異世界から勇者の国の兵器・技術を召喚する少女
召喚勇者の母を持つ少女アリサは 生まれながらにして召喚魔法が使える。
アリサは冒険者になり、勇者の国の武器でひたすら盗賊を狩っていく。
そんなお話。
「貴様らの非道、女神様は決してお許しにならないぞ!」
ここは一村一領主の騎士爵の村。辺境で、もっとも近い村でも馬車で3日掛かる。
縛られて盗賊の頭目の前に引き出されている村の領主騎士は叫んだ。30歳前の偉丈夫で甲冑を着ている。つい先程まで戦闘があったのだろう。甲冑はうす汚れている。村には従士と村人の遺体が数十、無慈悲にも転がっている。
白昼堂々と村を襲われたが、従士とともに果敢に戦い。従士は全滅したが、ほとんどの村人を有事の際の隠し砦に避難させることに成功した。妻子は馬車で逃がすことにも成功。これで私が殉職したら子供には家名を継がせられる。妻には年金が支給される。非常用の魔道通信で辺境伯軍にも連絡した。これも魔王軍が来た時の手順どおり。
しかし、まさか、人間に人間側から襲われるとは思わなかった・・・
この村は魔王軍が侵攻した際、命を掛けて遅滞戦闘を行い。情報を送るのが役割。
その代り、税金は格安で開発資金も下賜された。
通常、対魔王軍の施設や村を攻撃する不心得ものはいない。
だから、こいつら女神様の鉄槌が下るだろうよと騎士は蔑む。
最短で3日、我慢すれば本村から援軍が来る・・が、私が死んでからだなと諦めの境地にも近い安心感がこみ上げて来た。
「なあ、領民はどこに隠した。森か?地下か?答えろ」
足蹴にされるが、この男は答えない。
「団長、魔道通信機を見つけました。奴、非常連絡したかもですぜ」部下が魔道具通信具を持って来る。魔力のない者でも、魔石を使って魔法に近いことができる機械。まだ、高価だが、魔族との最前線基地としての役割のあるこの村には旧式ではあるが配備されていた。
「おい、お前、襲撃は間違いでした。オークの群れの見間違いでした。オークは美味く頂いていると連絡しろ」
「お前がやればいいだろう?」
今度は、顔に回し蹴りを食らわせ、騎士領主は、2,3メートルほど吹っ飛んだ。
「符丁があるだろう。俺は軍隊出身だ」
魔道通信機が敵の手に渡った場合を想定して、符丁、合言葉が合わないと敵とみなされる。
「ギィィィイ、ガガガ・・・こちら・・辺境伯軍本部・・どうした状況・・送れ・・」
盗賊の部下が持ってきた魔道通信機が音声を受信した。
この機械、送信ボタンを押さないとこちらからの音声は向こうに聞こえない。
安心だが、敵の出方を聞くべきだ。
「お前ら、静かにだ・・」
盗賊の首領ガイルは魔道通信具に顔を近づけた。
「・・・・近くに・・・鏖のアリサが・・いる。・・向かって・・もう少しだ・・・がんばれ・・・プツン」
「フフフフフフ」領主騎士は口が切れたにも関わらず笑い声を発している。
「お前、何を知っている。吐け!」
ガイルは領主騎士の両肩を掴み。前後に強く揺さぶった。
「お前、何を知っている。答えろ」
この盗賊団のガイルは領主騎士の顔をまっすぐと見た。
手下二人が騎士領主を押えている。
「盗賊狩りのアリサが来る。知らないのか?どうせお前たちもアリサから逃げまくっているのだろう?違うか?」
グサッ斧の柄の先で顔を突いた。鈍い音がした、領主の前歯が数本欠けた。
図星だった。数か月前から、王国北部の辺境伯領を中心に次々と盗賊が狩られている。ここ数か月の出来事だ。
戦争で傭兵団はお払い箱になった。行儀の良い傭兵団は貴族お抱えになったりもしたが、この傭兵団は、魔族ではなく、人間の村も襲ったので、誰にも噛みつく「狂犬」と忌み嫌われた。
しかし、腕は立つので戦争中は重用された。大戦終了後は解散を命じられたが、戦争稼業が忘れられず戦争時の異名から「狂犬団」として盗賊として生計を立てた。
そりゃ、俺だって、平和になった世で、盗賊団を続けられるとは思っていないさ。
しかし、早すぎる。後、5~6年は稼げると思ったが、ここ数か月、狩られるペースが異常に速い。
噂では一人の天才冒険者が盗賊を刈っている。詳しい情報はない。何せ。刈られた盗賊は鏖にあっているからな。
王国北部の魔族領近くの村を襲いながら、東に向かい帝国領に逃げ込もうとしたが、思ったよりも騎士の対応が早い。こりゃ、西に向かった方が正解だったか?と後悔しても遅い。今は現状を何とかしなければな。
「おい、もっと、そのアリサについて話せ」ガイルが領主騎士の胸倉を掴むが、手下から報告が来た。
「頭~~馬車だ。馬車が来た。騎士爵の紋章がある。別動隊が領主一族を捕まえたみたいですぜ。ドンが御者をしていますぜ」
馬車は、村の入り口から入り、ガイルの手前200~300メートル前で止まった。
「どう、どう、ここです。この村だ・・です」
遠くからガイルの所までは聞こえないが、御者をしている男は、後ろを振り向きもせずに話していた。
「何・・・・あれ、10騎向かったはずなのに、騎馬がない。おい、ドン、他の奴らどうした。貴婦人を先に頂いちまったか?」
と盗賊団の副団長が、御者台に座って馬を御していた仲間のドンにおどけて、大声を掛けた。
先に、ガイルよりも先に領主夫人を陵辱したので、やっちまったと制裁を恐れている?
こりゃ制裁を恐れて、他の奴は逃げ出したか?それとも馬車の中で宜しくやっているか?
ガイルの側にいる副団長は懸案したが、なあに、ドンに限って大丈夫だろうさ。何か訳がある。新しい獲物でも見つけたのだろうとほくそ笑む。
「妻子には手を出すな」騎士領主は叫んだが、ガイルは興味を示さない。
・・・いやな予感だ。馬車を注視する。
馬車の御者をしている組長のドンは別動隊の長だ。用心深く団の軍師も兼ねている。そいつが何かに怯えているようだ。
「なあ、俺、言うとおりにしたよな。したよな。案内したよな。助けてくれよ。なあ、頼むよ。だからパンやめて・・パンやめください」
「・・パンだめ?じゃあ・・パンパンパンね」
「い。いや~~~もっとだめ~~」
ドンが叫び御者台から飛び降りるよりも先に
パンパンパンと乾いた音が連発した。ドンは御者台から、マリオネットを無茶苦茶に乱暴に動かしたように動き。やがて糸の切れたマリオネットのようにぐったりして前方に吹っ飛び馬車から落ちた。確実に死んだ。
馬車のドアから杖を持った。木と鉄でできた奇妙な魔法杖を携行している黒髪黒目の少女が顔を出した。
少女は村を見渡しながら
「符丁?・・6・・・・報告・・・村、盗賊いた。これから駆除、する・・終わり」
高価な、最新鋭な小型な魔道通信具に話ながら、ゆっくり馬車を降りた。
「おい、おい、あいつ一人で来たぜ。なめすぎた。これだからガキはよ。ちょっと魔法が使えるからって、調子に乗った粋がったメスだぜ!ドンが身を犠牲にして特大魔法を受けてくれた。あいつ、5分は魔法を使えないぜ。ぐったりしているはずだ。ドンの供養だ。一番乗りした奴があいつに一番乗りさせてやるぞ!」
「「ギャハハハハハ、それはいい」」
ガイルは笑いながら大声で言った。正直不気味だ。しかし、戦場では士気を高めるためにわざと楽観的な態度を取らなければいけないときもあると経験で学んだ。心配は軍師ドンの仕事だがもういない。傭兵団の団長だったガイルは豪胆を装う。
団員も、馬鹿になれない馬鹿はいない。
この少女は杖を抱えながら、馬車から飛び降りた。
次は、何をする?魔法の連発はできまい。詠唱をする時を見逃すな。盗賊たちは本能で臨戦態勢をとった。おのおの戦斧、槍、刀、弓を取り、対魔法用の方陣を取った。
前方に甲を着た団員、後方に、投げやりや弓の飛び道具。対魔法盾があれば良かったが、そんなものはない。あの女との距離は目測で200メートルか?5分なら余裕だろう。また、仮に、魔法を放ても威力は弱いはず。2,3人の死傷者を出して終わり。その間に特攻すればいい。
五名横一行で八列の陣。え~と全部で何人だ。三列目までが死んでも、・・何人残る?学校出てない俺は指の数しか数えられないが、まだ、沢山生き残るだろうとガイルは皮算用したが・・
「何だ。あいつ、座りやがった。小便か?」
誰ともなく、品のない声で、少女をあおる。笑い声が響いた。
少女は馬車を飛び降りると、素早く「膝撃ち」の体制をとった。
魔法杖は、通常、悪素を取り込み、放出するために、高くあげるもの。
少女は、右足の踝の上にお尻を載せて左足を立てている。左手で杖を支え、左膝に左手の肘を付けている。奇妙な構えで魔法杖の細い方を、盗賊に向けた。魔石などが埋め込まれているだろう太い方を肩にしっかり付けている。
何もかもおかしい。
「おい、副団長、お前が指揮を取れ。やれるな。お前の成長を見たい。俺に力を見せてみろ」
「おうよ」
ガイルは逃げ出す算段をした。もう王国では盗賊は終わりだ。こいつらを囮に逃げてやる。
ヒュン~と光る何かが、がガイルのすぐ近くを通った。
「うん?・・閃光弾が・ずれている。風?右に2ミル修正・・・」
最初の一発から、修正まで、3秒で次弾を発射した。
ガイルの胸に7.62ミリ弾が着弾した。
「「ガイルが死んだ」」
不味い。200メートルの距離でも、魔法が届く。副団長は頭を回転させるが、過去の戦場で似た経験は出てこない。
そうだ。人質だ。騎士領主を人質にすれば
「お~い、取引だ。こいつの命を・ギャ」
「「副団長も死んだ。あいつ、人質がいても魔法を放つぞ。とんだ外道だ」」
「おい、騎士、冒険者だったら、そこで『人質には手を出さないで~』となるだろ。お前には情けってものがないのか!」と怒鳴る盗賊
アリサは躊躇なく撃った。幸い修正はすんでいる。
「テロリスト・・とは取引・・しない。騎士は・・一所懸命・・真の騎士ならば・・命と引き換え・に・領民を守る・・はず・・父様の教え・・」
近接戦闘をするには人数が多い。
「・・間引きする・・」
銃声が響いた。雷魔法のような音が一定のリズムでさく裂した。
「吸う・吐く・止める。吸う・吐く・止める」
杖から鉄のツブテが少女の呼吸のリズムで放たれ、盗賊たちが作った方陣の最も装備の良いものや飛び道具のある者から次々に撃たれていく。
「こいつ、一呼吸毎に魔法を放ってやがる!」
誰かが気づいて声を挙げるが、次に指示を出す者は皆、撃たれてしまった。
「コウカン、引く、弾倉、交換、コウカン、放つ、弾込めヨシ・・・」
次は「伏せ撃ち」の姿勢を取る。少女はうつ伏せに寝っ転び。魔法杖を構えるが、杖の細い方から脚を出して地面に設置した。
右手で魔法杖の指を掛けている枝をギュウと後方に引っ張り肩に押しつけ、左手は、鉄と木の境目を、上からギュウと押さえ付けた。
(ふふふん♪64のレはミナゴロシ~レッツゴーのレ~)
少女は自作の下手な鼻歌を歌いながら
連発の「レ」・・と魔法杖に付いている小さなレバーを勇者の国の言葉「レ」に合わせる。
☆回想五年前
「ジョキョ先生、連発が・・的に・・全然当たらない・・・よ」
???
「それで良いのです。反動で揺らぎが大きくなります。弾をばらまくイメージで撃って下さい。的以外に計算して当たるようになります。アリサ候補生の弾は、地上5メートル上に飛んでいます。5メートル以上の人はいませんね。現時点では弾がもったいない。筋トレ、いや、この世界では強化魔法だったかな」
「え~~」
__________________________________________________
最初、ドンを撃ったような炸裂音が数秒でなされ、前列から、四列目くらいまで人が大勢倒れ、集団の真ん中に穴が出来た。
「ヨシ、弾倉交換・・・」
団長、副団長、組長を失った指揮官のいない50名ぐらいの盗賊は成すすべもなく、次々と各個に撃たれた。
少女は立ち上がり、杖にひもを掛け肩で杖を平行に釣りながら、近づいて、あの魔法を生き残った盗賊達に放っていく。
「ヒィ、あの女、こっち来るぞ!」
「慌てなさんな。僕に任せなさい」
と奥から眼鏡を掛けた盗賊の中では場違いなひょろ長い男が出てきた。茶色の釣りズボンに白いシャツ。手には木で出来たバインダー、商会の店員にも見える。
彼は戦争中、主計官補佐補助の補助(つまり輜重兵)主計官のそばで読み書き計算を習った。盗賊に身を落してから、その経歴から「狂犬団」の物資の管理を任されていた。今も奪った村の物資を確認していた。
「フフフフ、僕は文字を読み書きできます。三桁の足し算引き算が出来ます。今は掛け算に挑戦中です。あの少女よりも頭がいい・・大人の頭脳戦を見せて上げます。任せて下さい」
「「そいつは、すげえーー」」
「僕たちは降伏する!女神圏交戦規定第2章、降伏した者を虐待してはならない。君、降伏した人を紳士として扱わないと、王様にとっても怒られるよ。捕虜としての待遇を所望する!」
と戦争中、王国軍より渡された団旗を四角にしてうやうやしく持って来た。
眼鏡は正式に降伏が成立したこと。これで僕達を殺したら王様に怒られちゃうよとアリサに説明したが、アリサは
「女神圏交戦規定2章捕囚の規定・・但し書き・・次の者は除外する・・③冒険者ギルドから盗賊等と認定された個人又は集団・・⑧自ら盗賊等名乗るもの・・は捕囚の規定は適用されない・・王国刑法・・夜盗等が適用・・される。王国刑法夜盗等は現行犯なら殺してもとがめられない・・よ。
お前達は・・除外規定③と⑧に該当する・・・つまり・・捕まって・・拷問されて、縛り首・・可哀想だから殺してあげる・・ね」
「な、識者の見解を求める!」
パン!
(ふふふふ~~ん♪クレイモア~は~対人地雷じゃな~い。だってだって埋めないんだもん♪)
そして、次々に鼻歌を歌いながら、直接標準で撃っていく。
(ふふふふ~~ん♪64は賢い子~スコープ無しで300なら100発100中だい♪)
「待ってくれ、俺には女房と子供がいる。俺が死んだら心配だ。この通り!」
腕を7.62ミリ弾で吹っ飛ばされた盗賊の1人がアリサの前で土下座する。
「大丈夫・・・貴方の妻と子供・・賞金首じゃない・・処罰されない。安心していい・・」
パン!
(ふふふふ~~ん♪89は良い子~3点斉射で弾の節約~とっても健気な子♪)
「ヒヒヒィ、俺には年老いた母がいる。俺が帰らないと悲しむんだ」
足から血を出して、動けない盗賊が懇願する。
「そう・・あのね・・人は・・み~んな、母様から・・生まれた・・おじさんたちが・・殺した人・・も・・母様・・いたんだよ」
パン!
「ふう、掃討・・終わり」
最後に生き残っていた盗賊を「パン」した後、アリサは汗を拭いた。
「す・・すごいな。これが、勇者様の国の武器か?」
「うん。そう・・勇者の国の騎士様の武器・・奥さんたち・・1キロ先の森・・に隠れてもらった・・無事」
「そうか・・・有難う。この村の代表として御例申し上げる」
領主騎士は考える。
黒目で黒髪は、この王国ではいなくもないが・・「もしや、君は召喚された勇者様の『貴方ご無事でしたのね!』」
「父上!」「ご領主様~~~」
騎士の周りに人垣が出来、お互いに無事を喜び合った。
これからの事を話し合い。さあ、おのおの仕事に取りかかろうとなった時。
「アリサお姉ちゃんは?もう帰ったの?」
「何、アリサ殿が、いない」
「旦那様、あの方は鉄の馬に乗って来ましたの・・もう、姿は見えない位置にいるかと・・」
と言うことは、やはり、召喚勇者様のお子か・・と騎士は、アリサが去ったであろう南の街道に向かって、剣を立て礼をし黙礼した。
騎士爵夫人、子息、村民は騎士にならって、アリサが去った方に向かって胸に手を当て頭を下げ黙礼をしたが・・「ヒヒーーーン」と「パカパカ」の音で目を開けた。
「・・騎士様、お馬さんたち・・蹄鉄を付けている・・野生は無理・・魔物に・・襲われたら・・可哀想・・この村で・・面倒・・お願い」
オフロード用スクーターに乗ったアリサに先導された馬10頭が目の前にいた。
アリサが主を殺した「狂犬団」別働隊の馬。
「ああ」と騎士は答えたと言う。
もし、お気に召したならブクマ、評価を頂けたら、有難いです。励みになります。