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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
八章 修学旅行
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第55話 沖縄到着

 聖華高校の生徒を乗せた飛行機が沖縄の那覇空港に着陸したのは、十一時前だった。

 生徒の中にはこれが初めての飛行機ということで、怖がっていたり興奮していたりと反応は様々だ。


 白雪は佳織、雪奈と並んで窓側三列の席だった。

 そのため三人交替で窓の外を見たりとそれなりに空の旅を楽しんでいた。


 ちなみに、着陸の時に拍手が起きたのは、ちょっと笑うしかなかった。

 確かに航空機の着陸というのは最も難しいとは知られているが、拍手が出るのはさすがにどうかと思わざるを得ない。

 この辺り、聖華高校の生徒といえども、やはり普通の高校生だと痛感する。


 ちなみに白雪も飛行機は二度目――中学の修学旅行以来――だが、さすがにそういう反応はしなかった。この辺りはノリの違いか。


「ふぃ~。着いたね~~。っていうか、暑い!」


 雪奈が大きく伸びをしつつ叫んだ。

 実際、かなり暑かった。

 関東地方は今日は寒気が流れ込んだといわれてた上に、集合は早朝だったので相当寒いと思ったが、それに比べると段違いに暑い。

 文字通りの意味で、季節が二カ月は戻った感じだ。


「ホントに暑いですね……聞いてた通りとはいえ」

「こ……これはちょっと……溶けそうです、私」

「佳織さん!?」


 佳織がふらふらとして、危うく倒れそうになるのを慌てて支える。


 聖華高校の修学旅行は、基本的に制服ではなく私服で来ることが認められている。

 雪奈や佳織はともかく、それ以外の生徒の私服を見るのは実は初めてだ。

 白雪の今日の服装は白のブラウスにダークブラウンのワイドパンツ、その上にカーディガンを羽織っている。

 が、この暑さだとカーディガンは要らない気がする。


 ここからはバスで移動だ。

 沖縄の北側の宿に行き、そこで荷物を置いてから学習体験等に出発する。その先はクラス単位での行動だ。

 白雪は生徒会長ではあるが、こと修学旅行におけるクラスの代表は旅行委員が務めるので、基本一生徒として楽しむことになる。


 とりあえずバスを待つべく集まっていると――妙に注目されていることに気付いた。


「雪奈さん、なんかやたら注目されてるような……ある程度はいつものこととしても、学校以上のような」

「そりゃあそうでしょう。姫様の私服姿なんて、私たちはともかく他は全員初めてでしょ」

「ああ、そういう……」


 確かに学校で制服以外でいることはまずない。

 あっても体育の時のジャージ姿だ。

 他に水泳の授業での水着があるが、男子と女子で一緒にプールを使うことはないので、見られることは基本ない。


「別に普通の格好だと思うのですが」

「それはそれとして制服しか知らない男子には新鮮ってことだね。月下さんにはむしろ制服のが新鮮かもだけど」

「なんでここであの人の話が出るんですか」

「なんとなく?」


 確かに、和樹の前で制服でいることは少ない。

 不意の遭遇を除けば、あの墓参りの時くらいだ。

 彼が制服を見たいとか言わない限りは、別に着る必要があるとは思っていないが、着てたら新鮮に感じるのだろうか、と思ってしまう。


「お? 今度制服着てお邪魔しようとか考えてる?」

「考えてませんっ」

「お邪魔することは否定しない?」

「知りません!」


 ぷい、と雪奈から顔をそらす。

 雪奈の格好はTシャツにジーンズ、それにパーカーを先ほどまでは羽織っていたが、今は暑いから脱いでいる。活動的な彼女らしい格好だ。

 そして佳織は――暑さですでにダウンしかけているが、こちらはフリルもついたいかにもなドレスだった。これはどちらにせよ暑いだろうと思う。


「佳織の服って、基本的に布地多いのばかりだもんねぇ。海の時はさすがに着替えること前提で来てたけど」


 佳織は白雪以上に服を着こむタイプだ。

 夏に海水浴に行ったときは、さすがにTシャツにショートパンツというスタイルだった――ちなみに白雪はノースリーヴのワンピースの上に薄手のパーカーを羽織っていた――が、今回はしっかり着込んでいる。

 というより、佳織の場合そうしないと、あのスタイルが嫌でもはっきり分かるようになってしまう。中途半端な服では逆に目立つのだ。


 とはいえ、この沖縄ではその服装はさすがにきついらしい。

 街頭にある温度計を見ると、気温は二十九度。十月とは思えない。

 佳織の服は暗色系のため、実際にはさらに暑いかもしれない。


「佳織さん、大丈夫ですか?」

「なんとか……です。宿着いたら、まず着替えます……」


 どうも暑さ以外にもやられてるらしい。

 三時間ほどは飛行機に乗っていたし、朝も非常に早かった。

 疲れているのは当然か。


 そうしているとほどなくバスが来たので、クラス全員で乗り込む。

 バスの中で佳織は完全にグロッキー状態だった。


「姫様は平気なんだね」

「まあ……私は長距離の移動はそこそこやってるので」

「そういえば京都だっけ、帰省先」


 帰省というか伯父に呼び出されているに等しいが、とりあえず長時間の乗り物での移動は高校に入ってからすでに何回もやってるので今更である。

 飛行機の経験はなかったが、与圧された空間、という意味では新幹線とあまり違うとは思えなかった。

 思ったよりは揺れたが。


 バスは一時間ほど走って、ホテルに到着した。

 部屋割りは一部屋三人から四人。白雪はもちろん雪奈、佳織と同室の三人部屋だ。


「とりあえず各自ルームキーを受け取ったら、部屋に荷物を置いてください。一時十五分にここに集合。お昼ごはんになります」


 クラス担任の先生がこの後の予定と、さらに注意事項をいくつか話している。

 とりあえず白雪はフロントに並んでルームキーを受け取ると、雪奈と佳織を促してエレベーターに向かう。


 一泊目のホテルはかなり大きなリゾートホテルだ。

 プライベートビーチもあるらしいが、この季節は泳ぐことはできないらしい。

 予定では三日目は石垣島に向かうが、そこでは泳ぐことができるという。


「着いた~~~~」


 部屋に入るなりベッドにダイブしたのは佳織だった。

 そのままベッドマットが大きく沈み込む。


「あ……このまま寝そうです……」

「佳織さん、寝ちゃダメですよ」

「はぁい」


 頑張って襲い来る睡魔をはねのけたのか、佳織はとりあえず起き上がると荷物を広げていた。

 ほどなく、薄手のワンピースに着替える。今度のは涼しそうだが、当然その分体のラインが見えてしまう。

 かなり生地にゆとりのあるはずの服なのに、それでも強調されるのだからすごい。


「まあ、上からパーカー羽織れば何とか……」


 白雪と雪奈がまじまじと見てるのに恥ずかしくなったのか、佳織は薄手のパーカーを取り出して羽織る。

 一応それで五割ほどはインパクトが軽減された気はするが、逆に言えばまだ五割は残ってる、という気がした。


「姫様、窓からの景色、すごいですよ」


 雪奈の声で振り返ると、窓一面が海と空だけになっていた。

 窓際まで来て、ようやく海岸などが見える。


「これは……きれいですね」

「ずっとこの宿でもよくない? と思っちゃうね」

「でも、石垣島もとてもきれいらしいですし」

「うん、楽しみ」


 今日はこの宿だが、明日は那覇市のホテル、最終日はさらに飛行機で石垣島に移動となる。

 そちらでマリンレジャーなどの体験をする予定だ。

 時計を見ると一時を過ぎたところだった。


「とりあえず下に行きましょうか」


 二人と一緒に部屋を出る。

 これからの旅行に期待しつつ――白雪はいつか和樹と一緒に来れたら楽しそう、と考えていた。


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