13通目のラヴレタ~keepsake bracelet~
「マジック編みって知ってる?」
「なあに?それ。」
あなたがいなくなる前。冬の日の暖かな日差しの中、あなたが楽しそうに笑う。
何か楽しいことを考えているときのあなたはいつもそうやって笑う。
記憶の中のあなたが「手出して。」と言ったのに合わせて、私が右腕を差し出す。
ポケットからゆっくりと何かを取り出すと、あなたは私の右腕にはめた。
「…ブレスレット?」
「そ、革細工の。俺とおそろいなんだ。」
水色の。綺麗な三つ編みをした革のブレスレット。
あなたは『檻』の住人で、そんなもの買えるわけがなかった。
「どうしたの?これ。」
「作ったんだ。さっき言ったマジック編みで。ほら切れ目がないでしょ?だからマジック編みって言うんだ。君にもできないと思うよ~。」
「えー!すごい!!ありがとう!!」
初めて見る技術に悔しさ半分嬉しさ半分、でも彼が心を込めて作ってくれたであろうそれに私の心はひどく踊った。
太陽の光にかざしてみる。金属がキラキラとしてとても眩しく見えた。
「✕✕ちゃん、もう編めたの?」
外は冷たい風が吹いている。あなたのいない冬はすぐそこまで来ていた。作業台の前に立ったまま、私はしばらくぼーっとしていたようだ。手元には漆黒の皮でできたブレスレット。
新しく自分用に。と作っていたものだった。
無意識のうちにどうやら編み上げていたらしい。
「ものの10分で出来ちゃうなんてすごいよね!マジック編みって言うんでしょ、それ。」
「大したことじゃないよ。」
周りにいた『檻の通所』のメンバーがブレスレットを覗き込んでは感嘆の声を上げる。
天井のライトにかざす。鈍い金属がずっしりと響く。
三つ編みは不規則にした。その方が私らしい。
あんなに綺麗なのは後にも先にもあれだけでいい。
きっとあなたは私が作家なんてことは忘れているのね。
あの日、貰った次の日には、ものの1時間で習得してしまったこの技術。
でも得意げに笑うあなたを忘れたくないから。
今日も私は革を編む。