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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
十章 二度目の年末年始
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第67話 プレゼント交換会

 一通り食事が終わって、片付けをやっている白雪と和樹以外は、全員リビングやダイニングで文字通り伸びていた。

 白雪が台所に入り洗い物をしていて、和樹が順次食器を運んでくるという役割分担である。


「ごめん~。手伝うべきだとはわかっているんだけど……食べ過ぎた……」


 白雪が洗い物をしつつ、ふとダイニングを見ると、朱里が完全にグロッキー状態で、テーブルに突っ伏している。

 実際彼女は、あの小さな体のどこにあれだけ入ったのかと思えるくらい、食べていた。これだけみたら、本当に食べ盛りの小学生か中学生にも……やはり見えてしまいそうになる。


「この後ケーキがあるんだが、入るのか?」

「大丈夫~。甘いものは別腹だから~」


 和樹が呆れたように「はいはい」と言いつつ、食器を持ってきてくれた。

 白雪は手早くお湯で汚れを落として、食洗器に入れる。

 使った数が多いので、一回では洗いきれないから、さっさと回してしまった方がいい。


 一通り片付けが終わると、白雪は冷蔵庫からケーキを出した。

 去年は二人用だったのでずっと小さかったが、今回は八人なので、完全なホールケーキである。

 これだけは、実は家で作ってきた。

 設備や道具の都合で、さすがに和樹の家で焼くのは厳しかったのだ。

 その間に、和樹はお茶の準備をしてくれている。


「お待たせしました。皆さん」


 白雪の言葉に、歓声が上がる。


「わ、すごい。これ、もしかしなくても姫様の手作り?」

「はい。さすがにこのサイズのケーキは久しぶりですが、上手くできたと思います」

「姫神様のケーキじゃー」

「佳織さん!?」


 夏の時同様、なにやら崇め奉らんばかりの勢いで佳織が拝んできた。

 恥ずかしいから止めてほしい。

 一方で朱里が感心したようにケーキを見ている。


「でもホントにすごいよ。私もケーキ作るけど、こんなホールケーキは全くないっていうか、できると思えない。もう少し小さいのならあるけど……でもこれ、もしかしなくても、スポンジから?」

「はい」

「すごいな……朱里が前に作った時も、スポンジは市販だったよな」

「うん。っていうかスポンジってきれいに焼くの、すごく難しいのよ。このサイズならなおさら」

「あ、ですので……大丈夫だとは思うんですが、変だったら言ってくださいね?」


 一応大丈夫なことは確認したつもりだが、さすがに久しぶりなので、絶対の確証はない。


「見た目もきれいでクリスマスっぽいねぇ。売ってるものみたい」


 もうお腹が復活したのか、朱里がケーキに目を輝かせている。

 スポンジは三層に切ってあって、間に生クリームとチョコレートクリームを挟んでいる。クリームの中にはクラッシュしたクルミなどのナッツが入っていて、食感も楽しめるようにした。

 その上で全体をチョコレートクリームでコーティングしてから、さらに生クリームでデコレーションして、それを雪に見立てたデザインだ。

 上にはクリスマスっぽい緑や赤の飾り砂糖やフルーツで装飾してある。

 チョコクリームはカカオを強めにしていて、甘さを全体的に抑えているので、和樹や、他の男性陣でもそこまで苦手ではないだろう。


 ケーキを全員に切り分けて、お茶の準備も完了。


「じゃ、いただきますー」


 今度は雪奈の号令で全員ケーキを食べ始める。


「美味しい~♪ 姫様、お菓子作りも上手なんですね。この間のプリンでわかってましたけど」

「会長って本当に料理上手なんですね。佳織から聞いてはいたけど、これほどとは思わなかったです」

「ホント、どうやったらこんなの出来るのか聞いてみたいくらい。姫様、今度学校の調理実習でぜひ実演を」

「あとこのお茶も合うねぇ。これも白雪ちゃんが?」

「あ、いえ。これは和樹さんが用意してくれたものです」


 どういうケーキを作るかだけ聞かれて、お茶それ自体は任せてしまったが、ケーキにとても合うお茶になっている。

 お茶をいろいろ持っているのは知っていたが、やはりお茶に関しては和樹の方がいろいろ知識が深い。


「そういや和樹は茶道楽だったな。いいチョイスだ」

「親の影響だがな。そんなに詳しいわけじゃないが、甘いもの食べるならこれ、というくらいならまあ」

「コーヒー党の友哉が和樹のお茶だけは飲むからなぁ」

「別に俺はコーヒー党ってわけじゃない。いつもコーヒーを淹れてるのは認めるが」

「それをコーヒー党っていうんじゃない?」


 ケーキも食べ終わったところで、いよいよプレゼント交換会となった。

 ただし今回の形式はちょっと特殊だ。

 朱里の発案で、一人一つ、クリスマスプレゼントを持ちよって、ランダムにプレゼントしよう、ということらしい。

 高校生が参加者全員分プレゼントを用意するというのは負担が大きいだろうという配慮で、それ自体は白雪はともかく雪奈や佳織、俊夫にはありがたかったと思うが、単にゲーム的に楽しみたかっただけという気がする。


 手順は簡単で、まず各自、最初にトランプでランダムに番号が配られる。その番号は誰にも教えない。その番号が自分のプレゼントの番号になる。


「よーし、全員自分の番号把握したね? じゃあ……どうぞ!」


 今度はテーブルの上に、エースから八までのトランプが数字を表にして置かれた。


「じゃ、順番に……素敵な料理やケーキを提供してくれた白雪ちゃんからどうぞっ」


 なぜか朱里がとても楽しそうだ。

 自分の番号はわかってるから、自分のプレゼントを取ることは通常ない。

 白雪の自分のプレゼントの番号は二番。トランプはせっかくなのでエースを取る。

 続いて各自がカードを取っていく。


「ではそれぞれ順番に……まずエースの人ーっ」

「私ですが、一番のプレゼントは……」

「あ、私ですね」


 白雪の宣言に佳織が手を挙げて、プレゼントを渡してくれた。

 手のひらより少し大きいくらいの箱だ。


「姫様にもらってもらえるのはちょっと嬉しいです」

「開けてもいいですか?」

「もちろんです」


 開くと、クリスマスデザインのスノードームだ。

 中にいるサンタ服を着た猫のキャラクターがとても可愛い。


「ありがとうございます、佳織さん。とても可愛いです」


 そして次々に交換が進む。

 白雪の用意したプレゼント――ガラスのフォトフレーム――は友哉が引いた。

 和樹は朱里のプレゼントを引いていたが、開けた途端微妙な表情になっていて、朱里も笑いをこらえていた。その場では見せてくれなかったので、あとで聞いてみることにする。

 和樹の用意したプレゼントは雪奈が引いていた。

 やや大きめのタンブラーで、これからの季節には重宝しそうだ。

 雪奈が「交換します?」と言ってきたが、さすがにそれは遠慮した。


 そうしてひとしきり終わって、談笑したりゲームをしていたりしたら、時間はもう九時近くになっていた。

 さすがに高校生としては限界時間だろうということで、お開きとなる。


「お疲れ様ー。みんな、良いお年をねー」


 さすがに今回は酒を飲んでいるので、誠や朱里も電車で帰るらしい。

 白雪は近所だから片付けを手伝ってから帰るということで、まだ一人残っていた。


 つい先ほどまで人が溢れていたが、いきなりとても静かになったような気がする。


「お疲れ様でした、和樹さん」

「白雪の方こそお疲れ。大変だっただろう」


 白雪はしばらく顎に指を添えて考えてみたが――。


「大変だったより楽しかった方が大幅に勝ちますね。本当に楽しかったです」

「そうか。それならよかったが」

「そういえば、和樹さんのもらったプレゼントは何だったんですか?」

「いや、別に大したものでは」

「なんか朱里さんが笑っていたので気になるんですが……」


 悪いと思いつつ好奇心の方が勝る。

 ずっと見つめていたら、和樹が折れたのか、紙袋を渡してきた。

 中身を見てみると――とても可愛いウサギの置物が入っている。

 確か海外発の有名なキャラクターだ。

 それの陶器で作られた置物らしい。


「可愛いですね、これ」

「もらってくれていいぞ……白雪ならともかく俺はこういうのは……嫌いとは言わないが、飾るのはあまりしない」


 和樹がこれを並べて喜んでいたら……と想像してみると。

 それはそれで可愛いと思えてしまう。大変失礼な感想だが。


「というか、男がもらったら微妙な奴をあんなのに混ぜるな、と言いたい」

「まあ、確率半分くらいで女性が当たったでしょうし……」

「逆に言えば半分以上男が当たったんだが。まあ誠が引いたらそれはそれでありだったんだろうが」

「でもこれ、洗面所とかに飾るならありじゃないですか?」

「そうかもだが……」


 いうが早いか、白雪は洗面所の空いている棚に置いてみる。

 色が白いこともあり、意外にマッチした。

 違和感もない。


「ほら、これならちょっと可愛いワンポイントです。男性の一人暮らしでもおかしくないかと」

「……まあ、いいか」


 それから和樹はリビングに戻ると、カバンの中から別の小さな、だがきれいに包装された箱を出す。


「ランダムで交換会になったけど、それとは別で、だ」

「あ……いいのですか?」

「ダメだったら渡さない。いつも食事を作ってもらってるお礼だと思ってくれ」

「ありがとうございます……開けても?」

「もちろん」


 開くと――入っていたのは腕時計だった。


「前にブレスレットを付けていたこともあるから、腕に着けるのはありだと思ってな。ま、時間なんてスマホ見れば足りるとかも知れないが……」


 確かに腕時計は持ってない。言われた通り、スマホがあれば時間確認は困らないので、雪奈たちも基本的に使っていないが、たまに使っている生徒はいる。

 確かに和樹もいつも腕時計をしていた。


 それに、この時計のデザインはとても気に入った。

 金色の文字盤に可愛らしい数字が刻まれていて、全体としてはとても洗練された印象だ。

 つけてみると、思った以上に気にならない。そして、腕を見る、という動作一つで時間がわかるというのは悪くない。スマホは普段カバンにはいっているから、時間を確認するためだけに取り出すのは少し手間なのだ。


「ありがとうございます。腕時計使うことって今までなかったのですが……結構いいですね」

「それはよかった。ちょっと気に入ってもらえるかはわからなくて不安だったんだが」

「でも、これ、結構高いのでは……」

「一応社会人だからな。このくらいさせてくれ」


 見たところ、少なくとも数千円程度のものではない気がする。

 ただ、それでも自分のために選んでくれたという事実が白雪には嬉しかった。


「ふふ。和樹さんにいただけるものであれば私は嬉しいですよ。実は……私もあります」


 持ってきてたバッグから用意していたプレゼントを取り出す。

 こちらは紙袋だ。


「開けてもいいか?」

「もちろんです」


 出てきたのは、マフラーだ。


「これからさらに寒くなるし、これはありがたい……ん? マフラー、タグがないが、もしかして……」

「はい。ちょっと頑張りました」


 青蘭祭以降、生徒会の仕事に余裕があったが故である。

 中間考査があったが、時間を見つけて頑張って何とか編み上げた。

 和樹の家に行く頻度を減らさないようにしていたので、スケジュールの調整は実は苦労したが、苦労の甲斐あって自分でもよくできたと思っている。


「すごいな。手編みなんて、お話の中だけの存在だと思ってた」

「それはそれで極端な意見かと。本当はセーターを頑張りたかったのですが、さすがに間に合わないと思って」

「いやいや。十分過ぎる。ありがとう、大切にするよ」

「しまい込まずに使ってくださいね?」

「ああ、もちろん」


 和樹がマフラーを早速巻いてくれた。

 自分が作ったものをまとってくれていることが、なぜか嬉しい。


 ふと――先ほどもらったばかりの――時計を見ると、もう十時近い。

 さすがにこれ以上は良くないだろう。


「それでは今日は失礼します、和樹さん」

「そうだな。お休み、白雪」


 玄関まで送ってくれる。

 帰るのは本当にすぐなのだが――ギリギリまで見てくれているのだと思うと安心できた。


「メリークリスマス、和樹さん」


 別れしな、もう一度振り返った。

 和樹はまだそこにいてくれて――


「メリークリスマス、白雪」


 その言葉が、なぜかとても嬉しく思えた。


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