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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
五章 拡がる繋がり
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第35話 偶発的遭遇

「で、なんで俺が、お前らに付き合わないとならないんだ?」


 郊外にある大規模ショッピングモールの中で、目の前でいちゃつく二人に、和樹は不満を隠すどころか不満全開で毒づいた。

 その毒づかれた新婚夫婦はといえば、全く悪びれる様子もなく――。


「いや、お前がいつも家に閉じこもって、不健康そうにしてるから」

「余計なお世話だ。だいたい、ゴールデンウィークなんて混むのが分かってる時期にこんな場所に来るなんて、アホだろう」


 和樹は、こんな場所に人が多いと分かってる時期に来る奴は、物好きだと決めつけている。

 こういう場所は、人が少ない時期に来るのが基本だ。


「まあそういうな。ゴールデンウィークならではのイベントだってやってるんだ。ほら、お前の好きな城の特集」

「あのな。俺が好きなのは自然の中にある城で、別に全部好きってわけじゃ……まあ嫌いでもないが」


 和樹の数少ない趣味の一つに、城がある。

 といってもすべての城というわけではなく、どちらかというと自然を利用した城が趣味だ。

 どういう意図でそこに城を築いたのかというのを考えると、なぜか楽しくなってしまう。地図を見るのも好きだったりする。

 現地まで行くのは、出不精ゆえに稀だが、それでもそういう資料などを見るのは、かなり好きである。


 そして確かに、お城関連の特別展示が、今ここでやっているのだ。

 開催されることはもちろん知ってはいたが、ゴールデンウィーク限定の展示なので見るのを諦めていた。

 そこに、卯月夫婦からの誘いがあったから乗ったのは、否定できない。


「あとはまあ、新婚生活で入用なものを買うのに、お前の意見も欲しくてな。お前、生活用品買う時の着眼点がいいし」

「俺の主観になるぞ、それは」

「いいさ。俺も一人暮らしは二年ほどやったけど、寮生活だから最低限は最初に揃っててな。けど今回は新しく揃えないとならなくて、新婚生活半月も経つと、まあ色々欲しいものは出てくるわけで。最近便利グッズとかも多いけど、あまり俺は知らないし。まあ土産も後で渡すからさ」


 卯月夫婦は結婚後、すぐに新婚旅行で一週間ほど海外に行っていたはずだ。

 今日は、そのお土産をもらうという目的もあった。


「とりあえず雑貨屋から回るか」

「まあいいけどな……」


 学生時代から付き合いがあるこの二人に振り回されるのは、今更ではある。

 かつては友哉も巻き添えになっていたが、さすがに司法修習生の身分では忙しいらしく、今回はパスされた。

 早くまた会えるようになりたいものである。

 そうすれば被害が分散してくれる。


「とりあえず昼まで……あと一時間くらいか。買う物だけ先に決めて、昼後、かね。昼は混む前に食べた方がいいだろうし」

「さすが和樹君。こういう時の段取りは頼りになるね」

「お前らが考えなさすぎなんだ……」


 まあ実際にはそこまで考えなしというわけではない。

 特に、朱里はそういうキャラ作りをしてる傾向がある。

 見た目で開き直っているというべきか。


 それにしても、誠と朱里が二人並んでいると、やはり夫婦には見えない。

 腕を組んでくっついているからとても親しいのはわかるが、夫婦だと思う人はおそらく一人もいないだろう。

 どちらかというと、かなり年の離れた兄妹だ。

 まあ、このギャップが見てて飽きないのだが。


「和樹くーん。置いてくよー?」


 考え事をしていたら、いつの間にか二人が先に行っている。

 慌てて和樹は二人を追いかけた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 午前中は、主に日用雑貨系を中心に回っていった。

 買う物は大体午前中のうちに目星をつけてある。

 基本的に、二人の新居の様子を聞いて、そこから和樹が必要そうなものを推測して提案する形だ。

 最近は便利グッズがとても多いので、それこそ百均でもいいモノが揃う。


 誠は就職後に実家を出ていたが公務員の寮で、朱里はずっと実家住まい。

 何気にゼロから生活環境を構築するのは、二人とも初めてなのだ。

 確かにそれで経験者である和樹に意見を求めるのは、分からなくはない。


 まあ余計なものを買っても仕方ないし、良さそうに見えても使用頻度を考えると実は要らない、なんてものもこういう時はうっかり買ってしまうことが多いので、慎重に吟味したほうがいい。

 特に朱里はすぐ手を出しそうになるが、それは何とか押しとどめて午前中は購入候補リスト(写真ともいうが)を作るのに集中させる。


 そうしていたら、いつの間にか昼近くなっていた。

 和樹に促されて、一行はフードコートに移動する。


「うわぁ、ホントに混むんだねぇ、こういうの」

「だから俺はこういう時にこんな場所来ないんだよ」

「まあいいじゃん。ちゃんと席確保できたんだし」


 このショッピングモールはかなり大きいだけあって、フードコートもかなり広い。

 だが、今日は休日。

 昼になると混むと予想した和樹たちは、十一時半過ぎにはもう席を確保していたので何とかなった。

 ただ、肝心の店の方がやたら混んでいて、それで結局待たされている。

 そうしている間に、フードコートはどんどん人であふれて、ほぼ空席がなくなっている。


「席を先に確保しておいてよかったねぇ。和樹君は何にしたの?」

「生しらす丼。有名な店が入ってるからな」


 かなり並んで、つい先ほどやっと注文できたのである。

 新鮮な生しらすがたっぷり乗ったどんぶりは、家ではもちろん、普通の店でもまず食べられない。

 実は、初詣に行った時に、白雪とお昼にここにある店と同じ系列の店に行ったのだが、その時は季節じゃなかったので、この生しらすは食べられなかったのだ。

 誠と朱里は別の店のステーキセットを持ってきていた。

 とりあえず三人で食べ始めようとしたとき――。


「あれ? お姉ちゃんに誠さん……と、月下さん……でしたっけ」


 どこかで聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 見ると、やはりどこか見覚えのある少女がそこにいた。


「雪奈じゃない。どうしたの?」


 朱里が名前を言ったことで思い出した。

 先日の誠と朱里の結婚式で会った、朱里の妹だ。

 制服ではなく私服なので、すぐにはわからなかった。

 朱里の様子からすると、予定を合わせたとかではなく、本当に偶然のようだ。


「私は友達と映画観てきたの。お姉ちゃんは?」

「私たちは買い物。和樹君も付き合ってもらってるの。席探してるの?」

「うん。そうなんだけど混んでるね……ちょっと無理かな」

「まあこの時間だからねぇ。お友達もいるの? 席、まだ余裕あるから一緒に食べる?」

「え、いいの? 今友達がお店決めるところで……三人なんだけど、お邪魔してもいい?」

「俺は構わんけど、和樹もいいか?」

「この状況でダメというほど大人げなくないぞ、俺は」


 大きめのテーブルで片側長椅子なので、三人ではむしろ悪いと思っていたくらいだ。椅子を一つ持ってくれば、六人でも全く問題はない。


「ありがとうございます。助かります」


 そう言うと、雪奈は少し進み出て和樹のすぐ横まで来て、「こっち、こっち」と言いながら背後の方向に手を振った。

 そちら側に友人がいるのだろう。


 そういえば、雪奈は白雪と同じ学校だったはずだが、まさかそんな偶然は――と思って振り返って、和樹は驚愕のあまり凍り付いた。

 それは向こうも同じだったらしい。


「なっ……」

「え? 和樹さん!?」


 そこにいたのは、高校生と思われる女性二人。

 一人は見たことがない、メガネをかけた、少し背の小さな女の子。

 そしてもう一人は、見覚えがあり過ぎるというか、ほぼ毎週金曜日に一緒に食事をしている少女――白雪だ。


 そして白雪は、完全に口を滑らせていた。

 雑踏の中なので、その言葉が他の人間には聞こえてないことを期待したかったが――すぐ横の雪奈が、白雪と和樹を交互に、そして興味深そうに見ていた。


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