第11話 翌朝の準備
翌朝起きたのは、六時過ぎ。
結局、いつもの学校に行く時間と同じ時間に起きていた。
もっとも、生活リズムがそれで固定されているので、今更これを変えられるわけではない。
顔を洗って、軽く髪の手入れをする。
母譲りの黒髪は、白雪のちょっとした自慢なので、これを欠かすわけにはいかない。
仕上げは後に回すことにして、とりあえず食事の準備。
学校がある時であれば弁当とセットで作るのだが、今日は学校がないので、食パンをトースターに放り込んだ。
焼いている間にレタスを千切って、卵を焼く。
手早く即席の卵サンドとお茶で朝食を済ませると、時間は八時まであと十五分、というところだった。
「……さすがにまだ早いですよね」
普段であれば学校に行く時間だ。
九時頃に行くとは言ったものの、さすがに一時間前は『九時頃』の範囲ではないだろう。
準備のあれこれを考えていると、自分が浮き立つような心持であることに気付く。
「私、あの人に会うのを楽しみにしてるのでしょうか」
二カ月ほど前に事故に遭うところを助けてくれた人。
そのお礼も兼ねて、一日だけ食事提供した。夕食だけは一緒に食べた。
ただそれだけの関係だ。
白雪がこのマンションに住むようになったのは高校入学から。
つまり九カ月の間無関係だったが、なぜか急に距離が近くなったような印象がある。
そう感じているのは自分だけかもしれないが。
(多分……あの人がお父さんと同じことを言ったから……ですね)
『美味しいごはんは活力の源だから』
父の口癖。
そういって美味しそうに食事をする父が大好きだった。
もうずっと昔のことなのに、今でもありありと思いだせる。
年齢はやや違えど、同じことを言った彼が、父に被ったのは仕方のないことかもしれない。
さすがに和樹に言うわけにはいかないが、それゆえにほとんど無条件で信頼している――信頼したい、と思っている。
そしてこれまでのところ、彼はその信頼を裏切るような言動が一切ない。
さすがにその評価の押し付けが迷惑だとは、理解はしている。
ただ、それだけ信頼できる人物であることを――白雪は疑っていなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
とりあえず出かける準備を一通り済ませると、九時直前になっていた。
ずいぶんゆっくりとしていたのか、と思ったが――。
「……気合入りすぎでは、私」
思わず自分で言及してしまった。
特に派手というわけではない。
ただ髪の手入れはいつも以上に時間をかけていたし、服もお気に入りのものでそろえていた。ロングスカートはいつも通りだし、今日はさほど寒くないから、薄手のカーディガンだけなのは別のおかしいことではない。
ないのだが――心持ち、気合を入れてしまっているのは否定できなかった。
服の全部を一番お気に入りで揃えていた。
普段ほとんどしていないベースメイクも、少しだけしている。
浮足立っているとも思える。
「ま、まあ人に教えを請うわけですし」
そこまで言ってから、肝心の教科書を取り出してないことに気付き、慌てて部屋にかけていった。