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89.企みの裏側

「え!父上のせいだったの?」


「そうだよ~僕が宰相をどうこうするわけないよ。

 そんなことしたらレオとリリーに怒られちゃうでしょ。


 レオは心配してたみたいだよ。リオルたち三人がこれからどうするのかって。

 リオルが王族から抜けるにしても、貴族として生きるのか魔術師して生きるのか、

 レイモンド王子の側近になるつもりのなのか、

 それによって三人の関係も変わらなきゃいけないだろう。

 学生のうちはいいけど、いつまでも依存しあっているわけにもいかない。

 僕がロザリーとルビアのことを相談したことで、レオも考えたんだろう。

 もう種明かししたから、宰相とジーンとブランも帰ってくると思うよ。」


「…なんだ…そうだったんだ。」


俺は早く王女と公爵令嬢を帰らせて、

宰相とジーンとブランをここに戻すことしか考えていなかった。

二人がまだ留学を続けることになって、どうしたらいいのか心配していた。

それが…嘘だったなんて。思わず力が抜けそうになる。

そうか。父上が俺のことを心配してジーンとブランを離したのか…。


「怒る?」


「…いいえ。怒りません。

 離れてから三週間、これだけ一人でいたのは初めてのことでした。

 どれだけジーンとブランに支えてもらっていたのかも知ることができました。

 …レイモンドの負担も。

 俺は王族としての責任を何一つ背負えていなかった。

 そのことを知るいい機会だったと思います。」


「そっか。

 結果としてロザリーとルビアも変われそうな気がするし、良かったかな。

 まぁ、一歩間違えばどうなってたかわからないけど…。

 レオとリリー、シオンがいないのはあの件の後始末しているの?」


「シオンはそうだと思います。

 父上と母上は…少し時間が必要なんじゃないかと。」


「時間が?…まぁ、その辺は二人にしかわからないものがあるんだろう。

 この国を出る前には戻ってくるかな…。

 まぁ、ロザリーとルビアがいるし、たまに様子見に来るつもりだから、

 ゆっくり話すのはその時でもいいけどね。」


昨日父上は帰ってから、母上とどこかに出かけたようだった。

どこにいったのかはわからないけれど、

きっとバルとエミリに別れを告げにいったんだろう。

前世のことにもう縛られないように。


シオンは精霊の森まで行くと言ってたから、あと数日は帰ってこないだろう。


宰相とジーンとブランが帰ってきたら、また元の生活に戻る。

だけど、今までとは少し違う関係になるんだと思う。




王宮に滞在しているジョエル国王と話が終わり、マジックハウスに帰る。

ミーシャとレミリアが夕食を作って待っていてくれた。

こうして三人だけで過ごすのは初めてで、少しだけ寂しい気もしたけど、

あと数日もすれば騒がしい日々に戻るのはわかっている。

二人が楽しそうに話しているのを聞きながら夕食を食べ、部屋に戻る。


夜更けになって、ミーシャの部屋のドアをノックした。

俺が来るのがわかっていたように、すぐにドアが開けられる。


「悪いな…寝てなかったんだ?」


「なんとなく、リオルが話したそうにしてた気がして。

 夕食の時はレミリアがいたから、夜に来るんじゃないかと思っていたの。」


「正解。」



部屋の中央に置かれているソファに並んで座ると、

少しだけ身体を斜めにして向かい合って話す。

レミリアの部屋はもう何年も前からここに住んでいるかのように落ち着いている。

魔女の森に遊びに来ていた頃からマジックハウスには出入りしていたけど、

実際に住むようになったのはここ数か月だ。


ここにいるのが当たり前で、俺の隣にいるのが当たり前。

ずっとそうだったけれど、当たり前じゃなかったんだ。

そのことにあらためて感謝をしながら話を切り出した。


「ミーシャ…俺たち、王族から抜けるのを少し待たないか?」


「…それは構わないけれど、どうしてそう思ったの?」


「俺、ずっとジーンとブラン、ミーシャに助けられて生きてきた。

 それが普通になっていたけど今回の王女たちのことがあって、

 一人になった時に何もできない無力感に打ちのめされそうになった。

 俺がすることが俺一人のことじゃない。

 俺の行動でこの国が責任を負うと思うと、何もできなかった。

 今まで王族だって言ってたのは、口だけだった。何も考えてなかったんだ。」


黙って聞いてくれるミーシャに、そのまま話を続ける。


「レイモンドを一人にするんだって、気がついた。

 俺とミーシャが王族を抜けたら、フランソワがいると言ってもまだ子どもだ。

 ジーンとブランも、俺が王族を抜けたらレイモンドから離れるだろう。

 あの重圧を、レイモンド一人に負わせてしまうんだとようやく気がついた。」


「そうね…私もリオルもずっと王族を抜けるって言っていたから、

 重圧を背負っていたのはレイモンドだけよね。

 フランソワは王太子になるわけじゃないし、

 レイモンドを支えることしか考えていない。

 一人で立っているのはレイモンドだけだったわ。」


「そうだよな…俺は何を見てきたんだろう。

 今回だって、レイモンドは俺を守ろうとしてくれた。

 王女と公爵令嬢を一人で引き受けて、ロードンナと揉めないように。

 あいつはすごいな…。

 だけど、きっとどこかで苦労する。

 今回、ロードンナとの関係を壊さないようにするにはどうしたらいいか、

 いろんな資料を読んだりしたんだ。

 その中に議会の議事録もあった。

 陛下と父上、宰相の関係も少しわかった気がした。

 父上が王族だから議会で言えることもあるんだって知った。

 父上が陛下とこの国を守ろうとしている、そう思った時に俺は?って考えた。」


「だから王族に残るの?」


「レイモンドが即位して、王子たちが産まれて、もう大丈夫だと思える時まで。

 王族としてレイモンドのそばにいて、支えようと思うんだ。

 きっと側妃の問題で議会と対立するだろうから。

 俺はその時にはレイモンドと一緒に議会と戦いたい。

 …ダメか?」


「もう決めたんでしょう?」


「決めてはいない。そうしたいと思っただけだ。

 ミーシャの意見も聞きたい。

 俺だけが王族に残るってわけにはいかないだろうから。

 残るならミーシャも一緒に残ることになるだろう。

 だから、ミーシャがどう思うのか聞きたい」


「…そうね。

 自由になるのもいいけど、私たちだけ自由になったらレイモンドに怒られるわね。

 レイモンドが幸せになるのを手伝ってからでもいいかな。

 まだ時間はたくさんあるし。

 急いで王族から抜けなくてもいいかもしれないわ。」


「ありがとう。」


「ふふっ。ジーンとブランが帰ってきたら驚きそうね。

 リオルはあんなに王族から抜けたがっていたのに。」


「…帰ってきたらちゃんと話すよ。

 できれば、ジーンとブランにも手伝ってもらいたいからね。」


ポスッとミーシャが俺の肩に頭をのせたのを受け止めて、そのまま抱き寄せる。

あぁ、いろいろと終わったし、変わっていくんだ。

そう思いながらミーシャの華奢な肩を撫でる。

ミーシャは俺が守るなんてことは言えないけれど…。


「頼りないだろうけど、そばにいてほしい。」


「ええ。ずっとそばにいるわ。」


その柔らかな声に救われるような気持ちになる。

やっとリオルとして、生きていく。そんな気がした。



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