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幼少期③ ~父親とかいう害悪~

 ギリと皺の寄る眉間。

 小さめの目が、ギョロと動く瞬間。

 何歳になっても、それを見たら背筋が凍るのは変わらなかった。


 そして感情的になったり、全身が力んだりすると、ペロリと一瞬「舌先を出す」。そんな独特な癖を見せる。

 それを見ると、最低限の痛みや苦しみで済んでくれるよう、幼き私は自ら頭頂部を差し出すのだった――。



 物心ついたころから、まともに父の目を見ることができなかった。

 母親と違ってそういう関係になってしまったのは、恐らく生まれた頃から自分に対してろくな接し方をしてこなかったのだろうと思う。

 具体的にそれが何だったのか全然興味が無いし、今現在彼が抱える「後悔」など知ったところで何も取り返せやしない。


「叱る」「怒る」「絡む」「いじめる」の区別がまるで付かない人だった。


「叱られる」といったことをされたのはほとんど無い。

 怒りの形相を見せてから思い切り頭を殴るか、腹部を殴るかだった。

 腹部に本気で一発入れられると、声が出なくなるぐらい呻き、のたうち回り、非常に苦しかったので、本能的に腹を抑えながら頭を差し出す哀しい癖がついてしまった。

 つまり、げんこつで事が済めば穏便な方だったのだ。

 そこに言葉など存在しない。「叱る」「教える」こととは程遠いものだった。


 この強い違和感については7歳の頃にはじゅうぶん自覚しており、本人を前に泣きながら怒鳴り散らした事実がある。これに関しては後日語るつもりだ。



 父子の「キャッチボール」も、手加減が出来ないのかする気がないのか、本気で投げつけてきては頭や顔に直撃し、「そんなこともできないのか」とバカにする。こんな人間が「巨人の星」を引き合いに出して一方的にボールをぶつけてくると、ますます鬱屈した感情は肥大していった。


 投げてくる瞬間。

 あの「舌」を一瞬見せてから、本気で腕を振ってくるのだ。


 捕球の体勢・方法なぞ全く教わったことのないまま、私は無様にボールの痣を作り続けるしかない。

 こうしてよくあるコミュニケーションのひとつである「父子のキャッチボール」は破綻した。



「ああ、この人は自分のことを可愛がってくれないんだな」。


 別に悲しくも思わなかったし、こんな陰湿の過ぎる男が父親なんて信じたくなかった。

 が、これでもごく一般的な家庭のひとつであり、特別不幸や不運を抱えているわけではない。

 諦めるしかなかった。受け入れるしかなかった。


 父方の祖父母に小学校祝いのデスクを買ってもらっても(彼らが私たち兄弟にものを買ってくれるのは、極めて稀のことだった)、彼が自分の私物を置いて独占してしまった。


「クレヨンしんちゃん」で「ぐりぐり攻撃」を知ると、それを体罰に採り入れた。

(目に見える)怪我をすることも無いからこれはいい。――そんなことを実際にへらへら言っては大人の本気の腕力で私のこめかみを拳で挟み、締めあげた。

 特に小学生の時は、平時でも側頭部が痛み続けた覚えがある。


 お惣菜やお弁当の輪ゴムを拾えば、嫌がっているのにも関わらず指鉄砲で当ててくる。

 太い丈夫な輪ゴムを手にされるともう悲惨で、よく太ももに酷いミミズ腫れを作ったものだった。

 布団叩きを持てばすぐさま私の体を叩きに来る。苦痛の積み重なっていた私は小学校高学年になっても泣き叫び、泣き喚き。それを「泣き虫」「情けねえ」と笑い、母親は心底うざったそうに無関心でいる。


 これが、私の「父親」である。

 これが、私の育ってきた環境である。

 これが、私の通ってきた「不幸でない普通の家庭」である。



 このように、どうでもいいような細かい罪状や、ごく小さな恨みつらみに関しては、挙げていけばそれこそキリが無い。まとめ上げることなんてできない。

 次の話では、私と父の関係性を色濃く浮かび上がらせる「2つの事件」についてお話していく。


【続く】

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