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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
七章 白雪の夏休み
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第49話 海水浴場にて

「で……なんでお前らがいるんだ」


 女性陣が着替えのために海の家に行った後、男性陣も着替えたのだが、着替えの速度は男性の方がはるかに早い。

 そんなわけで和樹、誠、俊夫の三人は女性陣が出てくるのを待っているわけだが、和樹としては思いっきり平日のこんな日に二人がいる理由も、なんでわざわざここに来たのかも、問い詰めずにはいられなかった。


「朱里が説明した通りだよ。雪奈ちゃんから海水浴の話を聞いて、あの……玖条さんが参加するって聞いたから、朱里が絶対行きたいって言いだしてな。で、これは本当に偶然なんだが、ちょうど夏休みだったんだ」

「公務員の夏休みってのは普通お盆前後じゃないのか」

「普通にずらすさ。お盆に役所が全部休みになるわけないだろ」


 言われてみればその通りだった。

 朱里もどこかの会社に属していたはずだが、当然夫婦で休みは合わせたのだろう。


「で、女の子だけで行くのかと思ったら、和樹が一緒だって聞いてな。問い詰めて雪奈ちゃんから聞き出して、朱里がテンション上がりすぎてるわけだが……つか、モールでは関係黙ってたの、朱里は激怒してたぞ」

「むしろだから黙っていたと気付かないのか、あいつは」

「……まあそうだろうとは思ったが」


 あの場で白雪に興奮していた朱里に、実は和樹とは以前から知り合いでした、などと言ったら、あの日の買い物予定も全部吹き飛んでいた可能性すらある。


「まあそれはそれとして、あいつに全方位突撃されたくないなら、ちゃんと説明しろってことだ。実際、どういう関係なんだ?」

「……家庭教師兼友人ってとこだ。彼女が情報関連の科目が苦手だったから、それを教えていた。知り合ったきっかけは本当に偶然で、彼女が交通事故に遭いそうになったのを俺が助けたんだ」

「それはまた劇的な出会い方だな……無事だったのか?」

「ああ。彼女はほぼ無傷だった」


 すると誠は訝し気な表情になる。


「てことは、お前が怪我をしたのか?」


 こういう時の誠の洞察力には恐れ入る。

 隠しても仕方がないので、和樹は白状することにした。


「ああ。覚えてるか。去年の九月、俺が怪我したから集まる予定を中止したの。その時だ」

「ああ……あの時か。大丈夫だったのか?」

「あの時話した通りだ。足を結構ひどくやったが、骨に異常もなく、後遺症もなし。まあ問題はなかった」

「それで会うようになった?」

「いや。その時はそれっきりだ。ただその後、一月ちょっと経って偶然再会して、彼女が情報関連科目が弱いということで、家庭教師めいたことをすることになったんだ」

「あの、じゃあ会長……玖条さんの情報の成績が突然上がったのは、月下さんのおかげなんですか?」


 それまで横で黙っていた俊夫が混ざってきた。


「ああ、まあ多分そうなるな」

「そういうお仕事をされているんですか?」

「ん? 教えるのが専門か、と言われたら違うがな。基本はフリーエンジニアだ」


 すると俊夫は眼を輝かせた、という表現をするしかないような表情を、和樹に向ける。


「すごい。そういうお仕事をされてる人、初めてです。もっと教えてほしいです」

「そういえば、白雪からパソコン関連は副会長がとても頼りになる、と聞いていたが、君のことだよな」

「あ……多分そうです。僕も子供の頃から色々やってて、将来はそういう道に進みたいと思ってて……」

「お、それなら和樹はいい先輩になるんじゃないか。こいつ、学生の頃から今の仕事やってたしな」

「え。すごい……」

「いや、多少親の関連で伝手(つて)があったから、それもあって、だ。なんの実績もない学生ってだけだったら、今頃苦労してるよ。俺はそういう意味では恵まれてた」

「そこから先はお前の実力だろう」

「まあそうだが……それはともかく。そういえば、君の急遽参加は、藤原さんの……保護者?」


 車に乗る時のやり取りをなんとなく思い出す。


「あ、はい。僕と佳織……藤原さんは、家がすごい近所というかお向かいで、家族ぐるみでよく付き合ってました。その関係で、少し危なっかしい藤原さんの面倒を見ろって言われて」

「誠と朱里と同じだな」

「だな。で、君はあの子のことが好きなんじゃないのか?」


 こういう時の誠は変化球を一切使わない、直球で来る。


「い、いえ?! その、中学は佳織は私立の進学校に行ったし、僕は公立だったので、もう別になんてことはないっていうか」

「……和樹、確かこの少年って、新入生次席だっけ?」

「どこ情報だ、それ。よく知ってるな」


 和樹も一応、白雪が生徒会長に就任する過程で、あの学校の伝統的な仕組みについて聞いている。その中で、俊夫が新入生の次席だった話は聞いていた。


「朱里経由で雪奈ちゃんから」

「そこのホットライン、情報駄々洩れだな……」


 あとで、白雪には雪奈に情報を流す時は気を付けるように言おう。

 何が誠まで流れるか、わかったものではない。


「いや、藤原さんの方がかつてはずっと勉強ができたのが、中学で追いついて、それで高校で再会って、結構運命的だよなぁ、と思ってな」


 俊夫が顔を真っ赤にしている。

 それで、和樹にも想像がついた。

 白雪の通う学校は、やや特殊だ。

 入学に際しては、成績が非常に良いか、中学時代に部活動で優秀な実績があるか、あるいは家柄が問われる。

 もっとも最近は家柄での入学枠は非常に小さいらしいが。

 白雪の場合は成績家柄ともに文句なしだが、雪奈や佳織、そして俊夫は成績が優秀だから入学できた。雪奈の場合は中学時代の水泳部の実績もあったらしい。

 ただ、中学入学時点では、佳織と俊夫はその学力という点では、どの程度かはともかく差があったようだ。

 それを彼は三年間で埋め合わせ――そして佳織と同じ高校に入っている。


「なるほど、な」


 和樹も思わず微笑ましい気持ちになって、自然笑顔になった。

 誠もニヤニヤと笑っている。


「そ、その何ですか。大人だけ分かったように笑って」

「いや、なぁ」

「うむ。まあ頑張れ、高校生」


 そうしていると、海の家から四人の人影が出てきた。

 どうやら着替え終わったらしい。


「誠ちゃーん。お待たせ~」

「おぅ、待ちわびたよ、朱里。今年は頑張ったんだな」

「ぶー。素直に褒めてよ」

「もちろん似合ってるよ、朱里」


 確かに、まあ小中学生が背伸びしている、という印象は拭えないが――それでもそれを着こなしている、というのは確かだった。

 実際の小中学生ではこうはいかないだろう。


「どうよ、和樹君」

「まあいいんじゃないか?」

「ま、悔しいけど白雪ちゃんとかのがすごいわよ。ホントに」


 朱里がそういって体をずらすと――続く三人の水着姿が目に入る。

 いつの間にか、周囲の注目も集めていた。

 

「……よく、似合ってるな、白雪」


 かろうじて、それだけ言えた。

 普段の白雪は、どちらかというと服を着こむタイプだ。

 夏でも日焼けを警戒して長袖であることがほとんどだし、学校の制服はもちろん――昨今の流行りはあの学校では規制されてる――、普段のスカートも長い。

 ショートパンツなどを着用することはほぼなく、着る場合もタイツなどで素足を見せることなどまずない。


 だが今はそれらがなく、白雪の、その名の通りの白い肌が夏の陽射しに照らされて美しい輝きを放ってるようにすら見えた。


「ほら和樹君、何呆けてるのかな?」

「違う、呆けてない」


 言ってて、説得力が皆無なのは自覚があったが、他に言いようもない。

 その白雪は、褒められたのが嬉しいのか、少しだけ頬を染めて伏目がちにしている。その仕草はあまりにも可愛らしく――和樹以上に、その周りの有象無象にとって破壊力抜群だった。


 残る二人も魅力的だった。

 雪奈は水泳部だと聞いていたが、それゆえか水着の着こなしも慣れたもので、すらりと伸びた手足と、均整の取れたプロポーションはさすがだ。

 というか、どうやっても姉と並べると、どちらが年上に見えるかは、もはや考える必要すらないだろう。


 そして最後の一人である佳織は、ある意味白雪以上に破壊力があった。

 服で隠れていたが、この中では朱里に次いで背が低いにもかかわらず、プロポーションでいうなら圧倒的で、それを引き立たせる水着による破壊力はすさまじいものがある。


「……その、似合ってる……とは思うぞ、佳織」


 俊夫がかろうじてそれだけ言っていた。

 またいがみ合うのかと思ったが、それはなく、佳織もその誉め言葉に照れているのか、意外にもしおらしい。

 どうやら全く望みがないわけではないようだ。というより、単にお互いが素直じゃないだけかもしれない。


「さて、と。じゃあ準備運動して、とりあえず海に行こうーっ。時間は有限だーっ」


 朱里の、相変わらずのハイテンションの掛け声が響く。

 時間はまだ九時過ぎ。

 こうして予想外の人数が参加しての、海水浴が始まった。


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