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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
三章 白雪の理由
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第23話 朝帰りの白雪

 正月の間、和樹はかなり暇だった。

 元旦は、せっかくだから初日の出を見ようと思っていたのだが、起きたのは日が昇った後。

 結局普段とあまり変わらない。


 正月だからと、何か特別なことをすることもない。

 去年はまだ、お節料理っぽいものを買ってきたりしていたが、社会人になって二年目、一人で過ごす正月も三回目となると、もう何か特別なことをやる方が面倒だ。

 まして和樹の場合、そもそも休みという感覚もあまりない。


 それでも二日目には友哉が遊びに来たので、せっかくだから近所に初詣に行こうとして――挫折した。

 二日目でも予想以上に混んでいたのだ。

 人混みが苦手なのもあるが、友哉と一緒だと目立ち過ぎる。

 結局二人で適当に総菜類を買って、和樹の家で飲み食いしていただけだった。


 三日目となると、もう特別感も欠片もない。

 いつも通りに起きて、今のうちに対応できる依頼(仕事)を先に片付けていた。

 途中、親から電話がかかってきたのが、唯一正月っぽいことと言えた。


 夜もいつも通りで、特別なことも何もない正月の三箇日を終える……その、最後の五分に、想定外のことが起きた。


 日替わりまであと少し。

 あとは寝るだけ、という状態でリビングでくつろいでいたところに、インターホンの呼び出しが鳴ったのだ。

 しかもこれは、扉の前の方の音。

 一体誰が正月の深夜に、とスマホを確認して――驚いた。


「玖条さん!?」


 正月に帰省すると言っていたはずの彼女が、そこに映っていたのだ。

 一瞬幽霊かと思ったくらいである――そんなはずはないのだが。


 慌てて扉を開けると、憔悴しきった彼女がそこにいて――そのまま倒れこんできた。

 倒れないように支えると、かろうじて聞こえる声で、だがとんでもないことを彼女が言ってきた。


「一緒にいて、ください……」


 それを最後に、彼女の意識が落ちていた。


「ちょ、玖条さん!?」


 ゆすってみるが起きる気配はない。


「……どうしろと……」


 とはいえ、いつまでも玄関先で抱き留めているわけにもいかない。

 何より寒い。


 とりあえずあきらめて、白雪を部屋に入れる。

 完全に寝入っているが、それでも白雪は軽かった。

 しばらく考えて――結局自分のベッドに寝かせる。

 せめてコートは脱がせるべきかと思ったが、それすらためらわれ――結局そのまま、布団をかけた。

 一度玄関に戻って彼女のキャリーケースを家の中に入れてから、また部屋に戻ると、そのままベッドの横に座り込む。


「一体何があったんだ……?」


 帰省をあまり歓迎していないのは、わかっていた。

 とはいえ学生が、それも高校生が正月に帰省しないというのは、普通はない。

 彼女の家の事情は全く分からないが、おそらく和樹では想像できないような悩みがあるのだろう。

 だとしても、深夜に男の部屋に来て『一緒にいて』というのはいくら何でもない。

 この状態の女性に手を出すほど和樹は節操なしではないが、そうなっても文句が言えないレベルだ。無論それでも犯罪行為には違いないし、手を出すつもりなど欠片もない。


 そもそも、最初から白雪の和樹に対する距離感はどこかおかしかった。

 警戒心がなさすぎると言ってもいい。

 一番最初は、和樹がまともに歩けないほどに足を痛めていたから、まだわかる。

 それに今思い返せば、一番最初に朝食をもらった時までは、まだ彼女は警戒していたように思える。

 だがそれ以後は、無条件で信頼しているというレベルで警戒心がない。

 何か理由がないと説明がつかないが――さすがに今回は聞く必要があると思えた。


「……まあ、別に怒るつもりはないが――」


 白雪は安らかに眠っている。

 コートを着たままなのは申し訳ないが、寝苦しいということはないようだ。

 多少皺になるかもだがそれは許容してもらおう。

 とりあえず今日のところはソファで寝ることにして、和樹は寝室の電気を消した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「お……おはよう、ございます……」


 深々、というか文字通り直角ほどに腰を折った挨拶だった。


「ああ、おはよう。考えてみたら、おはようって挨拶は初めてだね」


 あまりに現実感がなさ過ぎて、ひどく的外れな感想が先に出てきた。


 翌朝。

 和樹が起きたのが七時前。

 寝室でごそごそという音がしたので、目が覚めた。

 何やら独り言が聞こえた気がするので、さぞパニック状態なのかもしれない。


 十分ほどして部屋から出てきた白雪が、申し訳なさそうに深々と挨拶してきたのである。


「え、えと……その……」

「うん、まあ正直、さすがにいろいろ説明は欲しいが……いったん帰ったらどうかな。俺もまあこの後少し仕事するから……そうだな。昼過ぎ……十三時くらいに来てくれればいい」


 白雪はなおも何か言いたげであったが、それはいったん収めたようで、「わかりました」と言ってもう一度深々と一礼して、部屋を出て行った。


「まあ、体調が悪いってことはなさそうだが」


 昨夜見た時の白雪の顔はひどく憔悴しているように見えたが、今は大分顔色がいいように思えた。

 一度夜に様子を見た時も、どちらかというと安らかな寝顔に見えたので、よく眠れたのだろうとは思う。

 しかし男の家で安心するのはどうかと思うが、そのあたりも何か理由があるのかもしれない。


「とりあえず……仕事するか」


 実のところ正月暇だった時にある程度やってしまっているが、何かしていないと落ち着かない。

 とりあえず和樹はパソコンを起動し、メールを確認した。

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