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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
二章 クリスマスの二人
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第16話 クリスマス・イブ1

 十二月二十四日。

 世間ではクリスマスセールとして、様々な店舗が色々な商品を売り出している。


 和樹はすでに今年の仕事はすべて終えていた。

 別にびっしりと仕事を入れてもいいのだが、そもそも発注側も年末モードに入るため、仕事があまりないのが現状だ。

 幸いそれでも生活に困らない程度には蓄えがあるので、気軽に休みを満喫することはできる。

 もっとも、ある意味では年中休みのようなものではあるが。


 和樹は今日は、普段あまり行かない駅前まで、午前中から出てきていた。

 目的の一つはクリスマスプレゼントだ。

 明日会う予定の誠、友哉、朱里。そして白雪の分である。

 いつもの三人についてはあまり悩まない。

 お互い付き合いは長いし、好みは分かっている。

 問題は白雪だった。


 別に何か下心があるわけではないが、折角こんな日に会う約束があるのであれば、プレゼントを渡さないのも大人としてはどうかということから、プレゼントをあげることにしたのだが、実に数日悩むことになった。

 高校生――予想通り一年だった――の白雪にプレゼントするのであれば、それほど高価なものというのは本人も遠慮するだろう。


 それに、白雪の事情は不明だが、お金に困っているということはまずないと思われる。

 普段使っている品についても、かなり高価で品質のいいものを使っているのが見て取れる。なので、下手なものをあげてもあまり意味がない残念なプレゼントになってしまう。彼女自身はなんでも喜びそうではあるが。

 一応結論は出し終えて、事前に注文していたので、今日は受け取るだけである。

 駅前それぞれで目的の品を無事確保し、あとは帰るだけだが、途中スーパーにもよることにした。

 夕食については白雪に任せることになるとしても、昼もあるし、明日誠達が来る時のための菓子類などいる。

 そう思っていたら――。


「月下さん?」

「玖条さん……なんでここ……というほどおかしくはないか」


 今度は駅前のスーパーで鉢合わせた。

 どうも外で会う時はスーパーという法則でもあるのだろうか、と思いたくなる。


「はい。今日の食材を買いに来てたのですが……あ、メッセージ出そうと思ってたのでちょうどいいのですが」

「ん?」

「今日、お昼過ぎから伺ってもよろしいでしょうか?」

「え?」

「色々準備しようと思うと、早いうちのがよくて、私の家で下ごしらえしてもいいのですが」

「昼過ぎ……というかお昼ごはん後にってこと?」

「はい」


 断ったところで、多分白雪は自宅で下ごしらえをしてから持ってくるのだろう。

 それなら、最初から和樹の家でやった方が明らかに手間がかからない。


「わかった、いいよ。今が十一時半だから……というか、お昼はこれから?」

「あ、はい。帰って軽く済ませてから、と思ってました」

「で、これから夜の分の買い物?」

「あとお昼も。買い置きがあまりないので……」

「……なら俺でよければ奢らせてくれないかな?」

「え?」


 きょとん、とした白雪の表情は、年相応かむしろ幼く見えた。


「いつも美味しい食事を作ってもらってるし、お礼もかねて」

「い、いえいえ。あれはパソコンとか教えていただいているお礼ですし」

「まあそうなんだけど、正直お釣りがくるレベルだと思ってるし、どうかな?」


 無理に誘うつもりはないが、この後の予定を考えれば、一緒に行動した方がいいだろう、というのもある。

 しばらく悩んでいた白雪ではあったが、ぼそぼそとこの後のことを口に出して考えを整理しているようだ。


「あの……じゃあ、ご一緒、します」


 なぜか白雪の顔が、とても赤くなっていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 白雪に希望を聞いてみたところ、夜は肉を中心にする、という事だったので魚料理メインの店に来た。

 焼き魚や一夜干しなどを焼いた定食を出す店で、値段的にはむしろ安い部類だが、クリスマス・イブの昼であってもそれほど混んでいないのも、選んだ理由の一つだ。それにあまり高いと白雪が遠慮する、という配慮もある。

 白雪は物珍しいのか、きょろきょろしている。


「高校生はあまりこういう店には入らないか」

「ああ、ええと……それもあるんですけど、なんか、お店の造りとかが気になって」

「造り?」


 着眼点があまりに女子高生っぽくなくて驚いた。


「こういう規模のお店とかの構造っていうか、そういうのが気になってしまうんです。昔ちょっとあって」

 

 そういった時の白雪の顔は、どこか高校生らしからぬ何かがある。

 そしてそのような顔を人がするとき、何を考えているかを――和樹は知っていた。


「そうか」


 だから、それ以上の追及はしない。少なくとも、踏み込んでいい領域ではない、というのだけは分かっていた。


 和樹はほっけの開き定食、白雪は鮭の西京焼き定食を頼む。

 ほどなく料理が同時にやってきた。


「美味しいですね、これ。専門店ならではという感じです」


 白雪が美味しそうに顔を綻ばせる。

 その表情からは、すでに先ほどの憂いは消えていた。


「玖条さんの料理も同レベルだとは思うけどな」

「ありがとうございます。でも、やっぱりこういう料理は炭火などでじっくりあぶったりすると全然違うんです。でも、さすがに家ではちょっとできませんし」


 今時、電気七輪などもあることはあるが、さすがにマンションで炭火焼きは無理だろう。確かにそこまでこだわるのはあまりしないだろうが。


 二人はそれぞれ注文した定食を食べ終えると、結局一緒に買い物をして、マンションに戻った。

 いったん白雪は準備もあるので家に戻る。


「じゃあ、二時には伺います」

「わかった。あと……今日は短めにしておくよ。準備の方が大変だろうし」

「はい。わかりました」


 そういうと、白雪はそのままエレベーターで階上へ上がっていく。


「……文句なしにいい子なんだけど……」


 あの時の顔。

 あれは、過去を――失った日々を懐かしむ時にする顔だ。

 おそらく白雪の両親はすでにいない――文字通りの意味で。

 白雪が今一人で暮らしている理由などは分からないが、彼女が心の奥底に深い悲しみを抱えているのだけは分かった。


 それもおそらく、彼女の中では終わったことではない。

 これまでの会話の中でも、時々両親の話は出てきていたが、それはいずれもかなり昔の話ばかり。おそらく白雪は幼い頃に両親を亡くしている。

 その後どういう経緯で今に至るかは全く分からないが、おそらくその悲しみを一人で抱えざるを得ないままでいるのだろう。


「俺が口出しすることではないけどな……」


 大切な人を失う悲しみを、和樹は完全には理解できない。

 ただ、もし自分の存在が白雪にとってたすけになっているなら、それは和樹自身にとってもすくいになる。


(とんでもなく身勝手な話だけどな……)


 一度頭を振って頭の中をすっきりさせた。

 取り急ぎ、部屋の片付けがまた完全に終わってない。

 白雪が来るまであと一時間弱。

 和樹は慌てて、家の中に戻っていった。


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