第19話 年越しの予定
『大晦日っていますか?』
そんなメッセージが白雪から送られてきたのは、年明けまであと三日というタイミングだった。
正直、年内はもう連絡はないと思っていたので驚いたし、白雪はどこかは分からないが帰省しているものだと思っていた。
とりあえず今年は家にいることを伝えると、『年越しそばを一緒に食べませんか』というメッセージに、思わず目を白黒させてしまう。
普通学生で一人暮らしをしている場合、年末年始は実家に帰るものだと思ってるし、和樹も学生時代はそうしていた。
あまり実家付近に行きたくないという思いはあっても、さすがに学生の身では親元に帰るべきだと思っていたから、帰っていた。
白雪はそれほどに帰りたくない理由でもあるのか、と思ったが――。
『年始早々には帰省しなければならないのですが、年末は無理しなくていいので、もしよろしければ』
メッセージがそう続いていた。
帰ることは帰るらしい。
日本人的には、年越しは家族と過ごすべきという気はするが、帰省しない和樹では説得力はない。
和樹としてもどうせ普段と同じ生活で年を越すだけなので、この誘いを断る理由は、和樹にはなかった。
承諾の意を伝えると、絵文字でのお礼が三つほど続けて送信されてくる。
それを微笑ましく見つつ、蕎麦はこちらで準備するから当日十八時頃で、とだけメッセージを送ると、了承するメッセージに続いて『じゃあ天ぷら用意しますね』と返信があった。
それに了解の意を伝えて、メッセージを終了する。
「なんか……妙な感じだが」
年末に女子高生と会う約束をしているなど、以前は考えもしなかった。
第三者から見れば要らぬ詮索を受けそうにも思えて、最初はむしろ和樹自身が警戒していたくらいだが、さすがに毎週食事を一緒にしていると、慣れてしまったというべきか。
正直、白雪との距離感には戸惑っている部分はある。
この年齢で八年という年齢差は小さくはない。
自分を思い返しても、高校生になった頃というのは、自分が大人になった気がする一方で、社会人を見たらはるかに年上に見えたものだ。
これでもう少し年を取ると、また違って見えるのだろうとは思う。
実際、和樹の両親は父が母より五歳年上と、そこそこの年齢差がある。
無論大人であるということで、信頼を得ている部分はあるだろう。というか、それくらいしか説明ができない。
高校生の頃に社会人というのは、分別ある大人に見えるものだろうし、自分だってそうだった。
実際に自分がなってみると――未熟さを痛感することも少なくないが。
ただそれでも、白雪の自分に対する距離感は、少し説明がつかないと思う。
あれだけの美貌を持つ白雪であれば、下世話な話だが男子生徒には相当モテるはずだ。
容姿だけではなく、所作や振舞も含めて、ある種男性が抱く女性の理想像と言えるほどだ。さらに学校でそこまでは分かってないかもしれないが、プロ顔負けのレベルの料理もできる。
これで同じ高校に通っていたら、かなり淡泊だという自覚がある和樹でも、気になる女子であっただろうと思える。
かといって、白雪が同年代は子供に見えるというタイプかというと、それは違うだろう。一週間に一回しか顔を合わせないとはいえ、たまに出る学校での話などから、年相応の、あるいは少し幼いくらいの印象すら受けるからだ。
頼られているという実感はあるし、それは年齢差に起因しているとは思うが、彼女がここまで信頼している理由が分からない。
出会いだけで言えば、確かに事故から助けたが、その後はむしろ頼りないところを見せてしまっているという印象の方が、強いはずだが。
「……ま、今時の女子高生の考えが俺に分かるはずもないが」
自分が高校生だったのは八年から六年前。
覚えていないわけではもちろんないが、かといって最近と言えるほどではないし、十年一昔、という言葉もあるように、本当に一昔前の話だ。
そのうち機会があったら聞いてみるのもありだろうと思いつつ、和樹は年末までの予定を確認するのだった。