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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
七章 白雪の夏休み
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第44話 白雪からのお誘い

 墓参りから戻ってきてから、また白雪との距離は少しだけ変わったように思えた。

 具体的にどことは言えないが、強いて言うならより『家族』のような気安さが増したと思う。


 そして、八月に入る頃には、白雪が和樹の家に来る頻度は二日に一回以上に増えた。

 さらに滞在している時間も大幅に増えていた。

 時には昼からいることもある。

 それでも、和樹が仕事をしているのを邪魔することは絶対にないし、なんなら仕事中に喉が渇いたと思ったタイミングで冷たいお茶を用意してくれたりするので、むしろその存在はありがたいくらいだ。


 正直に言えば、ここまで必要なのかと思ってしまうが、白雪が以前のようにため込んでしまわないためなら、仕方ないと思うことにしている。

 それを指摘して、迷惑なのだと白雪が思って落ち込む事態は避けたい。

 それに、彼女の家とのことを考えれば、せめて今だけは望むとおりに過ごさせるべきだと思うので、和樹としては現状を受け入れることにしていた。

 実際、負担にはほとんどなっていない。


 強いて困ることを挙げるとすれば、暑くなって少しラフな格好が増えている白雪が魅力的に見えて、和樹としては目のやり場に困りそうになることか。

 着ているものはショートパンツなどではなく、膝下丈のロングスカートかロングパンツではあるが、上は薄手の半袖のブラウスだけということが多い。下着が透けて見えるということはないが、それでも普段と比べると明らかに薄着である。

 やや細い方とはいえ、十分に女性的な魅力があるのは否めず、どうしても見てしまいそうになってしまう。幸い、仕事に集中していればそれは気にならずに済むが。


 こういう時相談できる相手がいればいいのだが、残念ながらこの件に関しては誰もいない。というか、誰に相談しても悪い方向に行く未来しか見えない。

 結局自分で解決するしかないが、幸いというか、白雪は不必要に接触してくるようなことはないので、和樹が対応を間違えることはなかった。


 妹がこの年齢の時に一緒に過ごしていれば、距離感の掴み方も分かったのかもしれないが、一緒に過ごしていたのは妹が小学生までなので、やはり全く参考にならない。

 ただ、年頃の娘がいたらこういうものかもしれないと、最近は開き直っている。


 そんなわけで、今日も夕方頃から白雪は和樹の家に来ていた。

 和樹はもちろん仕事をしているのだが、邪魔にならない程度にあちこちを掃除したり、あるいはダイニングテーブルで、おそらくは学校の課題をやっていたりする。

 

 和樹が仕事を終えるタイミングも、ほぼ分かってきているようだ。

 浴室の掃除をしていたらしい白雪は、和樹が仕事を終えるのとほぼ同時にリビングに戻ってきて、和樹が仕事を終えているのを確認してから、近づいてくる。


「そういえば和樹さん、明日、港の方で花火大会があるそうなんですが」

「ああ、そういえばそんな時期だったか」


 この時期に、港湾地区で大規模な花火大会があるのだ。


「もしよければ、一緒に行ってみたいな、と……」

「いや、ここから見えるぞ」

「え?」

「なんなら、ここは特等席というレベルだ」

「そ、そうなんですか?」


 大学一年の時、誠や友哉、朱里たちと行って、そのあまりの混雑っぷりに閉口したものである。

 それに懲りて、翌年は行くつもりはなく家で過ごしていたのだが、実はこの家からも見えると分かり、愕然とした。

 高校時代に住んでいたマンションは山の逆側だったので、気付かなかったのだ。

 以後は、在学中は毎年和樹の家に誠たちが集まって花火を鑑賞してたものである。


 ただ、さすがに社会人になって、普通に平日に開催されることもあるため、集まることはしていない。

 今年は土曜日開催だが、今のところ連絡はないので、誠たちは来るつもりはないのだろう。というか新婚なんだから、二人だけで行ってこいと思う。友哉は今頃忙しいだろうし。


 とりあえず和樹は、ブラウザで地図を展開し、白雪に示す。


「打ち上げるのはこの辺り。マンションがここだから、間に遮るような高層建築もほぼないので、ばっちり見えるんだ。ここが比較的山の上だからな」


 ターミナル駅からほど近いとはいえ、ここは山の上といえる場所で、駅前のビル群もあまり邪魔にはならない。

 至近距離で見るような、花火の迫力を楽しむことはできないが、そこにこだわりがなければ、そこそこ距離があるので全体が見えるし、むしろここの方が楽しいはずだ。


「なので、この花火大会を見るなら、このマンションなら自宅からが一番だ。というか、去年気付かなかったのか?」

「去年は……その、帰省していたので……」

「そういえば今年は?」

「生徒会が忙しいので、ということで帰省はしないでいいことになってます」


 確かに忙しそうにしているのは事実だろう。

 ただ、その割には和樹の家には頻繁に来ているが。

 とはいえ、一日のうち長くても数時間と、数日かかる帰省では比較にはならないだろうし、白雪が帰省したくないと思っているのは分かっている。


「なら、家から見ればいい。なんなら、この上の白雪の家の方がよく見えるんじゃないか。バルコニーも広いだろう?」

「ええ、それは……あ、でしたら和樹さん、一緒に見ませんか?」

「え?」

「確かに仰るように、私の家のバルコニー、無駄に広いんです。特に五階にあるルーフバルコニーは本当に何のためにあるのか、と思うくらいで」

「……白雪の家は四階じゃなかったか?」

「一部、五階にも部屋があって、ルーフバルコニーがあるんです」


 メゾネットタイプというやつらしい。

 さすがに上層の構造は、ここに入居する時に資料で見たっきりであり、詳しくは覚えていないが、よくそれだけの広さをまともに維持できているものである。


「せっかくですから、お食事とか用意して、一緒に花火見ませんか?」

「そうだな……確かにそれは楽しそうだ」


 特等席で、白雪の食事付きでの花火見物だ。

 さすがにこの誘いは、断るには魅力的すぎた。


「じゃあ明日。開始が七時みたいですからその前……六時半くらいでしょうか」

「わかった。じゃあ明日。何か持っていく物はあるか?」

「強いて言えば……お酒?」

「おい」

「ち、違います。そういう場なら、和樹さんでも飲むのかなぁって」

「……まあ確かに」


 いくら夜とはいえ、真夏でありおそらく暑い。

 予報を見ても熱帯夜は確定の様だから――ビールくらいは欲しくなりそうだ。

 とはいえ、未成年の前で一人だけ飲むのは……と思うが。


「考えておく」


 少しは持っていきたいと思ってるのは、誤魔化せなかった。


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