だからだろうか。


「じゃあ再開しましょう。和樹さん、よろしくお願いします」

「ああ、頼まれた」



 夕方過ぎまでかかった大掃除の後の食事は、本当に美味しかった。


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