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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
二章 クリスマスの二人
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第18話 友人とのクリスマス

 十二月二十五日。

 クリスマス当日である。

 ダイニングにいた和樹は、インターホンの音が聞こえてスマホを確認すると、玄関のロックを解除した。

 このスマホでの遠隔解錠は、ごく最近アップデートされた機能だ。

 直後、扉が開き――。


「お邪魔します~」


 元気がいい、と表現していい声が玄関から響く。


「入っていいぞ。もうあらかた準備終わってる」


 和樹の言葉に、玄関から足音が近づいてくる。

 入ってきたのは男女三人。


「久しぶりだな、誠、友哉、朱里」

「和樹も久しぶり。怪我はもういいのか?」


 三人のうち、一際背の高い方の言葉に、和樹はやや苦笑した。


「さすがに三カ月経っていて影響あったらヤバイだろ」

「まあそりゃそうだが、お前の場合変に放置して悪い癖がつく、くらいはありそうだと思ってな」

「そういうこともなかったよ。最初に結構しっかり手当しておいたからな」

「さすが元柔道部」

「部に入ってたことはないって……まあいい。酒は買ってきたか?」


 その言葉に、もう一人の男――こちらが誠だ――が袋を掲げる。

 中には缶ビールをはじめとして、何種類もの酒が入っている。


「でもいいの? あとはケーキくらいしか買ってきてないよ? 他の料理はあるって言ってたけど……うわぁ」


 感嘆の声を上げたのは、この場の唯一の女性である朱里だ。

 身長は自称百五十センチとのことだが、どう考えてもそれ以下。

 加えて童顔でかつ細い。

 身長が百八十近い三人と並ぶとさらに小さく見えるというか、誰と並んでいなくても中学生以下にしか見えないが――れっきとした成人女性で三人と同い年だ。

 この見た目のため、恋人である誠はいつも苦労しているらしい。


 その朱里が感嘆の声を上げたのは、ダイニングテーブルの上を見たからだ。

 そこには、色とりどりの料理が並べられていた。


「すごーい。これ、どうしたの?」

「ちょうど駅前に来てた出張販売でいい感じの料理が売られていたんだ。お前らに持ってきてもらうのも面倒だしってことで買っといた」

「本当にすごいな。確かにこれなら他の料理は要らないか」

「あれ。でも容器は? 全部きれいにお皿に並んでるけど……」


 料理はすでにすべて皿に出してある――というか、実際のところは最初から皿に乗せてあった。

 昨日、イブのパーティをする際の料理していた白雪は、昨日食べる分に加えて今日のパーティの分も作ってくれていた。だから早めに来た、というのもある。

 今日の分についてはすべて飾り付けまで終わらせて、全部冷蔵庫に入れておいてくれていたのだ。

 もちろん、二日連続で同じメニューにならないように、内容は全く違う。共通しているのはドリアとローストビーフくらいである。

 和樹はそれを温めただけだ。

 ただ、それを言えば余計な憶測を呼ぶので、当然素直に言うことはなく――。


「ああ、容器は先に処理して皿に並べて置いたんだ。この地域、今日がプラゴミの年内最終日だったからな」


 事前に考えておいた言い訳だ。不自然さはないし、実際プラスチックゴミはもう回収されている。確認の術はない。


「え。でもこのドリアとかはどう考えても容器から温めたよね。和樹君が作ったの?」

「あ、いや。それは具材を耐熱皿に入れて自分でオーブンで仕上げるタイプだったんだ」


 実際には、温める前の状態で冷蔵庫に入れてくれていたので、それを彼らが来る前に指定通りにオーブンに放り込んだのである。


「ほえー。今時ってそんなのもあるんだね」


 とりあえず疑われなかったらしい。


「とりあえず始めよう。なんせ半年ぶりに会うんだしな」


 誠の言葉に、各自手洗い等を済ませて椅子に座る。


「メリークリスマス!」


 四人の声がきれいに重なった。

 とりあえず最初のビールを全員が呑む。

 そして――。


「美味しい! なにこれ。ちょっと和樹君、これ、なんてお店だった!?」

「出張販売のブースだったから、店名までは確認してないな」


 実際には店ですらないのだがそれは言えない。


「え~。その店行ってみたいのに。そういうのはちゃんと調べないと」

「でも本当に美味しいな、これ。びっくりするレベルだ」


 とりあえず白雪の料理は大好評らしい。

 あとで彼女にも教えてあげよう。

 もっとも和樹からすると、さすがに出来立ての方が美味しいと思えた。

 とはいえほとんどが一日置くことも考慮したメニューでもあるため、美味しさには文句のつけようがない。


「このローストビーフ本当に美味しいな。いい肉使ってるのもあるけど、味も最高だ。このソースとの相性が完璧すぎる」

「友哉が食べ物で絶賛するのは珍しいな」

「人聞きが悪いな……まあ、結構無頓着なのは認めるが。でも、美味しければ美味しいっていうさ」

「まあ普段は安い学食だっけ。どうだ、法科は」

「それなりだ。問題なく卒業できると思う」

「お。てことは、再来年辺りには弁護士滝川友哉の誕生か?」

「すんなりいけばな」

「あれ。でも……(もぐもぐ)今やってるモデルの仕事はどうすんの?」

「朱里……食べるか喋るかどちらかにしろよ」


 誠が呆れたようにしながらも、聞いたこと自体は気になるのか、友哉に話の続きを促す。


「そっちは……まあ実際に弁護士になってからまた考える。ただ、さすがに来年は休業だがな。司法修習優先だ」

「弁護士モデルとか、かっこよさそうだよね」

「それどこ需要だ……」


 和樹が呆れたように言うが、実際友哉ならこなせそうだ。

 友哉は大学卒業後、そのまま弁護士になるべく法科大学院に通っている。

 今年で卒業予定で、司法試験はすでに合格したらしい。

 あとは卒業後、司法修習というのを一年経験すれば、晴れて弁護士資格が取得可能になる。


 その一方で、友哉は学生時代からモデルのバイトもしている。

 三人のうち、誠もかなりの美形と言い切っていい容貌だが、友哉はさらに上を行く。そのため、学生時代にスカウトされてモデルのバイトをやっているのだ。

 女性にも非常にモテていたが、特定の誰かと付き合っていた、という事はなかった。というよりいつもこの四人でいて、他の人は女性含めてあまり一緒にいることはなかったのだが。

 ちなみに和樹自身は美形二人のおかげで目立ってない、というのが自己評価だが、誠らに言わせると『お前は別ベクトルでイケメンだぞ』という事らしい。自分としては十人並み程度だと思っているが。


「そういえば、お前らは四月……だっけ。もう色々決めてるんだろ?」


 友哉の言葉に、誠と朱里が少しだけ嬉しそうに頷く。


「うん。後日招待状も送るけど、二人はもちろん式には来てくれるよね?」

「まあそりゃあ、招待状もらえるなら」

「渡さないでか、まったく」


 誠と朱里は、四月に結婚する予定なのだ。


「あ、友人代表で二人に挨拶してもらうからよろしくね~」

「は? いや、そういうのは友哉だけでいいだろ。俺が出てどうする」

「何逃げようとしてる、和樹。諦めろ。こいつらと友人になった時点で詰んでる」

「いやいや。友人代表っていうなら、やはり付き合いの長い友哉だろう。俺はお前らと会ったのは大学からなんだから」


 誠と朱里は幼い頃から家が隣同士。いわゆる幼馴染である。

 そして友哉も二人とは中学校からの友人だという。付き合いは相当に長い。

 その三人と、和樹は大学に入ってから知り合い、なぜか非常に馬が合った。人付き合いはむしろ避ける傾向にある和樹としては、非常い珍しいことだった。

 付き合いの長さの違いで疎外感を感じたことは一度もないが、こういう時は遠慮すべき――というよりそんな面倒事はそういう口実で断りたい――だ。


「却下。二人で感動的なスピーチよろしくね」


 問答無用だった。

 ついでにさらりとハードルを上げてきた。


 そうこうしているうちに食事はほぼ終わった。

 量も理想的で、改めて白雪のすごさを実感する。


「あー、美味しかったー。和樹君、ホントにお店の名前覚えてないの? ネットで探せない?」

「全く覚えてないからな……すまん」

「レシートは?」

「現金払いのみだったからな……発行してなかったよ」

「今時じゃない……個人のお店ってことかなぁ。駅前だよね。買ったの昨日? どっかで話題になってないかなぁ。これだけ美味しかったんだし」


 朱里がスマホをいじるが――見つかる可能性はない。

 そんな店は存在しないのだから。


 そしている間に、ケーキも食べ終わり、全員食後のコーヒータイムとなっている。


「なんかここ数年では一番いい感じだったな……主に食事が。和樹、来年同じ店が来てたら、絶対チェックしといてくれよ」

「……覚えてたらな」


 誠の要望に曖昧に答えておく。

 白雪との交流が続いていればあるいは可能だろうが、むしろ余計な詮索を受けることを考えれば来年は普通にすべきかもしれない。

 それ以前に、来年このように食事を提供してもらえる間柄であるかという保証はない。


 そうこうしているうちに、二十二時を過ぎていた。

 さすがにそろそろお開きの時間だ。


「楽しいと一瞬で終わっちゃうね、ホント。でも、今年はホントによかった」

「まあ……来年は俺と朱里の家で、かもだけどな」

「ようやくか。大学からこっち六回連続俺の家だったからな」

「え~でもここのが駅近くて便利じゃない?」


 詳しくは聞いてないが、二人の新居はもう決まってるらしい。

 和樹のこの家ほどは便利な場所ではないようだ。


「まあそういうな。それはともかく、本当は新年も集まりたいが、俺らはあまり余裕がないからな。次は……式の直前とかになりそうだ」

「友哉は来るか?」

「そうだな……暇だしな。和樹は帰省しないのか?」

「今年はパスだ。夏前に一応行ったしな。友哉は?」

「俺も今年はパスだ。じゃあ年始二日くらいにいいか?」


 予定を思い返す。

 差し当たって特に何もない見込みだ。


「じゃあそれで。また連絡してくれ」

「それじゃ、またな」


「よいお年を」


 各自、年末定番の挨拶を交わす。

 三人がマンションを出ていくところまで見送って、和樹は部屋に戻った。

 スマホを取り出すと、白雪にお礼のメッセージを送る。

 するとすぐに返事があった。


『それはよかったです。また来年も頑張りましょうか?』


 それはありがたいが――迷うところだ。

 まあ、今から来年の話をしても仕方がない。


『それはまたその時に、で』


 そう送り返すと、絵文字スタンプで『楽しみです』というようなものが送られてきた。

 こういうところは女子高生だな、などと思ってしまう。


 本音を言えば、あの場に白雪がいてもよかったのではないか、と思ってしまう。

 別に疚しいことは全くないし――白雪が作ってくれた料理を彼女抜きで食べるのにわずかな罪悪感があったのは否めない。

 ただ、いらぬ詮索を受けることを考えると、さすがにできる話ではなかった。

 何より白雪にも迷惑だろう。


「まあ、そもそも来年もこういう関係である可能性は……低いだろうしな」


 白雪にだって学校の友人もいるだろう。

 今年はそうでなくても、来年になってクラスが変われば仲のいい友人ができる可能性もある。

 そうなれば、そちらで交友を深めるべきだろう。

 こんな年の離れた自分と付き合うより、よほど有意義なはずだ。


 それはそれで一抹の寂しさを感じないわけではないが、それが本来あるべき姿だろう。


「とりあえず、片づけるか」


 今年もあと数日。

 今年も悪くはない年だったな、と思いつつ、和樹は部屋に戻っていった。


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