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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
九章 文化祭
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閑話6 クラスメイト達の動揺

 四時を過ぎると、あと三十分で今日の催しが終わる全校アナウンスが流れ、来客が少しずつ帰っていく。

 少なくとも表向き、大きな事件トラブルもなく、青蘭祭一日目は無事終了しようとしていた。


 ただし、一部の生徒たちにとっては、むしろとてつもない衝撃をもたらした一日目であった。


「あ、あの白雪姫と一緒にいた男、誰なんだ!?」

「白雪姫が招待した人らしいってことは聞いたけど……女子の間じゃ『王子様』なんて呼ばれてるらしいぞ」

「俺、手を繋いで歩いていたの見たぞ。他からも聞いた」

「来場者名簿に名前とか書いてあるんだろ? 誰か知らないのか?」


 だが、もちろん誰も知らない。

 来場者名簿への記名は確かに行われているが、それの管理は生徒会が担当している。受付にいたのも補佐委員だ。

 そして、特に来場者に対する守秘義務は、徹底されているのだ。


 もちろん、大抵は自分の親などを呼んでいるため、クラスに来れば必然的に紹介され、誰もその素性について疑問に思うことはない。


 だが、あの玖条白雪――通称白雪姫――が招待したという男性については、彼女自身が結局全く紹介していないため、誰だか全く分からないままだった。

 ただ、一日目が始まった直後、あの白雪姫が、滅多に見せることがないほど嬉しそうな微笑み――お姫様の微笑(プリンセススマイル)などと男子の間で呼ばれている――を見せて、彼を迎えたのは、クラスにいた生徒全員が見ている。

 挙句、その男性の手を取って、文化祭を一緒に回っていたという。


「お前補佐委員だろ。名前くらいいいじゃないか」

「ダメです。それは絶対にするなって厳命されているんだから」


 そう、クラスの生徒会補佐委員に詰め寄る者もいたが、彼女らも頑なに口を割らなかった。

 それに、名簿それ自体は生徒会役員のほか、受付担当の補佐委員しか閲覧できない。教師にすら、必要がない限りは開示されない。

 そして受付担当は、補佐委員の中でも特に口が堅いと知られている生徒が務めている。彼女から情報が漏洩することはないだろう。


「だ、誰か聞けよ……白雪姫本人に」


 だが誰一人、それを聞く勇気のある男子生徒はいなかった。

 ネコの首に鈴をつけに行くネズミの心境である。


 結局。

 男子はただ悶々としたまま、白雪姫が招待した人物の素性について益体もない推測だけを繰り返すことになった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「じゃあ、家族なんですか?」

「そうですね。そのようなものです」


 突撃できない男子よりは、まだ女子は気楽に訊くことができる。

 そして当然、女子にとっても、突然現れた白雪姫の『王子様』は気になる存在であったため、男子に頼まれて、彼女に比較的近い女子生徒が訊くことになった。

 ちなみに、当然最初に白羽の矢が立ったのは、仲の良い、そして同じ生徒会役員である津崎雪奈や藤原佳織だったが、二人ともそれぞれ生徒会の仕事で早々に教室を後にしていたのだ。


「お兄さんとかですか?」

「そうですね……兄というわけではないですが、親しい方です。だからお呼びしたのですし」

「親戚……とか?」

「最初にお答えした通りです。家族の様なものですよ。では、失礼します。ちょっとまだやることがあるので」


 そういうと、『白雪姫』は教室を去ってしまった。

 今日は帰りのHR(ホームルーム)もないので、もう帰る人は帰っていいが、みんな明日の準備でまだ忙しい。

 生徒役員である白雪はそのあたりは免除されているが、それで暇ということはないようだ。


「け、結局どうなんだ?」


 遠巻きに見ていた男子かやってくる。


「王子様の正体は家族みたいなものだって。詳しく教えてくれるつもり、多分ないんじゃないかな?」

「家族……お兄さんとかか?」

「だからわかんないって。そこまで気にするなら、白雪姫本人に自分で聞けばいいじゃない」

「それができれば苦労ない……」


 その呟きに、クラスの男子の大半が同意する。

 そもそも白雪姫本人と話すのすら、男子にとってはとてつもなく緊張する行為だ。それがまして、彼女が親しくしている男性のことを訊くとなれば、返答によっては心に甚大な傷を負いかねない。


「そんな有様じゃ、あの白雪姫とお近づきになるのは、不可能だと思うけどねぇ」


 辛辣な女子の言葉が、男子生徒に突き刺さる。

 言われた方は――文字通り轟沈していた。


 白雪姫が招待した人物の正体については、女子の間でも話題にはなっていた。

 ただ、生徒会の個人情報管理は徹底しており、名前すら不明。

 そのため、誰が言い出したのか、白雪姫のパートナーだということで、『王子様』という呼び名が、午前中には学内に広まっていた。

 とはいえ、それは文字通り『白雪姫の相手』という意味を持つわけで、男子生徒の多くにとっては気が気ではない。


 その結果、男子の多くが右往左往するわけだが、クラスメイトの女子たちからすれば、情けないと思わざるを得ない。

 もっとも、自分達がその立場でも、やはり直接訊くのは勇気がいるだろうが――。


「……なんかあったの?」


 教室の入口にいたのは、津崎雪奈だった。

 生徒会の副会長。そして、あの白雪姫の親しい友人の一人。


「あ、津崎さん。あれ? 白雪姫と一緒だったんじゃ?」

「あ、うん。姫様とは別件で職員室行ってただけなんだけど……何、この死屍累々、またはお通夜モード」

「さあ? なんだろうね」


 それ以上はお互い追及しなかったので、この話題はそれで終わるかと思われた。


 しかし。

 諦めの悪い男子生徒はどこにでもいる。


「つ、津崎さん。あの、『王子様』って誰か、知らないか!?」

「な、何!? って、誰よその『王子様』って」

「あれ。津崎さん聞いてないんだ。ほら、白雪姫が招待した人のこと」

「ああ、なるほど……言いえて妙過ぎる」

「その反応……。もしかして津崎さん、『王子様』のこと知ってるのか!?」

「んー。さあ? あ、私もう行くね。荷物取りに来ただけだし。姫様手伝わないとだから」

「ま、待ってくれ、なんか知ってるなら……」


 すると彼女は一度足を止めると、呆れたような表情で振り返った。


「あのね。そのくらいのことを自分で姫様に直接訊きに行く程度の勇気もないのに、姫様と付き合う事なんて、できるの?」


 その言葉に、男子生徒は「う」と呻いたっきり押し黙った。


「そんなんじゃ論外だよ、ホントに。姫様とまず普通に話せるように……そだね。西恩寺先輩とは言わないけど、唐木君くらいにはなって見せたら?」


 それだけ言うと彼女は教室の外に消える。

 あとにはがっくりと膝を折った男子が残されていた。


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