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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
序章 二人の出会い
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第3話 孤独の牢獄

 白雪が扉の横にあるパネル近くにスマホをかざすと、カチャ、という音がして、ロックが解除されたことを知らせてくる。

 取っ手を引くと、その扉の大きさにしては非常に軽い感触で、扉が開いた。

 続けてオートで電気がついて、廊下を照らす。


 四階は四つしか部屋がない。

 低層階のファミリー向けが、一フロアに部屋が十二あるのに対して四つなので、実質その広さはほぼ三倍。

 大きなリビングに、広いダイニングにキッチン、それに部屋が四つもあり、マンションだというのに風呂とお手洗いは家族用と来客用の二つある。さらに窓からの眺めもいい。

 加えて、この部屋は特別仕様のメゾネットタイプで、一部五階にも部屋がある。しかもその二つをつなぐ階段の壁は全面ガラスであり、日当たりと眺望も抜群に良い。

 まさに高級マンションの一室だ。


 しかし、白雪が部屋に戻った時、彼女を迎える者はいない。

 自分以外誰一人いないこの部屋は、まさに牢獄にも思える。

 いや、実際白雪にとっては牢獄に等しいのかもしれない。

 入ってから小さく息をつくと、カバンをしまってベストを脱ぎ、ハンガーにかけた。

 途中、お風呂の給湯ボタンを押して、リビングソファに体を放る。


(本当に、危なかった)


 ――今頃になって、恐怖がよみがえってきた。

 強烈なヘッドライトに埋められた視界。

 車が突っ込んできているというのはわかってはいたのに、足がすくんで動かなくなっていた。

 このまま車にはねられたらどうなるか――とかいうことを考えていた気がする。


 実際、そうなってしまえば楽だったかも、という考えすら浮かんでくるが……。


「大丈夫でしょうか、あの方の怪我……」


 同じマンションの住人。

 実は名前だけなら、エントランスの郵便受け(メールボックス)にあったのを覚えていた。

 まさかこのような形で話すことになるとは思ってもいなかったが。


 本当に危機一髪というレベルだったと思う。

 むしろ良く間に合った。

 すぐそばにいたならともかく、彼がいたのは確か道の反対側だ。

 そこから、数メートルを飛んで白雪を助けられたのは、本当に奇跡のようなタイミングだったと思う。

 下手をすれば二人とも轢かれていてもおかしくなかった。

 にもかかわらず、そのリスクを冒してまで助けてくれて、しかも怪我までして。

 あの勢いで吹き飛んだのに、自分はほぼ無傷。制服すらほとんど汚れていない。

 よほど上手くかばってくれたのだろう。

 ただ、その結果があの怪我だと思うと、申し訳ない気持ちになる。


「そもそも、こんなに遅くならなければよかったのですが」


 今日は学校は普段通りに終わったが、伯父がこちらに来てるとのことで、そのあいさつ回りについてい来い、と言われてしまったのだ。

 食事の時間もろくに取れずに、よくわからない何々家の子息だのなんだのを次々に引き合わされたが、正直全く覚えていない。

 いろいろ美辞麗句を並べ立てられていたとは思うが、白雪の心には何一つかからず、上滑りしていった。


 解放されたのは夜の二十一時過ぎ。

 女子高生をいつまで連れまわすのかと伯父に文句を言いたくもなるが、前時代的な感性の持ち主である伯父は、女が男に従うのは当然だと思っている人だ。言っても無駄だろう。

 それでも帰りの車は出してくれたが、いろいろと頭に来ていたので、少し手前で降ろしてもらって、頭を冷やすために歩いたところであの出来事が起きた。


 あれでもし白雪が大怪我をしていたら、あるいは送ってくれた運転手が責任を問われたかもしれないと考えると、何事もなくてよかったが、代わりに和樹が怪我をしてしまったのは申し訳ない気持ちがある。


「……そもそもあの方、なんで外にいたのでしょう?」


 そう考えて、出かける直前だったか帰ってきた直後のどちらかしかない、と思いいたる。

 こんな時間になぜ、と思うが――白雪では理由はわからなかった。

 手に何も持っていなかったから、買い物帰りということはないだろう。


 直後、お湯張りが終わったことを知らせるアラームが鳴った。

 帰宅してからすぐソファに飛び込んでしまったので、制服がしわになってないかと思ったが、問題はないようだ。

 大きな風呂に一人浸かっていると、今日の疲れが湯に溶け出していくようだ。


(そういえばあの方……食事、できるのでしょうか)


 あの足は相当にひどく痛めていた。

 一日で回復するとは思えず、おそらく家の中でもまともに歩くこともままならないだろう。

 見たところ一人暮らしの様だったから、食事を作ってくれる同居人などはいないようだ。

 それに氷を取り出す際に見てしまった冷蔵庫の中は、ほとんど空っぽに近かった。


(明日、様子を見に行ってみましょう)


 もし骨に異常があれば病院に行ってもらわなければならないが、あの様子では歩くのも難しいはずだ。

 命の恩人に対して、それくらいはしなければ罰が当たる。

 どうせ明日の休みにやることなど何もない。


 白雪はとりあえず午前中に行くことに決めて、寝る準備を始めた。


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