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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
八章 修学旅行
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第54話 不本意な日程

 夏休みが終わり、さすがに白雪が和樹の家に行くペースは二日から三日に一回というところに落ち着いた。

 夏休みの最後の方は三日に二日以上のペースだったことを考えれば、これでも大幅に減ったと言える。


 九月の間は、聖華高校は大きなイベントは月末にマラソン大会――佳織がこの世の終わりの様な顔をしていたが――があるくらいで、生徒会としては少しだけ休憩期間と言えた。

 ただし学生としては別で、前期の期末考査が九月入って半月ほどである。

 夏休みで弛緩した気持ちを勉強に向けて立て直せるか、というのが学生にとっては課題となるが――白雪にとっては全く問題にはならなかった。


 前期中間考査の時よりはもちろん、これまでで一番調子がよかったと言えるほどであり――白雪は再び学年首位に返り咲いた。

 調子がよかった理由は明らかだ。

 自分で言うのもなんだが、あまりに分かりやすくて呆れてしまう。

 ちなみに二位が俊夫だ。


「姫様、調子戻ったねぇ。まあ、夏休み充実してたし、多分調子はばっちりだとは思ったけど」

「でも今回、雪奈さんもすごいですよ」

「いやぁ、姫様と佳織のおかげですよ。あと唐木君も」

「俊夫はおまけでいいんです」


 雪奈と佳織が帰ってきた試験の結果を二人で見ている。


 今回、佳織の順位は五位。

 そして――上位者名簿に入っていなかったが、雪奈は十二位だったのだ。

 生徒会メンバーで一人だけ上位者名簿にないといっても、あと少し。

 勉強をサポートしてた白雪や佳織にとっても嬉しい話だった。


「あとは生徒会としては青蘭祭だねぇ。ま、その前に修学旅行だけど」


 聖華高校の文化祭である青蘭祭は、十一月頭に開催される。

 高校の文化祭としてはやや遅い時期に開催されるが、聖華高校は伝統的にこの時期だ。

 受験を控えた三年生のために時期を変えようという動きは過去にもあったが、聖華高校は十月に球技大会――体育祭とは別――も行っており、日程としてはこれ以上詰め込めなかったのだ。


 また、二年と三年でクラス替えがない都合上、三年は文化祭ではクラス参加を辞退することもでき、基本的に有志だけで企画をやるケースもある。

 さらにもう一つ、一番盛り上がる中心となる二年生にとっては、ある意味最大のイベントである修学旅行があるのも、十月なのだ。


 各種イベントにはそれぞれ実行委員が組織されているので生徒会はアドバイザーとしての役割のみだが、聖華祭だけはそれでも忙しさが違う。

 球技大会は二日間――ちなみに体育祭は一日――あるとはいえ、基本的に予想外の事態が起きることはないため、実行委員任せでほぼ問題はない。

 だが、文化祭はどうしても様々な問題が起きやすいため、生徒会としても一年で最大のイベントになるのだ。


 とはいえ、目下二年生としては、ある意味高校生活最大のイベントとなる修学旅行に、全員の意識が向かっている。

 それは生徒会メンバーとて例外ではないのだが――。

 会長である白雪は、唯一不満そうにしていた。


「姫様、なんか機嫌が悪そうっていうか……なんで修学旅行のしおりをそんな睨んでいるんです?」

「……いえ、別に何でもありません」


 修学旅行は、行先は生徒の希望がある程度反映されつつ、学校側で基本的に計画される。さすがに、宿の手配や移動手段の手配に予算などは、生徒会で請け負える規模ではないからだ。

 なので当然、日程についても自由にならない。


 が、白雪はその日程に不満があった。


(和樹さんの誕生日が含まれているんですもの……)


 和樹の誕生日と、修学旅行の日程が完全に被っていたのである。

 もちろん、二年生になった段階ですでに分かっていた話ではある。

 だが、改めてこうやって提示されると、白雪としては残念で仕方ない。


 本当は誕生日をその当日に祝いたかったが、何をどうやってもそれは出来ない。

 ちなみに行先は沖縄である。

 毎年海外も検討されるし、過去に行った年もあるらしいが、基本的には国内が多い。ここ数年はずっと沖縄である。


 別に修学旅行が楽しみではないということは全くないのだが、和樹の誕生日を祝えないというのだけが悔しくて――白雪は一人、少しだけ不満げな顔だった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「そうか、そういえば二年生だからそういう時期か」


 来週は修学旅行でほとんどが不在となる。

 そのため食事を作ることもできなくなるので、その前にというわけで、白雪は日曜日に和樹の家に来ていた。


「行先は?」

「三泊四日で沖縄です」

「お。俺と同じか」

「そうなんですか?」

「俺の時も沖縄だった。高校の修学旅行の行先としては、やっぱ人気らしい。まあ妹は違ったらしいが」


 和樹はこちらの高校だが、妹の美幸は長野のはずだ。

 さすがに行先は違うらしい。


「妹さんはどちらだったんですか?」

「確か北海道じゃなかったかな。そっちはそっちで行ってみたいが。俺も北海道は行ったことがないしな」

「私も……ないですね。というか、旅行って私あまりないので」


 両親が存命だった子供の頃は、生活にそんな余裕はなかったのだろう。

 遊園地に行った記憶が一回あるくらいで、家族で泊りがけで出かけるという事はなかった。

 それでも不幸だと思うことは、一度としてない。

 そしてその最初の思い出になるはずだったその時が――あの事故である。


 そして玖条家に入ってからは――ほぼ家の中から出してすらもらえなかった。

 学校以外のほとんどの時間を何かの稽古や習い事に費やしていたと思う。


「小学校や中学校はどこだったんだ?」

「小学校は東京でした。中学は……実は、海外で。オーストラリアです」

「……すごいな。中学でか」


 今にして思えば、あの学校ならではだったのだろう。

 いわゆる良家の子女だけしかいないような学校だった。

 とはいえ、どちらも仲のいい友人というのはほとんどいなかったので、あまり楽しい思い出は残っていない。

 通訳としてはやたら頼られた記憶はあるが。


「和樹さんはどちらだったのですか?」

「小学校は東京だった。同じだな。中学は京都、奈良だったんだが……俺は行ってないんだ」

「え?」

「その、タイミング悪く体調崩してな。自宅療養してた」

「……そう、なんですか」


 その言葉に若干の違和感があった。

 どこがどう、というわけではない。

 行ってないというのは事実だろうし、体調不良も嘘ではないのだろう。

 ただ、何か隠していることがある気がした。

 とはいえ、それを聞くわけにもいかない。


「まあ高校ではその分楽しんだからな」

「沖縄は楽しみなんですが……」

「どうした?」

「その、和樹さんの誕生日と日程が重なっているのが残念で」

「……ああ、そういえばそうか」

「せっかく当日に誕生日会開きたかったのに」


 すると和樹はむしろ呆れたように笑っていた。


「いや、普通社会人で、当日に誕生日祝うやつ自体あまりいないよ。祝うとしても適当に日はずらすもんだぞ?」

「そ、そういえば……そうですね」


 学校の友人でも、当日お祝いなどは言えたとしても、学校があれば十分な時間は取れないだろう。

 当然休みにあらためて、となる。


 なのだが、ついいつでも会えるという感覚から、当日やるべきという思い込みが発生していたらしい。

 あとは自分が当日に祝ってもらえたからだろう。


「まあ、なので当日どうこうは考えないで、折角の修学旅行を楽しんでこい。まあ社会人になると、誕生日祝うこともあまりなくなるから、あまり気にしなくても……」

「ダメです。家族の誕生日は絶対に祝います」

「……わかった。まあ確かに、家族はそうか」


 そこは白雪としては妥協はしない。

 帰ってきてくるのは金曜日の夜。だが、翌日から世間的には三連休だ。

 時間は十分にある。


「帰ってきたら絶対誕生会やります。なので、連休後半は空けておいてくださいね」

「わかったよ。楽しみにしている」


 白雪はその答えに、満足そうに微笑むのだった。


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