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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
六章 環境の変化
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第38話 白雪の決意

「会長推薦?」


 いつもの金曜日の講義が終わった後、白雪が話した相談内容に、和樹は不思議そうに首を傾げていた。

 それは仕方ないだろう。

 普通の学校では、生徒会長は自薦他薦はあれど、最終的には本人の意思で立候補し、選出される。

 一応会長推薦は他薦の一種ではあるだろうが、その意味合いがあまりに異なる。


「はい。事実上、次の生徒会長の指名に近い意味合いなんですが……普通は副会長が指名されるか、推薦なしのはずなんですけど」


 気になったので、過去の生徒会の記録を借りて過去十年ほどをざっと見てみたが、完全な部外者が前会長に指名された記録は、見当たらなかった。

 つまり、白雪が請けた場合、ここ十年では初のケースということになる。


 ちなみに副会長以下の選出については、原則会長の指名制だ。

 慣例で副会長は新入生の首席となっていることが多いが、これも絶対ではなく、同じ二年生を選出した例もあるらしい。

 その場合は翌年は会長推薦はなく、普通に選挙が行われているが、十年以内ではそのケースは一度しかなく、それ以外は全て新入生の首席が副会長を務めていると記録されている。

 去年、白雪が副会長就任を断ったことは、その慣例を十数年振りに破ったことになるらしい。


「ずいぶん会長の権限が強い仕組みだな……まあ学校によるとは思うけど」


 もっとも、白雪の通っていた中学だと、これよりさらに偏っていた。

 ほぼ家柄で会長職が決まっていたから、そう考えればまだマシだとは思う。


「それで、白雪は引き受けるか迷ってる、と」

「はい……実績も経験も何もないわけですし。うちの生徒会は権限も大きいですので、間違えた時の影響は大きくて……自信ないです」


 通常通り副会長が選ばれれば、当然だが会長のそれまでのやり方を見ているわけで、それだけの経験があることになる。

 しかし白雪の場合、全くの未経験だ。

 なまじ権限の強い生徒会だけに、その重責にはさすがにしり込みしてしまう。


「その分いろいろ評価もされるのだろうね。まあ名門校ならではともいえるが。しかし、イメージ的に男性優位の旧態依然したところがあるかと思ってたけど……結構過去にさかのぼっても女性会長も多いね」

「そうなんですか?」


 和樹が渡された過去の生徒会の歴史を見ながら、感心したように言う。

 確かに、中学の時は完全に男性優位な雰囲気はあった。

 白雪自身、『白雪姫』と呼ばれて憧憬は集めていたが、一方で『女のくせに』的な物言いをされたことも一度や二度ではない。

 そう考えると、聖華高校は進歩的と言えるかもしれない。


 ほら、と資料を返してくれたので見返してみると、確かに十年以上前でも女性の名前が並んでいた。


「確かに……結構フランクな校風は昔からって聞いて……え?!」

「どうした?」

「……お母さんの……名前があります」

「え?」


 白雪が指さしたそこには、『北上雪恵』という名前がある。


「これが、お母さん?」

「はい。年代も一致……します。お母さん、生徒会長やっていたんだ……」


 今から十八年前。

 一年では副会長を務め、二年で会長推薦を請けて生徒会長に就任したと記録されていた。

 そこにはその生徒会の簡単な業績なども記載されており――そこにもう一つ、白雪は知った名前を見つけた。


「……京都の学校との交流会……これ、多分お父さんの……」


 白雪が通っていた中学は、本来中高一貫の学校だった。

 伯父もそこの出身だったと聞いてるし、おそらく父もそうだったはずだ。


 そういえば昔、父と母は遠く離れていたのに何で出会ったのか聞いた時、学校同士のイベントがあったんだよ、と言っていた気がする。

 おそらくそれがきっかけだったのだろう。

 記録によれば、交流会は一年で三回も行われている。

 しかもうち二回はインターネットを使ったものではなく、お互いの学校へ訪問している。

 新幹線で数時間の距離であることを考えると、驚異的な頻度だ。

 それだけ開催した理由は――考えるまでもないだろう。

 とんでもない職権濫用もあったものだ。


「引き受ける理由、増えたんじゃないか?」

「え?」

「お母さんが見ていた景色を見れるんじゃないかな」

「あ……」


 父と母が辿った軌跡。

 それを辿れば、あるいは閉塞した未来を拓くことができるかもしれない。

 実際、父はおそらく、本来であれば母と結婚できる未来はなかった。

 それは、両親が死んだ時の実家の対応を見ても明らかである。


「わかりました。ちょっと……本気で考えてみます」


 最大の懸念は大幅に忙しくなることで、これまでの様に時間を取れなくなることだった。

 白雪は一人暮らしであることを理由に、部活には入ってない。

 だが、生徒会長になれば、おそらく大幅に時間が無くなるだろう。


(それで……この時間が無くなるのは嫌ですしね……)


 ただそれは、やってみなければわからないことでもある。

 そして、やってみたい、と思う気持ちの方が、今は強い。


(副会長とかの指名も考えないといけませんし)


 会長がその他の役員を指名で決める理由は、会長権限の強さもあるが、事実上会長の独裁状態を作るためでもある。

 人数が少ないので、内部で対立して生徒会が機能不全を起こさないためだ。

 それだけ、会長に強い権限を与えても大丈夫という人間を選出する仕組みでもあるのだ。

 無論教員による監査もあるが、過去問題が出たことはほとんどない――母がやってたと疑われる職権濫用はどう思われいたのか気になるが。


 それに、完全部外者の推薦となれば、信任されるかどうかもわからない。

 会長選が信任投票の場合は、その権限の大きさもあって賛成が七割を超えないと不信任とみなされるという。

 その割に、会長の信任投票にあたって、選挙活動めいたアピールは許可されてない。投票日当日の、前会長の応援演説のみだ。本人は文字通り何もさせてもらえない。つまり基本的に、実績ありきの推薦なのだ。

 ちなみに不信任となった場合は、会長推薦がなかった場合同様、普通の学校の様に立候補制での選挙が実施される。

 そちらでは普通に選挙活動も可能だ。ただ、不信任になっても立候補できないということはないが、さすがにそれはする気にはならない。


 推薦を受諾すれば、あとは信任投票が行われるだけなので、そこまでは忙しくなることはない。会長になってしまった場合は、どうなるかわからないが。

 とりあえず今日のところは――和樹との時間を楽しむことにして、白雪はキッチンに入っていった。


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