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グランドという世界-01

最後にキャラ絵あります。

なんか可愛いことやってたので描きました。

 王宮へ帰る道中。白き瞳の皆さんに申し訳ないと思いつつも、自由に歩かせて貰った。


 で、思ったのが、見たことのない資材や建築様式以外は、日本とあまり……本当に、あまり変わらない。


 街並みは整然としていて交差点には信号があり、大きな通りは歩道が整備され、街灯は路地裏にまで設置されている。公園では子供達の元気な声が響き、あちこちの家から夕食の支度をする音や匂いがこぼれていた。


 あ、日常生活の基盤は俺らの世界と全く違うんだっけか。


 つとめをいられた10日間の知識を思い出す。


 この【グランド】と呼称される世界には「グランドの恩恵」と位置付けられる魔道具が数種類あり、その代表格であるインフラ限定の魔道具は、あらゆる建造物を空調上下水道光熱完備の快適空間にしているらしい。

 となれば、より快適な居住空間を求めて階層を積み上げそうなものだけど、法律は3階までしか認めていない。


 茜色に染まった空を見上げる。もう少ししたら暗くなるのだろう。政策のお陰で都市なのに空はとても広くて解放感がある。道行く人々の表情が明るく見えるのは気のせいではないはず。


 そして。


 実はずっと見ないようにしていた車道に目を向ける。


 そこには、信号待ちをしている、馬車。


 高度に制御されている都市なのに、車道を通るのは馬車。


 まあ異世界だし、そういうこともあるだろう。だから見ないようにしていたし突っ込まないつもりだった。


 だけど。


「……なんで馬の目がヘッドライトになってんだよ」


 それはもう、光る、ではなく、


 ビカアッ!! 


 とやってる。


 本当に、ヘッドライト。前照灯。


 俺は右隣を歩くサラさんに目を向けた。


「サラさん、この世界の生き物ってみんなあんな感じですか?」


「え、あ、そこから? うーんそっかそっか、これはネムにバトンタッチね。ネムー」


 サラさんが背後に声をかけ、ネムさんが俺の左隣、の斜め前に来て大袈裟に覗き込む。


「やはーっ、あたしの時代が来たねー。ふっふーん。アキラ君、もうシカトとかしちゃダメだぞぉ」


 何で勝ち誇った顔してんのかね、この人は。そういうのを挑発と受け取る人は少なくないんだけどな。まあ俺が大人になればいいんだけど。


「否定はしませんよ。ややこしくならないよう制御したのは事実なので」


「あはっ、塩対応来たー! ふふっ、でもでも、お姉さんは優しいから、そんなアキラ君でも丁寧におしえてあげるよ~」


「はいはい、お願いします」


 俺が素直にお願いしたら、ネムさんは首をこてん、と倒した。


「最後に『お姉様』って付けて欲しいかなぁ。ふふっ」


 イラッ。


 OK、政治的な戦いというものを味わって貰おうじゃないか。


 俺はススッと右に寄ってサラさんを見上げる。


「おねーちゃん、この人ヤだぁ」


「……ここにきてとんでもない芸風をぶっ込んで来たわね。んぐっ……っくう! やっぱダメ。ごめん、アキラちゃん。ネムから教わって」


 むう。なんだとう。女子は妹に、それも他人の妹キャラに弱いはずだろう(当社認識)。いっそ腕に抱きついてみるか……と思ったら頭を真上から掴まれた。あの、イブさん、とても痛いです。


「そこまでにしなさい。面倒だから。ネムも自重する」


「はいはーい。じゃあ音漏れ防止かけるからね~」


 ネムさんがそんな宣言をした途端、周囲の音が無くなった。


「はーい、これでアキラ君と話せるのはあたしだけだよぉ」


 楽しそうに笑うネムさんは、ハンドサインでイブさんに何かを伝え、俺の手を引いて舗道の端に寄った。


 目の前を馬車が通り過ぎる。


「あのお馬さんはねぇ、魔道具なの」


「は? いや、めっちゃ毛艶が良くて生命力に溢れた馬に見えますけど」


「うん。その感想、サラちんがあたしに振ったのはそのせいなんだよね~。実はね、こっちの世界に馬という生命体はいないの」


 はい?


 目の前に……いや、落ち着いて見れば、どの馬も信号待ちの間ピクリとも動かない。

 てことはネムさんの言う通り、魔道具なのか。


「もしかして、俺の発言ってダメでしたか?」


「まあね~。そっちでもさ、お馬さんを見て『この世界の魔道具って』とか言う人がいたら不審なことこの上ないでしょ~?」


 う、確かに。


 迂闊、なのだろうね。俺は地球人で、この世界にとっては異世界人なんだ。魔族の人達に慣れて、立場を忘れていたのかもしれない。


「ま、言えちゃった事にビックリなんだけどね~。アキラ君。グランドは明確な意志がある、というのは? 聞いていない?」


「意志? え? ちょっと待って下さい。今の『グランドは』って、俺らが『地球は』と言うのと同じですか?」


「うん」


「じゃあ、この星に意志があると? もちろん初耳ですが、いくらファンタジーでも――」


「ここまで何か不自然な干渉かんしょうを受けた経験は? 何の根拠も無く、言ってはダメと自己解決しちゃった事は?」


「それは……あ、知らずに干渉を受けていたら気付かないんじゃ?」


「あはっ、そうだったね、ごめんごめん。じゃ、直球行くよ~。冒険者のオーブを見て何かを思いださなかった? その上で、どう思った?」


「どうって……ああっ!! 渡りのオーブ! なんで話題にしちゃダメだと思ったんだろ」


「ん。それが、干渉。グランドの意志。いま話題に出来るのは、アキラ君もあたしも渡りのオーブを使った事があるから。じゃ、ちょっと遮音結界を解くね――はい、解除♪」


 ネムさんの言葉と同時に周囲の喧騒が耳に飛び込んで来た。


「さて、アキラ君。君はどうやってこの国に来たのか。答えられる?」


「それは……言ってもいいんですか?」


「はい、それ覚えててね。結界を張って~、と。さ、どうやって来たのか答えてみて」


「や、俺自身は渡りのオーブに触れただけでうわなんかキモいですね、この現象」


「そう? あたしは面白いと思ってるけど。それで! ようやく最初に戻るんだけど」


 で、始まった説明によれば――


1、グランドの意志は情報に機密レベルを設けていると考えられている


2、下位レベルの取扱者がいると上位レベルの取扱者は情報を出さないよう干渉を受ける


3、遮音結界のように情報が漏れない環境を構築すれば、結界の側に下位者が居たとしても関係無く話題にできる


4、白き瞳のメンバーで結界を張れるのはネムさんのみ


5、サラさんも言おうとしていたが干渉によって諦めたっぽい


6、サラさんは妹キャラよりも弟キャラが好きで男の娘なら尚よしアキラの容姿は直球100マイルど真ん中


7、パーティの要であるサラさんが狼狽うろたえる姿は見物なのでもっとやれ


――という事だった。


 6と7は何故入れた。5までがキレイサッパリ吹っ飛んだぞ。


「さてさて、本当は理想の弟君に構いたくて仕方ないサラちんに代わってあたしが答える訳だけど、何から聞きたい?」


「いないはずの馬を模倣出来た件」


「ああ、それはね。とお~い昔、イギリスに渡った王族の方がオス1頭にメス2頭を連れ帰ることに成功したの。でも繁殖は無理だったみたいで、せめて精巧な魔道具として残せたら、というのが始まり」


「それは……ちょっと悲しい話ですね」


「え? ああ、そっかそっか。経緯いきさつが抜けるとそーなるか~。こっちじゃ有名な神話だから忘れてた、あははっ」


「違うんですか?」 


 ネムさんが、指をピッと立てて。


「重要な点をひとつ。渡る前に飲む薬草茶。体に変異へんいが起きるよね?」


 そだね。俺は変異じゃなくて異変いへんだけど。


「お馬さんもそうだったの。で、変異後はメス1頭にオス2頭だから、元メスのオス同士が喧嘩になっちゃって、そのまま厩舎きゅうしゃを飛び出しちゃった」


「は? はぁ」


「ひとりぼっちにされた元オスのメスが寂しがっていたら、ユニコーンが通りかかってね、気に入ったみたいで連れてっちゃった。そのまま行方不明」


 え。


 なにそのインターセプト。


「はい? じゃあオスになった2頭は?」


「お馬さんだから走りで勝負してたんだけど、なかなか決着がつかず、グランドも呆れたみたいで、こっそり2頭にチートを授けたの」


「まさかこんな形でチートの単語を聞くとは。どうなったんですか?」


「それがね、片方はスレイプニール、もう片方はペガサスになっちゃって。あっという間にお空の彼方へ。そして1頭も居なくなりました。これが語り継がれている神話」


「神話のオチとしてどうなのかと思いますが、こうして教えてくれているのは事実だから、なんですね?」


「うん。渡りを使ったレベルでないと教えられないけど、馬鹿みたいな事実なの」


「となると、魔道具として残そうとした目的は、思い出じゃなくてギャンブルでは? それなら――」


 ここで突然、言い様の無い不安に襲われた。言ったらダメ。そう考えてしまって言葉が出ない。


 うそン。


 俺が考えたのって、ただの競馬だよ? 国が胴元になれば皆安心してお金を使うでしょ? て、だけなのに。まあ、ちょっとだけ経済侵略も考えたけど。


「はい! 結界を解除したよ! アキラ君。ちょっと可哀想になってきたから、あっち行ってあげて」


 仕切り直すように満面の笑みを浮かべて、ネムさんは俺の背後を示した。


 そこには話す俺たちの護衛をしてくれている白き瞳。


 サラさんだけは、何故か唇を尖らせていた。



挿絵(By みてみん)

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