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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
二章 クリスマスの二人
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第15話 クリスマスの相談

「あっ、しまった、これからか」


 いつもの和樹によるパソコン授業が終わり、白雪が夕食の準備をしていたところで、パソコンの前に座っている和樹が突然少し大きな声を出した。

 何事かと思ってキッチンから出てくると、和樹が困ったように画面とにらめっこをしている。

 悪いと思いつつ気になったのでのぞき込んでみると、画面に映っているのはスケジュール管理のウェブツールだ。

 その、現在時間を表すバーのある場所に『打ち合わせ』とある。


「え。あの、お仕事ですか?」


 通常この学習時間及びその後の夕食時間に、和樹は仕事を入れないようにしているはずだ。ただ、そうはいっても仕事は仕事。和樹の希望通りのスケジュールにならないことだってあるのだろう。

 幸い、会議は今まさに始まるところのようだ。


「あ、いや。仕事じゃない。こっちの画面は今プライベート用だから……って、それはいいんだけど」


 和樹は少し困ったような顔になってから……白雪に向き直った。


「すまない、ちょっとこれからオンラインの会議というか打ち合わせがあるんだが、キッチンで準備はしてくれていいけど、あまり大きな音をたてないようにってできるかな?」

「え? ええ……今日はシチューの予定ですし、焼くところはもうあらかた終わってますから大丈夫だと思いますが……」

「すまない、頼む」


 白雪は頷くとキッチンに戻った。

 振り返ると、和樹がなにやらごそごそ探して……諦めたのか、画面に向き直っていた。


『いよ、友哉ゆうや、和樹。久しぶり』


 画面から声が聞こえてきた。


『こっちも久しぶりだな。まこと朱里あかりは一緒なのか?』

『もっちろーん。私も一緒だよ。友哉君も和樹君も久しぶりー』


 男性の声に続いて女性の声が聞こえてきた。

 画面を見てみると、二画面に分かれて片方には男女二人の顔が映っていて、もう一方は男性一人が映っている。どうやらオンラインの会議システムを使って会話しているようだ。


『あれ? 和樹、画面がアイコンのままだぞ?』

「ああ、すまん。カメラの調子が悪くて繋がらないんだ。今回はこれで通させてくれ」

『お前ならすぐ直せそうだけど。再起動してもダメなのか? それかスマホ』

「さっき不具合に気付いたからな。面倒だから今日はこれで」

『了解。じゃあまあ、クリスマスの予定詰めるか』


 話の内容を聞く限り、どうやら和樹の友人のようだ。

 今まで、彼から彼の友人の話は全く出なかったし、あの大怪我の時も友人に頼る話は全く出なかったから、交友関係がどうなっているのか分からなかったが、少なくとも普通に友人はいるようだ。

 大変失礼な感想だが。


 あまり聞き耳を立てては失礼だろうと思い、料理に集中する。

 と言っても、メインのシチューはあとはもう電気圧力釜任せで終わるし、あとはサラダの野菜を刻むくらいだ。それ自体は一瞬で終わるので、あとはやることはない。

 そのため、どうやっても話の内容が聞こえてしまっていた。


『えー。じゃあクリスマスイブはダメかー。和樹君の家が一番いいんだけどなぁ』

「俺の家はたまり場じゃないぞ」

『最近はたまり場っていうほど使ってはいないだろう。つか、九月に集まろうって予定は流れたから、半年ぶりくらいじゃないか?』

「イブはダメだが、クリスマス当日ならいいよ。友哉もそれでどうだ?」

『俺もイブは微妙だったから、その方がいいな。まあ誠と朱里はイブは恋人同士でよろしくやってろ』

『羨ましければ彼女でも作れ』

「言ってろ」『言ってろ』


 その口調から、とても親しい間柄だというのが分かる。

 ふと、自分がそのような友人がいるかと考え――強いて言えば、雪奈とあと一人くらいしかいない。それでも学校外で会う、ということはまずないことを考えると、少し羨ましくなった。

 現状、学校外で会う人と言えば、白雪には和樹だけだ。


 ほどなく間に会議は終了していた。

 ちょうど白雪も夕食の準備が終わったところで、ダイニングテーブルに料理を並べ始める。


「すまないね。この時間にあいつらが勝手に予定入れてて、変更忘れてた。まあ昨日いきなりねじ込まれたからなぁ。おお、今日も美味しそうだ」


 和樹が嬉しそうに椅子に座る。

 その仕草もまた、どこか父を想起させる。

 とりあえず二人手を合わせて食事を開始したが、白雪は落ち着いたところで、先ほどの会話の続きを聞いてみた。


「先ほどの方々、ご友人ですか?」

「ああ。大学時代の友人だ。集まる時はここってパターンが多くてね……まあ仕方ないんだが」


 何がどう仕方ないのか分からず、白雪が首を傾げる。


「ああ誠……二人で映ってた男の方は公務員でね。寮に入ってるが、まあ友人とかを呼ぶのは厳しい。一緒に映ってた朱里……誠の恋人は実家暮らし。で、もう一人はまだ学生で一人暮らしだが、家の広さは……まあここよりは狭い。そういうわけで必然的に俺の家が一番集まりやすいんだ。交通の便もいいしね」

「そういう、ものですか」

「俺は大学時代からここに住んでいたから、当時から結構あいつら来てたしな」

「大学、この近くなんですか?」

「央京大。ここからだとバスですぐ。歩いても行けるし」

「確かに、近いですね」


 私立のかなりランクの高い大規模な総合大学だ。

 広いキャンパスが有名で、白雪の高校から進学する人も多い。

 そして同時に、この家の食器類が妙に充実している理由が分かった。

 おそらく彼らがよく来ていたからだろう。


「全部聞こえてたか分からないが、そういうわけでクリスマスはあいつらが来るけど……そういえば、イブはどうする? 金曜日だから一応空けてもらったが」

「あ……それで。あの、もしよろしければお願いしたいです。もう冬休みには入ってしまいますが……」


 正しくは、翌日から冬休みだ。

 一応、二十四日も授業は普通にある。


「別にいいよ。クリスマスだから、と特別なことをする必要は特にないしね。聞こえてたかもしれないけど、別に彼女とかはいないから」


 なぜか彼女がいない、というのが少しだけ嬉しく思えてしまって、直後にすぐ申し訳ない気持ちになる。


「あ、それでしたら……翌日の分までお料理、作り置けるものを置いていきましょうか?」

「いや、それは……俺はありがたいけど、玖条さんが大変では」

「一度そういうパーティ料理作ってみたいと思ってましたし、イブの料理も折角ですから頑張ってみたいですし」

「って、いやいや。考えてみたら、その出所聞かれたら俺が困る」

「買ってきたことにすればいいのでは。そのくらいの料理作って見せますよ?」


 むしろそう見えるくらいのクオリティを目指す、というのはいい目標になる。

 なおも悩んでいる様子の和樹だったが――。


「じゃあ、お願いするよ。ただそっちは、材料費は出すよ。……君の料理の美味しさに負けた気分だ。胃袋掴まれてるなぁ」

「それは素敵な誉め言葉です」


 和樹が一瞬呆気にとられ「そう返すとは思わなかった」と笑う。

 つられて白雪も笑う。


(やっぱり――この時間が一番……心地よいですね)


 そう感じる理由ははっきりしている。そしてそれに伴う後ろめたさもある。

 ただそれでも、まだしばらくはこの時間を享受したい。

 それが白雪の、偽らざる心情きもちだった。

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