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女子高生とトップのご対面

 王の間を追い出されてからは武器庫に押し込まれ、雑に装備を取り付けられた。それは勇者につけるような装備でないことはひと目でわかる。恐らくレベルが足りてないからおんぼろを着せられているのだろう。


「こんなだっさい皮の装備でダンジョン行くの…? もう既に所々ボロボロじゃない…」


 制服の上から従者に無理やり着せられた皮装備は存在感を強調している皮なのに、現実世界のブランドと違って安物臭が漂う。オシャレは妥協したくない愛理はこの装備を着けられるのを心底嫌がった。


「ねぇ、こんなの勇者に装備させていいわけないでしょ。しかも今から行くのはレベル高いんでしょ? 私まだ1だよ? 無理でしょ?」


 長々と文句を垂れる。目につく嫌なことを全て口に出すところなんて、やはりまだまだ子供だろう。

 まだ高校でだるい嫌だと言いながら通う生活をしているたはずなのに、急にバタバタと戦場に投げ出される。愛理の不安は相当なものだっただろう。

 しかし、人間側に転生してしまったことは運がなかった。先代勇者のせいか、どの世界でも人の性か、この世界の人間も結局は人を見ずにステータスでしか認識してないようだった。


「なぁ…俺ら三人を護衛につけるんだ。ここより安全な場所なんてねぇぞ。ダンジョンだってお前がヘマしなければ真ん中でお茶だってできる」


 武器庫の一角から三人がこちらを眺めている。恐らくその服装から見ても、木箱の上で寝そべりくつろぎながら声をかけてきたのが武神だろう。歳は軽く五十くらい行ってそうなものだが、その逞しい体からは武道未経験でも圧倒的なオーラを感じる。鎧より肉体の方が強固なのか、立派な体にはシンプルな薄着だけを羽織っている。


「そう言ってやるなまだ子供だ。別世界に飛ばされ挙句の果てに死地に投げれるなんてお前だってごめんだろ」

「なんだよ最高じゃねぇかよ。こいつぐらいの歳にはもう武器なんか使わなくなってたぞ」

「バカと一緒にするナ、野蛮人」


 私を庇ってくれたのか、私の気持ちを代弁してくれたオレンジ髪の優男がおそらく賢者か。立派な両手杖の先には何色も混ぜ合わせている途中のようなカラフルだが、混ざり合うところは少し奥の見えない漆黒を感じさせる。服装も豪華な漆黒のローブを羽織りいかにも魔道士らしい雰囲気を出している。


 武神をバカと言ったのは神官だろうか、小柄な体躯に少し大きめの協会服のようなものを着ている。天然の金髪なのか色は全体が綺麗な金でお人形のようだ。少しカタコトなのが気になるが今まで見た人達と雰囲気も違うし彼女はどこか遠くの生まれなのだろうか。

 腰には大きめの分厚い本をぶら下げる様はまるで登校するようだ。


 武神以外は話が伝わりそうで安心した。なんだか転生してから初めてほっと一息つけた気がした。


「バカが悪かったナ。私はエル・フォーレン。勇者として呼ばれて大変だろうがたった数年ダ。我慢してくれ、私がいればお前死ななイ」


 あぁこの人も話が通じない。なんだか優しく感じたのが嘘のようだ。話してる中身は全く武神と変わらない。


「エル、君の主張だと全くシュラと同じ内容だよ。僕はアムレット・マージェ。見ての通り賢者だ、他の二人と違って君の元に敵が着く前に殲滅してあげるから安心しなよ」


 最初の一言で常識人かと思ったが賢者は圧倒的だなぁ…。おそらくこの三人の中で唯一の遠距離攻撃役。私に近づく前に全部倒してくれるらしい。いやったぁ…。

 なんだか優男と言うより軟派な気がしてきた。たしかに端正な顔立ちだが、遊んでそうで好きになれない。


「俺だって遠距離攻撃できるっつぅの。魔法なんかなくたって腕振りぬきゃ倒せんだろ。怪我だって筋肉絞めりゃなんだって止血できる。この都市のチャンピオン、シュラハット・ドゥエルの傍より安全な場所はこの地にはないぞ」


 魔法が嫌いなのだろうか…。武神は魔法に対抗して軽く腕を部屋の端の方へ突いた。確かに風圧でそこにあった木箱がへしゃげた、もはや人を辞めている…。


「まぁそんなこんなで勇者を護衛するのは僕達三人だ、ダンジョン六つを最速攻略し君に装備をプレゼントしよう」

「そしたらそっからは俺がレベル上げてやる。なぁに、エルがいりゃ一日中稽古し放題だ。気にせず死にな」

「私が起きてる時だけにしてネ、時間経つと間に合わないかラ」


 あぁもう…異世界転生作品なら喜んで弟子入りでもして、フィクションの中では3人の技術を全て盗み、武と魔法を極め、自己回復してバッタバッタと無双チートじゃん。流行るくらいなら私にもそのストーリーをくれよ…。ただの人間に風圧で木箱を割ったり死にかけの人を起こせるわけないでしょ。

 私に出来るのなんてせいぜい紙を破いて、心臓マッサージくらいだ、いくら勇者の職業だって一度の人生でこんなに吸収できるわけが無い。


 …二度目だが


 とにかくこの圧倒的な人間(仮)から一刻も早く逃げ出そう。勇者と言えどこの人達といては命がいくつあっても足りない。

 死にながら修行? 冗談じゃないわ。第二の人生すらも棒に振ってたまるもんか。


「貴方は少し学が足りなそうだ。親切心で言っておきますが逃げるのはおすすめしませんよ」


 心まで見透かしてきたぁ…! 異世界の賢者なんでもありじゃん。女子高生の心のなかを覗いていいわけないでしょ。


「この世界トヴァリアの創造神は貴方も顔を合わせたと思いますが調和の神ハルモニア。彼女は世界の均衡が崩れる要因を徹底的に排除します。私たち三人が許されているのは勢力の規模のおかげでしょう」


 え、あの神様ってそんな仕事もしているの? 調和の神とか言って何もせずに転生者を見守ってあわあわするのが仕事じゃないの?

 流行り物の転生漫画を登校中に読んでいる愛理は知識が大変片寄っていた。


「ですが勇者の貴方が戦いもせずに魔王討伐を放棄した場合、魔王が征服にやる気を燃やしていたら釣り合いが取れないので、貴方は消されるか、何か罰をおって戻されるでしょうね」

「この世界で何かを放棄するにハ、均衡が大事ダ。釣り合いが取れなければ神の裁きが下ル。子供が一番初めに学ぶことダ」


 この人たちから逃げれるとも思っていなかったが逃げる選択肢なんて元からなかったのだ。私はこの世界に転生した瞬間に勇者という鎖に繋がれている。


「ですが、私達三人についてくれば装備は六個集まり少しレベルを上げて装備さえ出来れば魔王も怖くない…。どうです? やれそうな気がしてきませんか?」


 確かに自分でも出来そうな気がしてきた。不慣れな魔王や勇者という単語や風圧の威力を目の当たりにしビクビクしていたが、まとめてしまえばどうということは無い。

 ただ着いてった後は少し大変だがレベルを上げて魔王を倒す。しかもレベル上げ以外はストレスフリー。しかも魔王討伐後は報奨金で一生遊んで暮らせる…。

 一介の女子高生はまんまと口車に乗せれてしまった。慣れない環境に厳しい視線、いくらでも希望が見えれば飛びついてしまう精神状態なのは想像出来るだろう。


「私…やるわ。魔王を討伐してみせる! よろしくね! アムレットさん、シュラハットさん、エルさん!」


 にこやかにこちらを見ているアムレットさん以外もニコニコしていた。魔王討伐に乗り気になったのがそんなに嬉しいのだろうか。何はともあれ、この人達の力を使って私は今後この世界で一生遊んで暮らしてやる!

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