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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
一章 再会とお願い
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第13話 最初の授業

 基本的に、白雪が来るのは金曜日の十六時からとなった。

 これは当該の情報の授業が火曜日と金曜日にあり、その週の勉強の内容を復習したいという要望と、和樹の時間の都合の結果だ。


 それに加えて、その日は食事を白雪が用意するが、仮に授業が二時間程度かかった場合、終わるのは十八時。そこから食事の準備などをするとして、終わる時間を考えると、翌日が休みの方が都合がいいというのが理由だった。

 無論、どちらかの都合が悪い場合は事前に連絡をする。そのために、メッセージアプリのアカウントをお互いに登録した。


「いらっしゃい、玖条さん」

「お邪魔します」


 時刻は十六時きっかり。

 白雪の几帳面な性格が分かるようで、和樹はわずかに苦笑した。

 服装は一度着替えているのだろう。制服ではなく、ゆったりとしたワンピースの上に、カーディガンを羽織っている。

 いくら同じマンション内とはいえ、この時期はそろそろ本格的に冷えてきているのだ。


「月下さん?」

「あ、いや。時間ちょうどだな、と思ってね。さ、どうぞ」


 家に招き入れると、そのままリビングに向かう。 


「とりあえず、これ使って」


 そういうと、ノートパソコンを白雪に渡した。


「えと、これは?」

「俺の予備。と言っても全然使ってないやつだから、空っぽに近いんだ。入ってるのは基本ソフト(OS)くらい。なので、君の学習用に使ってくれていいよ」

「え?」

「まあ実地練習も兼ねて、だけどね。セットアップのやり方とかを今日はやろうか」


 とりあえず無線ルータとの接続や実習用ツールのインストールなどをやってもらうつもりだ。


「ああ、それは持ち帰っていいよ。君の自宅の学習用として使ってくれていいから」

「え、ええ!?」


 白雪が驚いて目を丸くしていた。

 そんなおかしなことを言ったつもりはなかったのだが。


「あ、あの、でもこれ、月下さんのパソコン、ですよね?」

「さっきも言った通り、予備で持ってたやつで全然使ってないやつだから、君が使ってくれていいよ」

「で、でも……」

「まあ、仕事柄パソコンは複数持ってるんだ。なので、気にしないでくれ。それ以外にもあと三台あるからね」


 白雪が呆気に取られていた。

 まあ普通の人間なら、この数は多いと思うだろう。


 和樹のパソコンは仕事用とプライベート用で元々二台を並行して使っている。

 今白雪に渡したのはさらに二台用意してある予備のうちの一台だ。

 仕事用の予備のうち一台は、常にメインマシンと同期をとるように設定してあるが、もう一台の予備は買ってから一年ほど全く使わずに死蔵されていたので、むしろ使ってもらいたいくらいである。


「なのでまあ、とりあえず設定方法とかをきっちり覚えて、自宅の環境で使えるようになってもらうのが、今日の目標かな」

「は、はい」

「まあそう緊張しないで。同じマンションだから、設定にそう大きな違いがあるわけじゃないし、ね」


 このマンションは高速回線が各部屋に配置されているほか、無線のネット用のアンテナも各部屋に最初から設置されている。

 彼女の家にも入居時に設定がされているはずで、設定内容それ自体はマンション用アプリを使えば確認ができるのだ。


「じゃ、とりあえず……一応、起動からやってみようか」

「は、はい。お願いします!!」


 だからそこまで緊張しなくても……とは思ったが、初々しくて可愛く思える。

 こういうところは年相応というべきか。

 とりあえず起動画面から、アカウントの設定方法など順番に、和樹は教えていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「玖条さん、呑みこみ早いね。俺が教える必要あったのかと思ったくらいだ」

「いえ……月下さんの教え方が上手かった、と思います」

「そう言ってくれると嬉しいけど」


 授業……と言っていいかは疑問だが。

 一通り今日やろうと思っていたのが終わったのは十八時過ぎ。

 そこから白雪が持ってきた食材を使って料理を作ってくれて、十九時過ぎには夕食となった。

 二人で食事をするのは二カ月ぶりのことだが、ずいぶん昔にも思える。


 今日のメニューはカレイの煮付けを主菜に、味噌汁、里芋の煮物、野沢菜のおひたしと和風になっている。

 和樹としては、最初に作ってもらったハンバーグがあまりに美味しかった記憶がまだ残っていたが――これらもどれも絶品だった。


「しかし……すごい美味しいね。高校生でここまで料理できるのは、本当にすごいと思う」

「ありがとうございます。料理は……その、私もするのは好きなので」

「好きこそものの上手なれ、だね、本当に。下手な店で食べるよりずっと美味しいよ、お世辞抜きに、ね」


 正直に言って、自分の母親より美味しい。

 自分の母親は料理は得意でも不得意でもないという程度だが、少なくとも不味いと思ったことはなかった。ただ、たまにする外食が楽しみだったのは事実だ。

 だが、これだけの料理がもし毎日食べられるなら、外食などしようとすら思わなくなりそうである。


「そう言っていただけると、嬉しいです」

「ああ。それで……大事なことだけど、俺の教え方はどうだったかな。継続するかどうかってことだけど」


 すると白雪はなぜかきょとん、とした顔になった。


「玖条さん?」

「……ああ、そういえばそういう話、でしたね。その、私の中ではもう決定事項で……ぜひこれからもお願いしたいです。とても分かりやすかったですので」

「わかった。まあじゃあ、今後もこんな感じで。俺としても、こんな美味しい食事がいただけるのは正直嬉しいよ」


 正直、お金では買えないほどの報酬、という気がする。

 今後材料費などは出すべきだと思えるほどだ。この腕前の料理を食べられるだけで、十分すぎる報酬だ。


「私も、嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします、月下さん」


 こうして、和樹と白雪は、一週間に一回、家庭教師をしつつ食卓を共にするようになった。

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