冒険者ギルド
最後にキャラ絵があります。
大きかったらゴメンね!
新たに飛び立つ馬車もいなくなり、最後の1台が防壁を越えたであろう頃、再び鐘が鳴った。
すっ、とイブさんが隣に来た。
「およそ5万台の魔道馬車が一斉に飛び立つ。なかなかの見物でしょう?」
規模も凄いけどさ。
「…………飛ぶんだ。馬車」
まず、そこに驚いたよ。
俺が10日間で学んだ事を大きく分けると――
1、生活に困らない程度の常識
2、魔術魔法の概念と扱い方
3、地球と関わって得た技術
――この3つで、2と3の繋がりが飛行技術の進歩発展に大きく貢献したと聞いている。だったら普通は飛行機や飛行船を予想すると思うんだ。
なのに、馬車。
いや、地球の技術関係無くね?
「リーダー、アキラ君が乗りたそうな顔だよ? これは冒険者ギルドも案内しなきゃダメっしょ!」
ネムさんが俺の右腕を掴んだ。
「ネム良いこと言った! アキラちゃん、ギルド行こうよ。その途中で気になった所は案内するって事で、ね?」
サラさんも俺の腕を掴んだ。そしてリアさんが歩き出す。
「承知した」
「リア、ステイ。ネム、サラ、離れなさい。アキラ君の要望がまだでしょ」
…………うおぅ!? 言われてみれば。
流れるような拉致運びで反応できなかったよ。
「メンバーが先走ってごめんなさいね? ただ、サラの案が現実的だなとも思うの。どう?」
先走って? あ、元々連れて行くつもりだったって事か。
「その方針でいいですよ。俺は男物の服を買いたいので、それさえ優先して頂ければ」
「おとこもの?」
はい皆さん、揃って目を剥かない。なんか怖いから。
首も傾げない。なんか凹むから。
服屋を訪ね歩いて3軒目。「トール・ジェンの店」が俺の要望を聞いてくれることになった。
店主はスリーピースをピシッと決めたジェントルなおじ様。割りとフランクで、みんなからはトールさんと呼ばれているそう。
護衛の皆さんはリアさんだけを俺の側に残してバラけ、外と中をさりげなく巡回している。
さて、俺がトールさんに求めたのは「今着ている兵士服に近いタイプの上下を購入するので、男物のデザインを崩さずサイズ直しを頼みたい」ということ。
これを伝えたらトールさんは「少々お待ちを」と応えて店の奥に消え、すぐにクリップボードらしき板を持って現れた。
採寸するのかな? と心の準備をしていたら、俺をチラチラ見ながらペンを走らせて――ん? 焦点が違うな。俺から見て効果的な下突きの間合い、その空間を見られている感じ。……ああ、異世界だもんな。たぶんトールさんの視界には鑑定とかスキルボードとかの類いが見えているのだろうね。
トールさんはペンの動きを止めて頷くと、ボードを俺に見せた。
「お召しのパンツを仕立て直す場合の寸法です。そして、限り無く近い寸法で仕立てられた既製品がこちらです」
ん、なんか一瞬で黒いズボンが現れたんだけど。何でもありだな。
「これなら直しが要らないので時間も予算も節約できますよ」
ほほう。
予算はマリア王女持ちだけど、直しに時間が掛かるだろうと覚悟していたから、既製品があるのならありがたいぞ。
「これの濃い茶色か黒に近い緑はありますか?」
「ありますよ。他にフォーマル使い出来るタイプもありますが。見ますか?」
「そっちは要らないです」
「では、ボトムに合わせたジャケットは?」
「あ、見たいです」
こんな感じのトントン拍子なやりとりで、ズボン2本とジャケット2着の購入が決まり、ほつれや汚れなど商品に不備は無い事を確認しました的な記載がされた用紙にサインをして終了。
さっそく暗褐色のズボンと自衛隊色のジャケットに着替えて店を後にする。荷物はリアさんが収納系スキルで預かってくれた。
俺の用事は済ませた。ここからは完全お任せだから、目的地は冒険者ギルドとなる。
「でかっ」
冒険者ギルドは、王宮王城から見えていた5階建て、その中のひとつだった。他の2つは魔法魔術ギルドと商業ギルド。
で、ここ王都にあるのはどれも総本部なんだけど、都市丸ごと面倒みなきゃならないので東西南北の防壁門近くにも直轄支部を置いてあるそうな。
「世界を股にかける独立組織と考えれば、これでも小さいくらいよ。さ、入りましょう」
イブさんの合図でリアさんがドアを開け、フォーメーションのまま中に入った。
建物が大きいのである程度は予想していたけど、スゲー広い。まるで体育館だね。それで、2階席の高さに天井がある感じ。うん、手頃でいいね。
上階を支えるための太い柱が、結構な間隔を空けて4本4列。おー、これらもなかなか。
壁際にはテーブルとイスが配置してあって、何に使うかは、まあ見れば分かる。強面お兄様方のグループが分散して4組、めいめいに寛いでいらっしゃる。
皆さんお強そうで。これはやっぱりテンプレ通り絡まれたりするのだろうか。
ふむ。俺としては服の動きやすさを知る機会になるからwelcomeなんだけど。
突然、腕を引っ張られた。
「――ちょっと、アキラちゃん」
「え? はい」
上から睨み付けるサラさん。どうしたのだろう。
「え、じゃないわよ。何処に行こうとしてるの」
「ええと、広いものだから迷っちゃって」
「入口ドアから3メートルで迷う要素が何処にあるのよ。リーダー。この子、頭おかしい。笑ってる」
「リーダ~、あそこの人達って、Aランクの『黒羊』さんだよねー。絶対気付いてるから先にお詫びしてくる~!」
A。
ふ~む。
A。
「ありがとう、ネム。ついでに、うちの小荷物が済みませんと伝えて。リア、先に行って登録準備を」
「なるほど。了解」
「サラ」
「ええ」
おおっとぉ!? イブさんとサラさんで俺の両手を引いて勝手に奥へと。つか小荷物て俺の事か?
いやいやいや、もし失礼があったのなら俺が直接頭を下げて然るべきで、ネムさんの手を煩わせるのは良くないでしょう。まずはこの点を分かって貰わないと。
「イブさん。サラさん。うちの流派には、強者に絡まれたら、その苦労は買ってでもしろ、と言う教えがあってですね」
……あかん。間違えて本音を漏らした。
サラさんの視線が厳しくなる。
「アキラちゃん、あたし達を騙そうとしても無駄よ? そもそも殺気だだ漏らして絡もうとしてるのは君でしょーが」
むう。話を聞いて貰えなさそうだね。リーダーのイブさん助けて下さい。
「こら、さりげなく抵抗しないの。……姉さんが私達に振る訳ね。この子、狂戦士因子でも持っているのかしら」
あれ? なんか俺、妙な疑われ方してないか? 流派の教えは本当なんだけどな。強者は己を高める存在、伏すは未熟を知る機会、超える歓びを糧に挑むべし!
これこそが、から「スタン」のぐぅあ!?
スタンと聞こえた瞬間、全身に痺れが走って硬直。
俺はそのまま引き摺られる事となった。
リアさんが立っているカウンターまで来ると、
「ハイ、ミュウ。この子の冒険者登録をお願い」
イブさんが――これが素なんだろうね、気安く挨拶して、絶賛硬直中の俺を押し出す。ちくしょう。声も出せねぇ。
「ほわ~、かわい~……んんっ、と。準備は出来てるけど、何かあったの?」
ミュウと呼ばれた職員らしきおねーさんが首を傾げる。一瞬だけ不穏な空気を感じたけど無視しよう。しかし魔族って綺麗な人しかいないのかな。遺伝子って不公平だ。
「それが、ビックリするくらい喧嘩っ早くて。黒羊さんに向かって行ったのが偶然でないなら、両方の意味でたいしたものだけどね」
「へぇ~。規則とかの説明は終わってる?」
まてまてまて~~い! 俺は冒険者になるつもりはないぞ! なんでそんな話になってんだよ!
「――ねえ、イブ。なんかこの子、目で訴えてきてるけど。たぶんマイナスの方向で」
「ああ、スタンかけたままだったわ。ネム……は、なんか向こうで盛り上がってるし、いいわ、このまま行っちゃいましょ。規則は後で教えとくから」
「りょーかい」
「かふーーー! かふーーー!」
待てーーー! 聞けーーー!
「これはあなたの保護者さんの意向だそうよ」
教授が?
どうせろくでもないことだろ。拒否だ拒――
「長期滞在になりそうだから武者修行でもしてきたら、て。それには冒険者身分って都合がいいの」
――……ほう?
……武者修行。
「ま、そこら辺はまた後で話すとして――」
「かふ! かふ!」
「イブ。なんかすっごく目で訴えてきてるけど。たぶん今度はプラスの方向で」
いや、だってほら。
武者修行だよ!?
男の子なら皆(当社調べ)憧れる武者修行!
これはもう、詳しく聞かないとね!
「え、スタンかかってるのにメッチャ笑顔だと分かっちゃうんだけど」
「なんだろう。上手く言えないんだけどさ」
「うん。気持ち悪い」
抵抗出来ないのを良いことに容赦無いな、おねーさん達!
覚えとくからな!