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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
八章 修学旅行
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第57話 星空の下で

 修学旅行二日目は那覇に移動して、今度は琉球王国の史跡巡りである。

 首里城――数年前に一部焼失しているが――のほか、那覇周辺にある遺跡を巡る。

 そのほか、ガラス工房での体験やハーブ園に行くなど、いくつかのコースに分かれての観光だ。


 白雪は基本的に雪奈、佳織と一緒に行動していた。

 班別のコースではガラス工房に行って、三人でコップを作った。

 少しいびつではあるが、思い出に残るコップが作れたと思う。


 その後、夕方前くらいに国際通りに到着する。

 ホテルは国際通りからほど近い場所にあり、全員時間までは自由行動だ。

 お土産を買うならこのタイミングが最適である。

 というのは、明日は朝から飛行機で石垣島に移動となるのだ。

 無論あっちにもお土産を買う場所くらいはあるだろうが、品数はこちらの方が上だろう。


 そんなわけで、白雪も雪奈、佳織と一緒に国際通りを歩いていたのだが、二人に比べると圧倒的に荷物が少なかった。


(お土産買って帰る相手がほとんどいませんからね……)


 もちろん和樹には買っていくが、それだけだ。

 他にサンゴのアクセサリなどは興味があるので少しは買い求めたし、和樹へのお土産も複数購入したが、それで終わってしまう。

 雪奈や佳織のように、親や兄弟、あるいはご近所分まで、というような状態にはどうやってもならず――。

 結果、二人の荷物持ちを手伝うような状態になった。


 日がだいぶ傾いてから、三人がホテルに戻ったのは六時前だった。


「姫様、荷物持ってただいてありがとうございます」

「いえいえ。私はほとんどないですからね」

「姫様、お土産渡す相手が……月下さんくらいってこと?」

「そう、ですね……マンションの隣人とかは、あまり知らないので」

「マンションの距離感って特殊ですよね、ホント」


 七時からの食事後、シャワーを浴びて就寝の流れは同じだが、さすがに二日目ともなると三人ともかなり疲れていたのと――明日に備えるために早々に寝ることにしたのだ。


 明日は朝から石垣島に飛行機で移動する。

 そして石垣島で事前に申し込んだアクティビティを体験する予定となっている。

 そのためにも、この二日でそれなりに疲れた体を回復させる必要があるのだ。


「明日が楽しみですね、姫様」

「はい。お二人とも、明日はよろしくです」

「じゃ、おやすみー」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日。

 聖華高校の生徒は全員再び機上の人になった。

 目指すは石垣島。

 修学旅行で多くが一番楽しみにしている目的地でもあり、飛行機の中もなにやら浮ついた雰囲気が支配していた。


 そして到着した石垣島は――沖縄本島ともまた雰囲気が違う。

 より南に来た、というのはもちろんあるが、海がさらに広く思えた。


「すごーい。ひろーい」

「本当に……きれいですね」


 海がさらに青い気がする。

 かつて修学旅行でオーストラリアに行ったが、あの時は海はあまり行かなかった。

 なので、南国の海、というのは本当に初めてになるが――驚くほどきれいだと思える。


 三人が申し込んだツアーはシュノーケリングだ。

 これは一番人気で、全体でも五十人くらいはこれを希望していた。

 そのため、実施する場所は三か所ほどに分けられている。


 シュノーケリング自体は三人とも初体験ではあったので、不安もなくはなかったが――結果としては非常に楽しめた。

 特に、運よくウミガメに出会えて、ほぼ触れるような距離まで近づけたのは面白かった。


 ちなみに白雪たちの着ていた水着は、学校指定のものではない。

 雪奈は先日海で使ったものであるが、佳織は恥ずかしかったのか、もう少し控えめなデザインになっていた。

 白雪も黒のハイネックのワンピースで、少しだけフリルがついているようなデザインのものだ。

 なお、あとで雪奈に聞いたところによると、白雪と同じコースになろうとした男子生徒は多数いたらしいが、ことごとくくじに外れていたらしい。そういえば周りはほとんど女子だった。


 お昼でホテルに集合後は自由時間となる。

 生徒によっては、再度アクティビティを楽しむ人もいるらしい。

 白雪らはさすがにその気力はないと思っていたので申し込んでいなかった。

 ただ、ホテルは目の前にプライベートビーチがあって、そこで泳ぐのは自由らしい、と分かって、泳ぐことにした。

 男子が何人もいたらやめようかと思っていたのだが――こういう場合、男子は大抵自分の体力を過信しているのか、午後もどこかのアクティビティに出て行ってるらしく、ほとんどいなかった。


「なんか完全に独占状態だねぇ、これはもう」


 今このビーチにいるのは聖華高校の生徒ばかりである。


「すごく気持ちいいですね――しかし十月上旬でこれだけ海に入れるとは思わなかったです。海水浴って、私この間が初めてだったのに、こんな贅沢を体験できるなんて」

「湘南の海もよかったですけど、沖縄の――石垣島はちょっと別格すぎますね」


 夏に無理を言って和樹に海に連れて行ってもらったわけだが、色々迷惑をかけてしまったし、こういうことができるなら無理しなくてもよかった気はした。

 無論、あれはあれでとても楽しかったのだが。


 結局その日は、夕方近くまで海で遊んでいた。

 普段あまり話すことがないクラスメイトらとも、旅先という気安さからか、色々話せたのも楽しかった。


 なお、男子が非常に悔しがっていたらしいが、それは白雪の預かり知らぬことである。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 波が砕ける音が、静かに響いていた。

 時刻は九時過ぎ。食事が終わって三十分ほど。

 もう日は落ちて、すっかり夜の帳が落ちている。

 だが――。


「これはすごい、ですね――」


 白雪は一人、ホテルの前の海岸に来ていた。

 雪奈と佳織は疲れ切っているのか部屋で休んでいる。

 白雪も当然疲れてはいたのだが――あまりに星がきれいだったのと、一人になりたかった理由があり外に出てきていたのだ。


 一応担任には外に出ることは伝えてあるので、問題はないだろう。

 とりあえず砂浜に出ると――空は一面の星空だった。


「きれい――」


 かつて、オーストラリアの修学旅行で見た星空と同じか、それ以上に思える。

 一人で見るのがもったいないと思えるほどの星空だ。

 ただ、今回一人でここに来ていたのは、目的があってのことなので、白雪はそれを実施すべくスマホを取り出した。

 電波状態には問題はない。

 時刻は九時過ぎ。

 この時間なら――と、白雪は通話のアプリを立ち上げた。

 画面に表示されるのは、『和樹さん』の文字。そしてその下の、電話のアイコンをタップする。

 数回のコールの後――電話がつながった。


『白雪か? 修学旅行中じゃなかったか?』

「はい。今は石垣島です」

『そりゃまた遠くから……楽しんでいるか?』

「はい、それはもちろん。和樹さんは?」

『俺はいつも通りだが。しかしわざわざ電話とは、何か相談でも?』

「あ、いえ。そうではないのですが……」


 一度言葉を止めて呼吸を整えた。


「お誕生日、おめでとうございます、和樹さん」


 電話の向こう側で、呆気に取られているような和樹の顔が見える気がした。


『……まさかわざわざ電話してくるとは思わなかった』

「どうしても当日に言いたかったので。このくらいの時間ならいいかな、と思いまして」

『そうか。……ありがとう、白雪』

「こっちは星がきれいです。特に今日は……びっくりするくらいで」

『石垣島といえば、有名な星空のスポットだしなぁ。俺は修学旅行では石垣島までは行ってないから、ちょっと羨ましい』

「星、好きなんですか?」

『ああ、好きだぞ。山城巡りと同じかそれ以上だな。長野の方は星がきれいなことも多いしな。こっちに住んでて、一番の不満は星空だし』


 見上げると、まさに降ってきそうなほど無数に星が瞬いている。

 手を伸ばせば、あるいは手に届くのではないかと錯覚するほどだ。


「いつか――和樹さんと一緒に、この星空を見てみたい、ですね」

『……そうだな。機会があれば』


 そんな機会は――おそらく、ない。

 だが、分かっていてもなお――。


「ふふ。言質とりましたよ?」

『まあ、考えておくよ』


 実際には不可能だと分かっていても、そう言ってくれるのは嬉しい。


『明日には帰るのか?』

「はい。明日の昼過ぎには出発です。と言っても……家に着くのは夕方過ぎかと」

『まあ無理せず休め。長距離移動ってのは思った以上に疲れるものだからな。いくら若いとはいえ』

「和樹さんだってそう変わらないでしょうに」

『そうでもないんだよ、これが。高校生の時に比べたら体力落ちたなぁ、とか思うことはよくあるよ』

「まあ、私も体力ある方かは怪しいので、ゆっくりします。あ、でも、お土産をお渡ししに行ってもいいですか?」

『へ? 明日?』

「はい」

『まあ、十八時以降なら別にいいよ。無事帰ってきたことを確認はしたいしな』

「はい、そちらは必ず。……そろそろ失礼します」


 そろそろ十時になる。

 いくらホテルのプライベートビーチとはいえ、さすがにそろそろ戻った方がいいだろう、と思えた。


『そうか。お休み、白雪』

「はい。おやすみなさい、和樹さん」


 それで電話が切れた。

 しばらくその『通話終了』の文字を見ていたが、画面を消すとホテルに戻る。

 途中で、クラスメイトとすれ違った。


「あれ、玖条さん? 外に出てたの?」

「ええ。星がとてもきれいだったので、少し見てました」

「うわ、ホントだ。すごいね。あっち、他に人いました?」

「いえ。ビーチの方だと、他の灯りが少ないので、さらによく見えましたよ」

「そうなんだ。ありがとう、玖条さん」


 白雪は軽く会釈をしてからホテルに戻る。

 部屋に戻ると、佳織はすでに熟睡しており、雪奈もベッドで横になっていた。


「お帰り、姫様。どこ行ってたの?」

「ちょっと星を見てました。とてもきれいでしたよ」

「ホントだ、すごいね」


 部屋の窓からでも十分に美しい星空が見えた。


「わざわざ外に行ってたの?」

「ええ。周りの光が少ないところ、と思ってビーチまで」

「佳織もさっきまで外に出てたんだけど、疲れてたのか戻ってきたら即バタンキューだったみたい。何してたのかはわからないけど……唐木君と逢引とかだったら面白いんだけど」

「……それはそれで……き、気にはなりますね」


 同じ生徒会に属して四カ月以上。

 さすがに、あの二人が本当はどう思ってるかはもう分かってきている。


「あとで聞いてみたいところですね」

「逢引してたのかってからかうと意固地になるからなぁ。加減が難しい。姫様は違うだろうけど」


 そう言われると、あの電話も逢引になるのだろうかと気にはなるが――まあ言及されることはないだろう。

 それと同時に、先ほどすれ違った女生徒は一人だったが――あるいは好意を持ってる男性と逢引する予定だったのだろうか、と思ってしまった。


「姫様?」

「いえ。私もさすがに――そろそろ寝ます」

「さすがに私ももう寝るね。しかしこの修学旅行、ご飯美味しすぎて食べ過ぎた気がする……戻ったら体重計乗るのが怖い」

「雪奈さん、忘れようとしてた現実に気付かせるのやめてください」

「姫様は大丈夫に見えるけど?」

「私もちょっと食べ過ぎたかなぁ、と思ってるんです。本当に色々美味しくて。沖縄料理って、あまり私のレパートリーになかったのですが、研究してみてもいいかもしれませんね」

「お。てことは今度は姫様の沖縄料理パーティ?」

「あのですね。ああいう食事会はそんなやるつもりありませんよ」

「えー」


 心底残念そうだ。

 だが、何より会場になってしまう和樹に迷惑なので、次にやるとしても――クリスマスだろう。


 そうしている間に――いつの間にか雪奈も眠っていた。

 どうやら相当眠かったようだ。

 あるいは、白雪が戻るのを待ってくれていたのか。


 修学旅行ももう終わる。

 少なくともこれまででは、おそらく一番楽しかったと思う。

 それが、雪奈や佳織のおかげであることを改めて認識しつつ――白雪もまた、窓の外の星空を最後に目に焼き付けて、目を閉じた。


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