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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
七章 白雪の夏休み
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第51話 帰宅後のひと時

「じゃあお疲れ様ーっ。まったねー♪」


 朱里の元気な声が合図となり、和樹は車を発進させた。

 和樹の車に乗るのは、白雪と佳織、それに俊夫の三人。

 雪奈はこのまま、誠らの車で帰るらしい。

 単に経路の都合でそうなった。


「今日はありがとうございました、月下さん」

「ああ。まあ俺も楽しんだし。しかし唐木君は大丈夫か?」


 俊夫は特に水泳系は本当にダメなようで、何度も砂浜や海底に足を取られ、転倒しまくっていた。

 普段かけているメガネを、海に入るから外していたのも原因だったらしい。佳織より目が悪いらしく、ないと相当ぼやけるようだ。


「は、はい。まあ、砂だったので痛くは」

「相変わらずもやしですよね、俊夫は」

「うるさいな。佳織だってあまり変わらないだろ」


 これでも来る時よりは打ち解けている気がした。


「お疲れ様でした、和樹さん」

「ああ。どうだった。人生初の海水浴は」

「ものすごく楽しかったです。人数予想以上に増えましたけど、それもよかったのかな、と」

「それは何よりだ」


 和樹としては、むしろ学友と行くべきだと思っていたから、雪奈や佳織が増えたのはむしろ歓迎していたが、さすがに誠と朱里は予想外過ぎた。

 朱里はなにやら色々白雪に聞いていたようだが、細かいことは帰ってから確認すべきだと思っている。


 一番懸念していたのは、白雪をはじめとした女性陣がナンパされることだったが、結局これは起きなかった。

 かなり注目はされていたが、実際に声をかけてきたのは一人もいない。

 これは、誠がだいたい一緒にいたのも大きいだろう。

 誠か友哉をつけておけば、ナンパ除けには最強かもしれない。

 その分女性が寄ってくる恐れはあるが、今回のようなメンバーなら、彼女らを押しののけて近付くのは相当な猛者だろう。

 朱里だけではその役目を果たせないことが多いが。


 高速を下りてしばらく車を回す。


「あ、そこを右で、そのあたりで大丈夫です。そこから家は、すぐですので」

「わかった」


 ピックアップすることを考えなくていいので、佳織と俊夫の家の近くまで来たところで、佳織の指示に従って車を止めた。


「今日は本当にありがとうございました。楽しかったです。姫様、また遊びましょうね」

「佳織さんも唐木さんもお疲れ様です。そうですね。生徒会メンバーでというのは、とても楽しかったですし、また是非」

「えー。俊夫は要らないですよ」

「そんな仲間外れはダメですよ、佳織さん」

「会長、お疲れ様でした。突然お邪魔してすみませんでした。月下さんも、色々ありがとうございます」


 最後に深く礼をしてから、二人は並んで、住宅地の中を歩いていく。

 それを見届けて、和樹は車を発進させた。


「唐木さんに何かしたんですか?」

「いや、プログラムのこととか、ちょっと質問されたことを答えたくらいだが。まあでも、学生とは違う考え方とかも教えたから、本人的には面白かったのかな、と思うが」

「それはちょっと羨ましいです。私にも今度教えてください」


 そうしている間に、家の近くに到着する。


「先に家に戻ってるか?」

「いえ。このまま車を返してください。近いのでしょう?」

「わかった」


 レンタカーを借りた場所は、何ならマンションから駅よりも近いくらいの場所である。

 ガソリンを満タンにしてから、レンタカーショップに行って車の返却処理を済ませると、さすがに空が少し暗くなってきていた。


「……夕食のこと考えてなかったな」


 解散したのが十七時前。

 誠が全員で食事しようかと言ったのだが、佳織と俊夫は夕食前に帰ると親に言っていたらしいので、それは実施されなかったのだ。

 ただその結果、自分たちがどうするかを全く決めていなかった。


「今から何か作りましょうか?」

「……ナチュラルにうちで作るつもりだな、白雪」

「今日は一日そういう日かと」

「まあいいが。とはいえ、もう遅いし……何気に昼間は結構食べたしな」


 お約束の焼きそばやらいかめしやら食べたので、そんなにお腹が空いているかというと、それほどではない。


「……ああ、家に素麺(そうめん)あったな。それでいいか」

「いいですね。あ、じゃあゴーヤチャンプルー作ります。家にちょうど材料がありますので」

「じゃあそれでいいか」

「はい」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ご馳走様でした」

「ご馳走様でした」


 食事が終わり、和樹が食器類をキッチンに運んで、そのまま洗い物を開始する。

 白雪はすぐ帰ることはせず、何をするでもなくダイニングテーブルに腰かけたまま、その様子を見ているようだった。


「そういえば白雪、結局あいつらにどこまで話したんだ?」


 今日の海水浴。

 結局白雪は、ほぼずっと朱里や雪奈につかまっていた。

 色々話をさせられたとは思うが、どこまで情報を与えてしまっているかは、確認しておかないと後で面倒なことになりかねない。


「えっと……あのお話した時からは、そう変わってはいないです。私の家のことで、朱里さんが驚いていたくらいで」

「玖条家のことか?」

「はい。まあ、玖条家のことは学校でも知られているので、秘密にするようなことではないですし」

「まあなぁ。俺も事前に調べてたら気付くレベルだったからな」


 実際、ネット検索で調べてみればいくらでも情報が出てくるような家だった。

 名家とかいう括りでは済まないレベルだ。

 もっとも、話を聞く前に調べていても、同じ名前の別の家のことだと思ったかもしれない。


「あとはその、お食事会を夏休み中に絶対、と言われてしまって……」

「場所は当然……」

「はい。ナチュラルにここを指定しています……和樹さんの推測通りです」

「だろうな……」


 他に選択肢がないから仕方ない。

 問題はクリスマスの食事に気付かれる可能性だ。

 朱里はああみえて勘がいい。

 白雪の料理を食べれば、それをクリスマスの料理と結びつける可能性はある。

 そうなればさらに根掘り葉掘り情報を引き出されるのは確実だ。


 だが、完全に対応策がない。

 強いて言うなら、白雪に料理をわざと失敗してもらうくらいしかないが、さすがにそれは出来ない

 何より白雪に失礼である。

 あとはせいぜい、料理会の開催を先延ばしにして――も意味があるかは分からないが、先延ばしにしたいのは偽らざる心境だった。


「現実的に、夏休み中に食事会なんて可能なのか?」


 白雪ら学生の夏休みはともかく、社会人であり会社や役所に所属して働いている朱里や誠の夏休みなど、学生のそれとは比較にならないほど短い。


「……いや、別に土日にやればいいのか」


 考えてみたらこの家を使うなら、そういう選択しかない。和樹も基本、月曜日から金曜日は仕事だ。その程度の配慮は朱里だってする。

 白雪がいつも来ていたり、今日の様に平日に出かけているので感覚がおかしくなっていた。


「はい、そう仰ってました。なので、和樹さんの土日の予定を確認してくれ、と」

「あいつめ……」


 大きくため息をつく。

 それから一度考えを整理し――開き直ることにした。


「まあ、考えてみれば白雪がうちにきて食事を作ってることは知られているわけだし、クリスマスのがバレても一回だけ特別だったという事にして、普段は家庭教師のお礼だけだという事で通せばそれほどおかしくはないだろうしな」


 実際にはすでに家庭教師はやってないし、白雪は夏休みに入ってからは二日から三日に一回、というかここ最近は三日に二回のペースで来ているが、それは考えないことにする。


「あ……でも、あの。その……初詣で一緒に出掛けてることは、少なくとも雪奈さんや佳織さんには、その、知られてます」

「へ?」


 白雪にその経緯を説明され、和樹は大きなため息を吐く。


「いや、この場合は白雪の注目度を甘く見積もりすぎたってことか……」

「す、すみません……」

「いや、まあ……多分あれが白雪だと別に広められていないなら、そう問題はないだろう。……だが朱里にはそのうち伝わりそうだな……」


 さすがに白雪が和樹を父親だと思ってるという事は、言えるはずもない。

 その点だけは白雪も同意するだろう。


 それに。


 和樹にとっても、すでに白雪は大切な存在になっている。

 あえてカテゴライズするなら『家族』だ。

 あるいは『身内』か。

 無条件で大切にするべき枠に入っているのだ。


 本当は恋人でも家族でもない、赤の他人であることは重々承知で、それでも彼女のためにできることであれば、何でもしてあげたいと思っている。

 それほどに大切な存在であり、護りたい相手。


 それは白雪から父と慕われているから、というだけではなく、和樹自身の希望だ。

 それが恋愛感情に起因するか問われると、多分違うとは思う。

 ただ、彼女を護りたい。幸せであってほしい、と願っている。


 実際に手助けできることなどそう多いわけではないだろうという事もわかった上で――それでも、そう考えている。


 海で誠に言われた『どう思ってるのか』という問いに対する、本当の答えがこれだ。

 本来それを叶えるべきは別の人間であるべきなのだろうが、今は自分しかいない。

 ならば、そのための努力をする覚悟はある。


「和樹さん?」

「……あ、いや。なんでもない。まあ……最悪、どうにかなるだろ。朱里もまあ、そこまで無茶な奴じゃないしな」

「そうですね。実際、素敵な女性でした。ちょっと……びっくりするくらい可愛いと思っちゃいましたが」

「まあ、あの外見だからなぁ。ちょこまかして可愛いというのは俺も同意だ」

「ちょこまかって……それ、女性に使う誉め言葉じゃないですよ」


 白雪もそう言いながらも笑っていて、それ自体は否定しなかった。


「とりあえず、日程かぁ」


 半ば諦めの気分で――実際諦めて――和樹は今月の予定を確認し始めた。


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