お釈迦様はインド人ですわ!
「では、明日からは通常授業が始ります、皆さん忘れ物の無いように気を付けてくださいね」
教壇に立つ担任教師がそう告げて教室を出ていくと本日の授業は終了した。
季節は桜咲く春、今日から新学期のスタートである。
「ねぇ、戸田。私この学校であまり授業を受けてる記憶がないんですけど」
エリカが可愛く首を傾げながら隣に立つ戸田に話しかける。
「正直、私もお嬢様は食堂で何か食べてる印象しかないですけどね」
「後、もしかしてですけどこの世界ってサザエさんやコナン君の世界と同じ時間が流れてません?何年経っても卒業出来る気配がないですわ、永遠の17歳ですわ南沙織ですわ」
「また、そう言う年代の違うネタを、お嬢様が阪神優勝や大谷のホームラン王、地震の時事ネタでお話するから変な錯覚するんですよ」
「私のせいですの」
戸田の言葉にエリカがびっくりしたように声を上げた。
その声に前の席に座る伊集院がニコニコと笑顔で振り向く、笑顔なのに妙な圧を感じる、考えてはいけない感じろと言う事なのか。
コナン君は永遠の小学校1年生の7歳児、30年経とうがアラサー、アラフォーにはならないのだ。
開き直ったエリカがキリッとした表情で口を開く。
「私はようやくのぼりはじめたばかりだからな。このはてしなく遠いお嬢様坂をよ…未完」
「また、昭和ネタを……」
「こう言っておけば30年くらい間が空いても完結するから大丈夫ですわ」
学校帰り、今日は半日授業だったので戸田を先に帰し道頓堀まで足を伸ばしたエリカは昼食にお好み焼きを食べた後、川沿いを腹ごなしに散歩する、モダン焼きにすじネギ玉を完食、流石にサービスで焼いてもらった豚玉は余計だった。
この道頓堀川、一寸法師がお椀に乗って京に出発した由緒ある川なのだが、最近は若者がダイブする川としての知名度の方が高い。
「ふむ、時事ネタではなく、毎年の行事ならいいのですわ、カツオ君も何回もお正月を過ごしていますわ、でもフジテレビは大丈夫なのかしら?」
舌の根の乾かぬうちに時事ネタを入れてくるエリカ。
そんな事を考えながら戎橋を渡っている時、グリコの看板を見てハッとする、両手ではないが片手を天に掲げるポーズのお釈迦様の誕生仏が頭に浮かんだ、そうだ今日4月8日はお釈迦様の誕生日。
(紀元前624年4月8日北インド生まれ、キリストは紀元0年イスラエル生まれだから結構歳下なのだ。作者の住む長野では月遅れの5月5日に善光寺でお花祭りが行われます)
エリカにとって信仰する神はビリケンさんなので、お釈迦様の誕生日などどうでもいいのだが、ふと甘茶が飲みたい気分になってしまった。
心斎橋方面にテクテクテクと歩いて行くと左手に大きなビルのぶち抜きの奥に目的のお寺が見える真宗大谷派難波別院 (南御堂)だ、このお花祭り (灌仏会)の時期、本堂の前には綺麗な花を飾られた花御堂にお釈迦様の誕生仏が祀られている。
「そうそう、これこれって、……グリコじゃなくてどっちかと言えばオードリーの春日かアントニオ猪木ですわね」(バチが当たりそうな発言である)
柄杓で甘茶をかけながら天上天下唯我独尊とお釈迦様の言葉を心の中で呟く。
エリカのキャッチフレーズにもぴったりな言葉 (諸説あり)だ。ちなみに甘茶はユキノシタ科のアマチャの木の葉を煎じたお茶で自然な甘みがあり漢方薬としても使われる、カフェインを含まないので子供や妊婦さんでも安心して飲むことが出来る。
「う〜ん、甘くて美味しいですわ、これで無病息災ですわ」
甘茶を飲んでご満悦である。別に仏教徒でもないがご利益だけは欲しい日本人のエリカ、クリスマスにはケーキとターキーも普通に食べるしシャンメリーだって飲んじゃう、だがイスラム教のラマダンだけは絶対にしない、絶対にだ。
「さて、この辺りでインドカレーのお店は……」
仏様を見てすっかり気分はインド料理になってしまったエリカである、もう、早くお家に帰りなさい。