2025年のお正月ですわ!
お正月休み、お父様とお母様が一緒に出掛けた留守をいいことにダラダラと過ごす。これぞ正しいお正月ですわ。
家のリビングでTVを見ながら通販番組で梅澤の叔父様が紹介しているネコブダシの購入を真剣に考えていると、実家に新年の挨拶に帰っていた戸田が帰ってきた。
「ただいま戻りました!」
かけて来る足音が聞こえたかと思えばカチャリと扉が開く、やけに機嫌が良さそうな声に扉に目を向けた。
「あら、早かったですわね、ちゃんと親孝行は出来ましたの」
「いや~、もうバッチリですよ、子供の時に渡した肩たたき券全部使われちゃいました。あ、コレうちのお父ちゃんからエリカお嬢様にって」
手渡されたビニール袋には赤い箱に青のストライブが入った派手な外箱が2つ。
「ッ、こ、これは、じゃがりこたこ焼き味!さすが戸田のお父様わかってますわ!」
嬉しさのあまり箱を掲げてその場でクルクルと華麗に回った。
「エリカお嬢様って本当に変なもんで喜びますよね」
戸田の呆れた声。あら、感情を抑えてばかりだとストレスが溜まりますわよ。
「そんなものより聞いてくださいよ、私年末ジャンボ5等の1万円当たったんですよ、やっぱり神様って本当に居るんですね、これはいつもめっちゃ苦労してる私へのご褒美ですよ」
なるほど、戸田の機嫌が良い原因はそれか。
「ああ、梅田に行った時に一緒に買った富くじですわね」
戸田が20枚買って、エリカも付き合いで10枚買った。(ん、1万当たっても4600円の儲けか)
「そうですよ、お嬢様はどうでした?」
「まだ確認してませんわ」
「もう引換出来ますよ、確か連番で10枚でしたよね、5等を見事に当てた私が見てあげますよ」
ふふんと得意気に胸を張る戸田に若干イラっとしつつ、部屋から宝くじを持ってきて戸田に手渡す。
年末ジャンボ宝くじは1等7億、前後賞合わせると10億、2等1千万、3等100万、5等1万、6等3千、7等300の配当となっている、ちなみに支払開始日は1月7日からだ。
戸田が封筒を開いて中に入っていた10枚の宝くじをリビングの机に並べる、スマホで当選番号を表示させると机の番号と比べ始めた。
「え~っと、1等は110組の106348番は流石にないでしょうから~、ん?」
机に並んだクジ番号、組は偶然にも110番と合っている、後は番号だ。
戸田は一通り目を走らせると、自分の目を擦って再度確認した。それだけでは足らないのかもう一度スマホと机で視線を往復させた。しつこい。
「エリカお嬢様……」
「なんですの?」
じゃがりこをポリポリ齧りながら答える。たこ焼き味美味しいですわ。
「なんか当たってるみたいなんでけど」
「あら、何等ですの?」
「1等みたいなんですけど……」
「へぇ、1等って5億でしたっけ」
「いえ、年末ジャンボは7億で前後賞合わせると10億です」
「あらあら、また増えてますの」
「増えてるんですよ」
戸田が頭を抱えて何やらブツブツ言い出した。
「お嬢様、昔に買ったサマージャンボの時も5億当ててましたよね、なんでお金というのはすでに持ってる人に転がり込むの!神様は不公平やー!」
ウガァ!と天を仰ぐ戸田、諦めろ、お金なんてものは結局同じ所をグルグル回ってるのだ。
「私くじ運は昔から良かったんですの」
「う~、運が良いからお金が寄ってくるのか、お金があるから運が良いのか?」
「卵が先かニワトリが先かの議論に似てますわね」
「お嬢様って元手が300円あれば一生暮らしていけそうですよね」
10億当たってもこの落ち着きは流石と言える。
「で、どうするんですか、このお金?」
「ふむ、そうですわね、戸田には誘ってくれたお礼に1割、2割は商工会や馴染みの商店街に寄付して、残りは陸上自衛隊に食材を寄付でもしますか、贈り物は消え物が楽ですし」
「は?」
戸田がびっくりした顔を向ける、1割じゃご不満かしら。
「いやいや、この前お年玉をめっちゃ沢山頂いたばかりなのにそんなの貰えませんよ!それに7億も自衛隊にって」
「前にTVで見たおばあさんを背負って山を越えたり、土砂に埋まった家屋から行方不明者を必死に探す姿に感動しましたの」
「それにしても7億ですか」
「陸上自衛隊の駐屯地って全国に160ヶ所はありますわよ、7億使っても送料まで考えると1ヶ所あたり400万くらいですわ」
「えっ、陸自ってそんなに数あるんですか?」
「まあ、和歌山みたいに小さい所や東千歳みたいに大きい所と人数の多い少ないはありますわ、でも近年は大きな災害も多いですし、あの方達にはいっぱい食べて頑張ってもらわないといけないですもの」
「なるほど、匿名で贈るんですか?それなら私の1億も使ってくださいよ(自分の金ではないので気が大きい)」
確かにあの人達は台風や地震のたびに雨にも風にも負けず頑張っている、昨年の能登半島地震は記憶にも新しい、それくらいはしてもバチは当たるまい。
「匿名で贈られた食材なんて怪しすぎて怖いでしょ、ちゃんと西園寺家の名で送りますわよ」
「じゃあ、お嬢様の写真付きで贈りつけましょう!全国でむさい筋肉男のファンが生まれますよ、ハハハハ」
「……戸田の写真を輸送用コンテナに大きくプリントして贈りつけますわ!ホホホ」
お嬢様それだけはご勘弁を~と泣きながら私の脚に縋り付く戸田を冷ややかな目で見てやった。
だって、エリカお嬢様の目が本気だったんですもの、とは戸田の言葉だ。
あけましておめでとうございます。今年もよろしく!