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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
九章 文化祭
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第61話 青蘭祭開幕

 午前九時。

 学校のチャイムの音が鳴り響き、青蘭祭の開催が実行委員長から宣言された。


 すでに校門前には多くの来訪客が列をなしている。

 受付待ちの列である。


 かつては入るのは誰でも自由だったらしいが、昨今の世情を考えれば、招待制になるのはやむを得ないところだろう。

 実のところ、聖華高校としてはかつてに戻っただけという事情はある。


 元々、良家の子女が通うための学校だったこともあり、かつては青蘭祭と言えども招待客のみが入れるようになっていたらしい。

 それが戦後しばらくして解放されたのが、再び招待制に戻ったというわけだ。


 とりあえず和樹も無事登録を終えたが――なぜか登録する際に、受付がひそひそと話していた。

 何か問題があったのかと思うが、特に思いつかない。

 とりあえず校門をくぐると、すぐにウェルカムゲートがあった。


「こういうの、あったなぁ」


 手作り感満載だが、高校生が頑張って作ったと思われる門を飾るゲート。

 今回のテーマは『滾る知性』という理知的なのか勇猛なのか分からないテーマらしいが、とりあえずゲートの装飾から、勢いは感じられた。


「お? 和樹。お前も来てたか」

「……いるとは思ったけどな。誠。朱里も一緒か」


 振り返ると、予想通りの二人が立っていた。

 その隣には、年配の夫婦がさらに二組。

 片方は見覚えがあった。


「お久しぶりです、卯月さん」

「おお、久しぶりだね、月下君。誠たちの結婚式以来か」


 卯月竜也(たつや)と卯月澄子(すみこ)。誠の両親だ。

 誠の家は在学中に何回かは遊びに行ったことがあるので、この二人にもたまに会うことはあったし、結婚式でも話はしている。

 そしてもう一組が――。


「久しぶりだね、月下君。朱里の結婚式以来だが、あの時はあまり話せなかったね。あらためて、津崎陽一だ。よろしく」


 お互いに一礼して挨拶を交わす。

 朱里の親だからと言って背が低いということは――と思ったが、続けて紹介された彼の妻は、朱里よりは背が高い、という程度だった。多少は遺伝もあるらしい。


「月下和樹です。誠と朱里には、いつもお世話になってます」

「お、殊勝ですねぇ、和樹君」

「今すぐ否定してやろうか」

「ひどっ」


 しかし、自分の両親や義兄になる誠はともかく、卯月家の親まで誘うとは、どうやら本当に家族ぐるみなんだと、あらためて実感する。


「和樹は今日はどうするんだ?」

「とりあえず白雪にクラスに来てくれと言われてるから、それからだな。俺は初めて来るから、どこに何があるかよくわからんし」


 聖華高校は普通の高校と比べても、かなり広い敷地を持つ。

 一般的な校舎として四つの棟があり、それに隣接する体育館が二つ、講堂が一つ、プール棟が一つ。さらにそれから少し外れたところにガーデンと呼ばれる植生豊かな場所があるのだ。

 そしてその奥にも別に施設があるらしい。

 グラウンドもかなり広く、中庭などもある。

 和樹の知る高校に比べると、敷地だけなら二倍はありそうだ。


「そういえば、誠や朱里はこの高校じゃないのか?」

「違うな。ランク的には視野に入らなくもなかったけど、別の学校に行ってる。とはいえ、朱里が去年もお邪魔してるから、道案内任せるが」

「ちなみに、確か友哉君のお姉さんはここ出身だったはず。私も会ったことないんだけど」

「変なところで繋がりあるな」


 世間は狭いという事か。

 とりあえず挨拶もそこそこに、和樹は白雪のクラスを目指した。

 入口で渡されたパンフレットの案内を頼りに校舎に入ると、何人かの女生徒が振り返ってくる。

 誠が一緒にいるのかと思ったが――いない。注目されているのは自分らしい。

 このくらいの年齢の男性は珍しいのだろう、と思うことにした。

 ほどなく目的の教室に着くと――廊下にすでに白雪が待っていた。


「いらっしゃい、待ってました」


 白雪が嬉しそうに近付いてきて――同時に、周囲がざわめいた。


(まあそうだろうな……予想してたが)


 白雪が学校でとても人気があるのは、予想できていた。

 自分とて、同じ学年に彼女のような存在がいれば、気になっただろうと思う。

 そしてその人気者が嬉しそうに近付く外部の人間がいれば、何者だ、となるのは致し方ないだろう。


「迷いませんでしたか?」

「パンフレットがあったし大丈夫だったが……予想してたとはいえ、すごいな」

「……すみません。迷惑でしょうか……」


 さすがに白雪も気付く。

 というか気付かない方が無理だろう。

 周囲三百六十度、ほぼすべてから注目を浴びている。


「落ち着かないのは否定できないが、別に白雪のせいでもないしな」


 ひそひそと周りでなにやら話しているのが聞こえるが――開き直るしかない。

 家族枠というのはこういう時便利だ。


「俺より、あとで白雪が説明する方が大変な気はするが」

「先日もお話した通り、家族ですし」


 そういうと白雪は和樹の手を取って歩き出す。

 すぐ横に絶望的な表情の男子生徒が見えたが――気のせいにしておこう。


「とりあえず、折角ですからうちのクラスからご案内しますね」


 白雪は終始楽しそうに笑っていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「色々あったが……結構本格的なのも多いんだな」

「そうなんですか?」

「ああ。高校生の催しとしては十分すごい。喫茶店とかもすごく本格的だったし、白雪のクラスの出し物も面白かった」


 特にストラックアウトが面白かった。

 それほど広くない教室では、距離が稼げないので簡単に点が出るかと思いきや、なんと投げるボールの一部に重りがついているのだ。

 そのため、普通に投げてはまずまっすぐ飛ばない。

 その変化を楽しむ競技となっていた。


「私はクラスの方はあまり手伝えなかったのですけどね。楽しんでいただけたなら、嬉しいです」


 とりあえず今は中庭の空いていたベンチに座って一休み中だ。

 午前中にとりあえず一通り案内してくれた。

 どうやら午後からは生徒会の仕事になるらしいが、和樹としても知らない学校というのはなかなかに楽しいので、今日は夕方くらいまではいるつもりである。


 お昼ごはんは、白雪がおすすめだという購買部のサンドイッチだ。

 白雪ですら、たまに朝面倒な時に買うことがあるらしいというそれは、確かに美味しかった。


「しかし、招待客のみと聞いてたからそんな人がいないと思っていたが、結構盛況だな」

「招待出来る人数、事実上制限ないですからね……。人によっては、ご近所さんみんなに声かけてるって人もいるみたいですし」


 確かに、卯月家の両親まで来てるのは、まさしくご近所の人たちを誘ったという状態だろう。


「お時間ありましたら、図書館とかもおすすめです。結構いろんな本があるんですよ」

「図書館? 図書室ではなく?」

「はい、図書館です。校舎とは分離してるんですよ。ここです」


 白雪がパンフレットの地図を指し示すと、そこには校舎とは別に独立した建物として『図書館』とある。

 大学図書館ほどの規模ではないにせよ、高校でこの設備はすごいと思えた。


「充実してるなぁ、本当に。あと気になるのはこの特別棟だが……文化祭中は閉鎖か」

「そうですね……あ、でも私ならご案内できますよ?」

「え?」

「生徒会室がそこにあるんです。なので、私は鍵を持ってます」

「古い建物っぽいから興味があるだけなんだが……いいのか?」

「はい、大丈夫です。じゃあ、あとでご案内しますね」

「ああ、白雪はそろそろか?」

「ですね……終わった後は見回りの当番になりますので、その後でまた連絡します。でも、見回り中でも見つけたら声をかけていただけると」

「わかった。まあ問題なさそうなら」


 実際午前中に案内されている間、数多くの生徒たちの注目の的になっていたのは、開き直っていても居心地がいいとは言えなかった。

 今更高校生の好奇の視線程度で動じることはないが、これが同世代だと相当きついだろう。


(そう考えると、人気があっても実際付き合うだけの勇気があるやつなんて、ほとんどいない気がするな)


 ダメ元で告白するのはいるだろうが、実際付き合うとなったら、多分しり込みする人の方が多そうだ。

 同世代の視線に耐えられるほど図太い……と思ってから、誠辺りならいけそうだと思ってしまった。


 もっとも誠は誠で、友哉と一緒に友人付き合いにはいろいろ悩みがあったのは、夏に知ったが。


「じゃあ、仕事頑張ってくれ、白雪」


 すると白雪がなぜかクスクスと笑い出した。


「なんだ?」

「あ、いえ。いつもと逆だなぁ、と思いまして」

「……確かに」


 いつもなら仕事をしているのは当然だが和樹の方である。

 しかし今日に限っては、和樹は遊びに来ているだけで、白雪はこれから生徒会の仕事で、確かにいつもと逆だ。

 どうやらそれが、白雪には面白かったらしい。


「それでは和樹さん、また後程」


 白雪はそういうと立ち去っていった。


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