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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
七章 白雪の夏休み
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第48話 予期せぬ合流

 その海水浴場は、期待通り人が非常に少なかった。

 湘南の海を臨み、江ノ島や、天気次第では富士山も見えるような場所でありながら、交通の便がやや悪く、車がなければ来るのが難しいため、学生などが来ることはあまりないのだろう。


 ただ。

 そこに着いた直後、白雪は唖然とし、和樹は苦虫を噛み潰したような顔になっていた。


「わー、すごい素敵な場所だね。雪奈、教えてくれてありがとね」


 そこにいたのは、白雪も和樹も予想もしなかった二人。


「……誠、朱里。なんでお前らがここにいるんだ」


 海水浴場の駐車場で待っていたのは、卯月夫婦――誠と朱里だったのだ。


「え? そりゃあ雪奈に教えてもらったからだよ?」

「……そういえば、姉妹だったな……」


 和樹が半ば諦めたように呟く。

 だが、白雪としては到底看過できず――雪奈に詰め寄った。


「ちょ、ちょっと雪奈さん。なんでお姉さんたちがここにいるんですか?!」

「わ、私も聞いてない。いや、海に行くって話したら、姫様と一緒かって聞かれて、教えちゃったけど……」

「だからって……」

「あと、引率が月下さんだってのも……言っちゃってて」


 白雪ががっくりと崩れ落ちる。


 このメンバーが揃うのは、五月のショッピングモール以来だ。

 あの時は白雪と和樹は他人の振りをしていた。

 あの後雪奈には口止めしたので、白雪と和樹の関係は伝わっていないはずである。

 が、今回うっかり口を滑らしてしまったのだろう。

 この状況だと、どう考えても白雪と和樹が赤の他人ではないことは、誰にだってわかる。

 振り返ると、朱里がすごくいい笑顔で白雪を見ていた。


「ま、まあお姉ちゃんの暴走は、私が何とか食い止めるから……多分」

「それでも、和樹さんに迷惑になるじゃないですか……」


 そもそもこの状況だと、夫である誠も和樹に何かしらの追及を行うのは、容易に想像ができる。

 そしてそれを止められる人間は、この場にはいない。


「まあまあ。でも姫様も、月下さんが姫様のことを本当はどう思ってるか、気にならないですか?」


 一瞬言葉に詰まる。

 が、すぐに首を振ると再び雪奈に掴みかかる。


「あれ以上何もありません。けど、和樹さんにはどう考えても余計な負担になっちゃうじゃないですか……」

「そこはホントにごめん。でも、私では暴走したお姉ちゃんを止めるのは、無理だよ……」


 そこは分かる気がする。

 こう言っては何だが、雪奈でもいろいろなことを色恋沙汰に結び付ける傾向があるが、これは女子高生特有だと思っていた。

 ただ、それをそのまま大きくした――見た目は小さいが――のが彼女の姉の朱里だ。そして大人であるがゆえに、頭の回転は学生のそれとは違う。

 話したのはあのショッピングモールでの一回だけだが、それは良く分かった。

 要するに白雪や雪奈では対抗できないのだ。


「とにかく……せめて、和樹さんに迷惑にならないようにしないと……」


 そんなことを呟いていると、後ろから和樹に声をかけられた。


「白雪。まあ……あいつらのことはとりあえずいい。お前は友達と折角の海を満喫しておけ。そうそう来る機会もないしな」

「え、でも……」

「まああいつらのことは大丈夫だ。(やま)しいことがあるわけじゃないしな。とりあえず着替えて来いよ」

「わ、わかりました」


 白雪は雪奈を促して、着替えスペースへ移動する。

 途中、また俊夫といがみ合っていた佳織にも声をかけると、朱里もついてきた。


「よろしくね、白雪ちゃん。色々話を聞かせてもらいな。あ、和樹君の話もたくさんしてあげるから」


 それはそれで聞きたいが――何を聞かれるかの方が怖い。


「お、お手柔らかにお願いします……」

「うん、任せて」


 その笑顔は、全く安心できるものではなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 更衣室はとてもきれいだった。

 ここは景観がいいため夏以外にも観光客は多いらしく、一年を通じて常設の施設がある。

 今年になって改築されたとのことで、少し前まではかなり古かったのが一新されたらしい。

 更衣室は個室になっているので、人の目を全く気にしないで着替えられるのが助かる。

 いつものことではあるが、どうしても水泳の授業などで着替える時も、人に注目されがちなのだ。


 もっとも、スタイルという点でいえば、白雪はむしろ細い方だ。

 それに関しては、雪奈の方がまだメリハリがあるといえ、白雪は内心羨ましく思っている。

 そして、それをはるかに上回るのが佳織だ。

 何しろ身長は白雪の方があるのに、明らかに佳織の方が一部は大きい。

 それでいて引っ込むべきところは引っ込んでいるので、女性としては羨望の眼差しで見るしかないほどだ。

 佳織は、私服はいつもゆったりとしたものを選んでいるし、制服ではわかりにくくなっているが、水着では隠しようがないと思うので、ちょっと楽しみではある。


「姫様、着替え終わった?」

「あ、はい。今出ます」


 白雪が選んだ水着は、布地多めの白いビキニに、パレオを付けたもの。

 胸の部分は首元まで布があるハイネックなので、胸の谷間が見えたりすることはない。

 少しだけフリルがついている可愛らしいデザインで、今回海水浴に来るにあたって新調したものだ。


「おー。さすが姫様。可愛さと色気のバランスがいいね」

「……可愛さはともかく、色気が足りてない自覚はあります」


 別に極端に細いという事はない。

 ただ、年齢標準よりはややボリュームが少ないのは否めない。

 こればかりは努力でどうにかなるものではなく、一応去年より今年の方が気持ち成長していると思うので、将来に期待したい。


 そういう雪奈は、スポーツタイプの紺色のセパレート水着だ。

 すらりと長い彼女の手足が、とても眩しい。

 部活で少し日焼けしているのが、健康的で色っぽいと思える。


「雪奈さんの方がスタイルがいいかと……ちょっと羨ましいです」

「姫様はこれからだと思いますけどね。そう思わない? 佳織……うわ、すごい」


 更衣室から出てきた佳織を見て、雪奈が思わず感嘆の声を上げた。

 白雪の位置からは、ちょうど雪奈に視線が遮られていたので、すぐには見えなくて場所をずらすと――。


「……なんていうか、すごいとしか」


 白雪もらしからぬ感想を呟いていた。

 タイプとしてはワンピースの水着なのだろうが、胸元やお腹の辺りは大きく布地が削られていて、佳織のスタイルが大幅に強調されるデザインだった。

 水着の色が黒なので、白雪と同じくらい肌の白い佳織だと、その色のコントラストがさらにスタイルを際立たせているようだ。


「……お母さんが用意したんです……私の趣味ではないですから……」


 二人に褒められた佳織は真っ赤になっていた。


「その、こういっては何ですが、ナンパを一番警戒すべきは佳織さんのような気がします」

「……うん。姫様もダメだけど、佳織もヤバイ」


 普段と印象が大きく違う理由に、通常外すことがないメガネをはずしているのと、いつもきれいに三つ編みにしている髪を解いて、ポニーテールにしているのがある。

 メガネはさすがに海でなくすわけにはいかないので、外している。

 元々そこまで目が悪いわけではないので、さほど困らないらしい。

 そして何気に、佳織も相当な美少女なのである。


「わー、みんなきれいだねー。……ウラヤマシイ」


 四人目は当然だが朱里だ。

 朱里の水着は、赤いビキニ。

 それを着こなすのはさすがと言いたかったが、見た目を考えると――。


「む。白雪ちゃんが中学生が背伸びしてる、というような顔をしてる!」

「い、いえいえいえ。そんなことは決して」


 全く否定できなかった。

 なんなら、小学生と思いかけたくらいである。

 わずかな仕草などには、確かに子供ではない大人の雰囲気があるのだが、立っているだけだとそれは全く分からない。


「むー。みんなスタイルよくていいなぁ……目の保養目の保養……」

「お姉ちゃん、変態っぽい」

「いいの。私は大人だから」


 どういう理屈かさっぱり分からない。


「それはともかく、行きますかね。お姉ちゃんも誠さん待たせてちゃ悪いでしょ」

「おー。では出陣じゃー」


 どうもこの姉妹は見た目こそ違うし、年齢もかなり離れているはずだが、根本的なところは非常によく似ている気がする。


(今日、どうなるんでしょう……)


 今から朱里との接触に慄きつつ、白雪は元気いっぱいの姉妹に続いて、夏の砂浜に出ていくのだった。


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