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黒羊

 冒険者登録には2つの手続きがあるという。1つは濃紺のオーブに触れて登録、もう1つは冒険者カードに血を吸わせるのだそうだ。


 まだ硬直を解いて貰えない俺は、白き瞳のメンバーに支えられながら腕をカウンターに持ち上げられ、そこにミュウさんがオーブを潜り込ませた。


 オーブの中で発光が始まり、10数えたくらいで収まる。


「はい、冒険者のオーブへの登録は完了。イブ、腕はまだ下ろさせないでね」


 渡りのオーブに似ているなと思ったら、こちらは冒険者のオーブと呼ぶらしい。そのまんまな呼称だな。これ同一シリーズだろ。んーーー聞いてみたいけど渡りの方は触れちゃダメな雰囲気がするんだよなぁ。まあ今の俺は硬直中で何も話せないんだけど。


「ちょ~っと吸わせるからね~」


 そんなことを言いながらミュウさんが取り出したのは、半透明の紙(?)でパッケージングされた、学生証くらいの白いカード。これが冒険者カードなのだろう。パッケージの端から小さな針らしき物を引っ張り出した。ジャケットの袖を引っ張って手首を露出し――え、手首に刺すの? うわ、消毒も無し? いたっ! なんかスゲー痛いんだけど……――ん? んんん? ええええ!?


 俺の血液がパッケージ内のカードに触れた途端、まるで吸われる様にカードが血液の中へと消えてしまい、あろうことか俺の体内に入ってくる。吸わせるって俺の体にかよ! 気持ち悪っ!


 そしてメッチャ驚いたのに声も出せないもどかしさ。くっそー。おめーら早くスタンを解きやがれ。


「アキラ殿から不遜ふそんな気配が」


「うん、わかる。ネムを呼びに行こうかと思ったけど、もうちょっとこのままでいいよね」


 どーせ話せないんだし分かんねえわと悪意を混ぜたら気付かれた。鑑定でもされたか? いいよな~魔法なんでも有りの世界の住人は。


 開き直ってブー垂れてたら前触れもなくリアさんに担ぎ上げられた。


「ミュウ、ミーティングルームを貸して。小さい部屋でいいわ」


「訓練は? する?」


「そこまでは必要ないわ」


「じゃあテーブルと椅子のある部屋、と。はい、どーぞ。ネムさんは、あ、もう来るみたいね」


 俺の視界の外でそんなやり取りがなされ、チャリ、と鍵らしき音が聞こえた。そーいや冒険者の規則を教えるとか言ってたな。





 リアさんに運ばれて、2階にある部屋の1つに到着。床に降ろされると同時に硬直が解除された。


 だったら少し待って解除してから移動でも良かったんじゃないか? 棒っきれの様な状態で運ばれた俺は完全に晒し者だったよな。


 文句の1つでもと背後を見たら、そこに居たのはネムさんではなく、シャツに覆われた筋肉だった。思わず北斗七星を描きたくなる立派な筋肉。あたぁ。


「よぉ、小僧。さっきはなんで俺に目を付けた?」


 某ヘビさんの様な、渋ぅぅい声が降ってきて、俺は見上げた。うっわ、ゴツいけどイケメンやん。ほんと美男美女の国だね。


「そりゃあ、あの中で1番強い人だからですよ」


「ハッ! わかってて的に掛けたってか。それならもう1つ聞くが――」


 静かで強烈な殺気が俺に突き付けられる。


「――そんな跳ねっ返りなら堂々と来るのが普通なんだよ。オメェ誰に雇われた?」


「は? 邪魔されるまで堂々と向かってましたよ。目ェ開けて爆睡してたんですか?」


 なんだろう、この違和感。

 どうにも煮え切らないというか、盛り上がりに欠けるスレ違い感。


「言葉は選べよ小僧。女装して近付くなんざ姑息な暗殺者の手口だろうが」


「おーけい。そーゆー事か」


「あぁ?」


 めんどくさい。

 面倒臭いけど、言わなきゃならない。俺は親指で自分の服を指す。


「男物の服でわかンだろーが。女装だと? 首から上の見た目だけで失礼な事ほざいてんじゃねぇぞ」


 おっと、殺気が霧散したね。やっと分かったか。これだから脳筋は……


「何言ってんだ、お前。そのジャケットもパンツもミリタリー系の定番シルエットだぞ。レディースのな」


 ……は?


「あちゃー、言っちゃった。だから連れてきたくなかったのよねー」


 この声は。


「……ネムさん?」


 少し横に移動して筋肉の後ろを見ると、顔を手で覆うネムさんがいた。


 1、2、3、と視点を素早く移動。


 白き瞳のメンバーが俺と目を合わせようとしない。どういう事だ。改めて自分の服を確認し、俺は筋肉ダルマを見上げた。


「……今更ですが。俺は支倉晶はせくらあきら。呼び名はアキラでいいです。見た目と体型はこんなんですが男です。そして、今とても重要な事を言いますと、俺は男物の服を着ていると認識しています」


「お、おう。確かに今更だが俺はサイラス、サイラス・ウルフ。黒羊のリーダーだ。会話にならんかったら娘が拗ねるんでな、レディースファッションはそれなりに知ってる。お前さんは……まあ騙されてるわな」


 羊のリーダーは狼でしたー。


 いや、それはどうでもいい。


「色違いの上下がもう1組ありますが、それも……て事でしょうか」


「同じ店で買ったのなら、そうだろうよ」


 むう。そんなバカなと言いたいところだけど、そうだと知ったせいか、無意識のうちに封殺ふうさつしていた違和感に気付いた。


「ジャケットの丈が短いような気はしてましたが」


「そのほうが腰を高く見せられるからな」


 ほう。


「男物のズボンだとブカブカになっちゃいますか?」


「でなきゃ女物は生まれんよ」


 ほうほう。


 俺が着替えて店を出た時、白き瞳の皆さんは何も仰らなかったんだけどなぁ……1! 2! 3! 4!……全員はっきりと目ぇ逸らしやがった。


「サイラスさん。俺は男なので女の服だと気付かなかった訳ですが、コレ、女性だったら気付きますか?」


「見た瞬間、呼吸をする様にな」


 ほうほうほう。


 い~ち……に~と見せかけて3!


「リアさんゲットぉ」


「な、なんです。急に」


 おや? どうしたんですかリアさん。そんなに狼狽うろたえて、何かやましいところでもあるのですか?


「リアさんは。店主が約束を破った事に気付いてた訳ですよね?」


「いえ、店主は約束などしていません」


 あれ。すーん、て感じに落ち着いちゃったぞ。


「俺が要望を言ったとき、リアさんも側にいましたよね?」


「居ました。店主が『少々お待ちを』と返したのも覚えています。あの店主、自分の売りたい物を提案しただけで、アキラ殿の要望には欠片も応えていません」


 んん?


 言われてみれば。


「……うろ覚えだけど。分かったとか任せろとかは言ってなかった気がする。え、もしかして、サインさせられたのって」


「いずれこうなる事を見越しての保険でしょう。見事な誘導でした」


「なんで黙ってたのさ」


「闘いに口を出すのは野暮なので」


 む。リアさんの解釈だと闘いになるのか。間違いではないのだろうけど何だかなぁ。じゃあ店を出てすぐ俺を確保しにきたサラさんは――


「あたしは、似合ってるな! と思ったよ。頑なだったのに変だなとも思ったけど、カッコ可愛いくてアキラちゃんらしいかな、て」


 じゃ、イブさんは――


「私もサラと同じ感じよ。まあ、面倒の匂いしかしないから話題にならない事を祈ってたのは謝るわ。ごめんなさい」


「あははっ、ごめ――


 変態ネムさんは、いっか。どうせろくな事言わないし。


「サイラスさん。勉強になりました」 ――ちょっ、アキラ君! 独りにしないでよ!」


 俺はサイラスさんに頭を下げ、言葉を続けた。 ――ねえってばー! アキむぐっ」


「今日はもう少しした帰らないといけないはずなので、この御礼かちこみは後日、改めてお伺いするという事でも宜しいでしょうか?」


「くっくっ。俺も勘違いしてたからな、そこは悪かった。御互い様って事で次はもう少し穏便おんびんでもいいんじゃないかと思うがね」


 あれ。ちょっとひねり過ぎたかな? 跳ねっ返りがとか言ってたし、サイラスさん、こーゆーやり取りなんて好きそうなんだけど。


「あ、誤解については仕方なかったのでいいんです。ただ、俺はこの世界で文字通り駆け出しな訳で――となればご自身にも覚えはないですか?」


「なるほど、()()()か。楽しませてくれるんだろうな?」


「もちろん。……()()つもりです」


――にやり――


 共に含みのある笑みを浮かべた。


 それが、合意の合図。


 高みを求めて出逢うは――


「はいはいは~い、小荷物の非礼について筋は通したでしょ。白き瞳としては、そろそろミーティングに入りたいのよ。この部屋もタダじゃないんだし、ね?」


「おっと。そうだな、オジサンは退散するわ。ネムちゃん、無理言って悪かったな」


「むぐっ!w」


 いつの間にかサラさんに取り押さえられていたネムさんは、元気いっぱいのウインクでサイラスさんを見送る。


 くそぅ。いい所で。……いや、本来なら予定に無い、完全にイレギュラーな出来事なんだ。有力者と手合わせの約束が出来ただけでも収穫だと前向きに捉えておくとしよう。



 この後、王宮に帰還する予定の時間まで。

 

 俺はステータスボードや冒険者ギルドカードの呼び出し方、それらを使った通信方法などを実践しながら学び、ついでとばかりに冒険者の規則――特に喧嘩や揉め事に関する罰則を重点的に叩き込まれたのだった。


 むう。なにゆえ。

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