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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
五章 拡がる繋がり
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第34話 予想外の繋がり

 新学年になったが、白雪の環境にはあまり変化はなかった。

 これは、雪奈と佳織が同じクラスだったのが大きい。


 一番変わったことといえば、時々ではあるが、二人と放課後に出かけることがあるようになったことだ。

 一年の間は、どうしても自分の立場を慮る人が少なからずいることから、雪奈や佳織に嫌がらせをする生徒がいるのではという懸念があったのだ。

 実際、小学校の頃、玖条家に来てすぐの頃にあったことである。


 ただ、さすがに一年も経てばそういう事はないだろうと思えた。

 この学校は、そういった差別意識はさすがにほとんどないと、分かったというのもある。


 今日は、新学期初日に行き損ねた、イートインがあるパン屋に寄り道していた。

 学校近くの本屋に寄ったりはあったが、帰りに友達と買い食いするのは、白雪は生まれて初めての経験でもある。


「姫様とやっと一緒に来れたよ。なんか感無量……」

「そんな大げさな……」


 白雪はカレーパンを一口かじる。

 生地の揚げ具合と中にあるカレーのスパイシーさがマッチして、とても美味しい。

 さすがにこれは、ちょっと家では再現できそうにない。


「いやいや、ホントに。まあ、この間は体調あれだったけど。大丈夫だった?」

「ええ。薬飲んで寝たら、夜には回復しましたので」


 あの時は、和樹にはとても迷惑をかけてしまったので、反省しきりである。

 ただ、和樹が『最初の方がよっぽど世話になったし、父親なんだから頼っていいよ』と言ってくれたのが、とても嬉しかった。


「……姫様なんかいいことあったんですか?」


 佳織が怪訝そうに顔を覗き込んできた。


「い、いえ!? 別に何でもないです、よ。パンが美味しくて」

「……アヤシイ」

「どしたの、佳織」

「何でもないです。そうえいば、雪奈ちゃんのお姉さん、結婚したんでしたっけ」


 どうやらそれ以上は追及してこないらしいので、白雪は思わず胸をなでおろしていた。一方でその変更された話題の方も気になる。


「あ、うん。今月頭にね。今新婚旅行中。結婚式のお姉ちゃん、きれいだったな~」

「写真、ないのですか?」

「あー。集合写真ならあるかなぁ。これ。うっかり低画質モードで撮っちゃったやつだけど。今度ちゃんとしたやつ見せるね」


 そう言って雪奈が見せてくれたのは、参列者全員が集まったと思われる、披露宴での集合写真だ。

 距離がある上に広い範囲を映しているため、顔の判別も難しいが、全員が楽しそうに笑っているのは分かる。


「素敵ですね」


 白雪は思わず、そう呟いていた。


「いつか姫様の結婚式見たいなぁ。ものすごくきれいだろうし」

「……そう、ですね」


 おそらくその結婚式で自分が笑顔でいられる可能性は、ほとんどないだろう。

 仕方ないと諦めてはいても、改めて認識すると辛い。


「姫様?」

「あ、いえ。なんでもないです。パン、美味しいですね」


 話題を何とか変えて誤魔化そうとする。

 さすがに無理があったのか、二人は一瞬不審そうな眼を向けてくるが――。

 二人とも何も言わず、「そうだねー」とだけ追従した。

 こういう時の二人の気配りは、とてもありがたい。


「そうそう。佳織、今年の情報の教科書、見た?」

「言わないで……」


 佳織がこの世の絶望を見たような表情になる。

 二年生になってさらに難易度が上がった実習(プログラミング)の教科書は、白雪も見た。

 多分、白雪は何とかなるだろうとは思う。

 とはいえ、和樹の家庭教師を辞めるつもりはない。


「情報ダメ同盟は孤独です……」

「ちゃんとやればどうにかなります、よ?」

「それは出来る人の言葉です……」

「佳織さん、他の勉強はすごくできるのに、なんで情報だけ……」

「それは私も分からない、佳織の神秘ですよ、もう」


 佳織は、おそらく情報でまともに点を取れるなら、学年首位も十分狙える。

 何しろいくら配点がやや少ないとはいえ、実習(プログラミング)の成績は赤点すれすれ――たまに補習されているほど――なのに、上位十人に名を連ねられるのだから。


「いいんです。私はこの先も、プログラムとかとは縁のない人生を歩むんです」

「まあ実際佳織はそれでも大学入れそうだしね」

「大学、ですか……まだ二年生ですけど、そろそろ考え始める必要はあるでしょうね」

「姫様は当然進学で?」

「……できれば、ですね」

「むしろ姫様が進学できなかったら、誰もできないかと」

「そう、かもですけど」


 そもそも進学させてもらえるのかが分からない。

 伯父は女に大学は無駄だ、と言いそうだ。


「姫様?」

「いえ、何でもないです。選択肢は色々あるといいな、と思って」

「ですね。まあ、まだ私たちは未来が拓けてますし」

「佳織の場合は情報以外だけど」

「酷っ」


 佳織の嘆きに、雪奈が容赦ない追撃をしようとして――別のことを思い出したのか、白雪に視線を移した。


「そういえば、姫様、この間また告白されてました?」

「ああ……はい。同じクラスの方でしたが」


 一年の最初から学校中で知られていたため、もうそういう人はいないと思っていたのだが、違うクラスだからという理由で、今まで興味を持ってこなかった男子もいたらしい。

 今月すでに二人に告白され――お断りしている。


 昔からこの容姿で男性に好意を持たれることは多い。

 中学からそういうことを言われた回数は、もはや数える気もしないが、白雪にはそもそも将来の結婚相手を決める自由もなく、必然的に男女交際そんなものにも興味を持つことができない。

 だから、そういった告白は煩わしいだけである。


 とはいえ、中には本当に真面目に告白してくる人もいるので、断るならちゃんと面と向かって、と思っている。用心のために、二人だけで会うようなことは絶対にしない様にしているが。


「多分、今後増えると思いますよ。今度は一年生が」

「……年下の方はさらに興味ないのですけど」

「という事は姫様は年上好き、と……」

「ちょっと!?」


 言われて一瞬和樹を思い出したが、それはすぐ振り払う。


「あー、でもそういえば、西恩寺先輩とはどうなんです? あの時の相談が告白だったって話もありましたけど、違うんでしたっけ」

「違いますね。まあ玖条家と西恩寺家は多少つながりがありますので、その連絡があっただけです」


 実際には、告白されたのと意味合いは限りなく近かったかもしれないが。

 ただ、到底話せる内容ではない。


「まあ正直、姫様と釣り合うのって、西恩寺先輩くらいだよねぇ」

「別に……釣り合うとかって意味、あまりないと思いますけど」


 今時、家柄などで結婚相手が決まるなど、時代錯誤も甚だしい。

 もっともそれを伯父に言っても、まるで聞いてくれないのだろう。

 白雪自身は、お互いが好き合っていて、結婚していいと思えば、それでいいと思っている。

 父と母の様に。

 ただ、その自由は、白雪にはない。


「それはまあそうだけどねー。お姉ちゃんとか、見た目に関しては釣り合わな過ぎたし」

「それは酷いのでは……」

「いえいえ。お姉ちゃん可愛いんですよ? でもね、その、背がとても低くて……自分で百五十って言ってるけど、実のところさらにあと五センチ以上は小さくて。で、旦那さんは百八十近いの。同い年なのに。もう背の高さのアンバランスが凄い」


 そういって、もう一度先ほどの写真を見せてくれる。

 確かに、写真中央の新郎新婦は、頭一つ以上背が違う。

 下世話な話だが、キスするのも大変そうだ。


「まあ昔からの馴染みだから、そのまま結婚したんだけど。昔はそんな背は変わらなかったのが、誠さん、高校入ってからぐんぐん背が伸びたのよね」

「その頃雪奈ちゃんは小学生……憧れの人だった?」


 ごす。

 雪奈の拳が佳織の脳天に落ちた。

 結構いい音がした。


「い、痛い……」


 佳織が頭を押さえてテーブルに突っ伏している。


「そういう方向にもっていかないの。憧れる前に、誠さんとお姉ちゃんっていっつもいちゃいちゃしてたから、そういう感情もつ以前だったわよ」

「相手の方、誠さん、というのですか?」


 白雪の確認に、雪奈は「うん」と頷く。


「卯月誠さん。うちとは昔から家族ぐるみの付き合いだから、私なんて多分おむつ交換されてたかも」

「それはそれで恥ずかしい?」


 佳織がからかうように言う。


「うん、ちょっと。というか、うちではその話はタブー」


 そういって二人が笑ってる一方で、白雪は気になることがあった。


(今月頭に結婚式……確か和樹さん、『誠と朱里の結婚式に行く』と言ってましたが……まさか、偶然ですよね。そういえば、お姉さんの名前は……)


「そういえば雪奈さん。結婚したお姉さんって、お名前は?」

「あ、言ってなかったっけ。つざ……違う、もう名前変わったんだ。卯月朱里だよ」

「!?」


 名前が一致。

 雪奈とお姉さんとの年齢差は確か八年と先日聞いたから、おそらく今二十四歳。同い年ということは、相手の『誠さん』も二十四歳。つまり年齢は和樹と間違いなく同じだ。

 そして四月頭に結婚式。

 いくら何でも、これで偶然の一致はありえない。

 雪奈が言う『誠さん』は、ほぼ間違いなく和樹の友人の一人だ。

 あのクリスマス前の打ち合わせが思い出される。

 画面は見なかったが、確かあの時男女一緒にいたのが、おそらくその二人だ。

 こんなところに繋がりがあるとは、思いもしなかった。


「姫様、どうしたの?」

「あ、いえ……何でもないです」


 考えてみたら、だからと言って和樹と白雪が結びつくはずはない。

 友人の姉夫婦の友人が、自分と知り合いで、同じマンションに住んでいるというだけだ。

 ほとんど無関係だろう。


 その時は、白雪はそう思っていた。


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