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88.父と娘

目が覚めたら、お父様が心配そうに私を見ていた。


「大丈夫か?」


「…お父様?」


「ずいぶんと無茶していたようだね…。

 あぁ、寝ていたのは事件に巻き込まれて身体を乗っ取られていたためだよ。

 詳しい説明は落ち着いてからするけど、意識を失って二日も眠ったままだった。

 すぐに起き上がるのは難しいだろう。 

 まだそのまま横になっていなさい。」


「…呆れていますよね。

 お父様の期待には何一つ応えられませんでした…。」


「…本当だね。

 僕は留学を楽しんでおいでと言って送り出したのに、

 ロザリーもルビアもちっとも楽しそうじゃない。

 レフィーロ国の学園は他国よりも高度な授業が受けられるうえに、

 あんなに優秀な学生が同じ教室にいるというのに交流すらしていない。

 …この国に来て、何が面白いと思った?

 どんな経験が楽しいと思った?

 僕が聞きたかったのは、そういう話だよ。」


「…え?」


まるで子供の頃のように頭を撫でられ、寝癖を手で整えられる。

その手は優しくて、じっと見つめてくる目は少し悲しそうに見えた。


「この国に嫁げと言われたと思ったと聞いたが、それは誤解だ。

 ロザリーをいらないと思ったことなど無いし、

 他国にやろうと思っているわけでもない。

 ただ、頑張りすぎて周りが見えないほど真面目になってしまったお前たちに、

 いろんなものを見て、いろんな人と会って、楽しんでもらいたかっただけだ。

 ここは…レフィーロ国は、僕の思い出の大事な場所だから。」


「お父様…。」


誤解…間違っていた?

この国に嫁がなければいけないのだと思っていたのは違うの?

ジョルノが生まれたから、もう私はいらなくなったのではないの?

…どこから誤解だったのだろうか。


「リオルにはまだ会ってないだろう。

 あれはいい男だよ。だが、婚約者のミーシャ嬢も素晴らしい人だ。

 ロザリーがどうこうというわけではない。

 あの二人は、もうどうあっても離れたりはしない。そういう存在だ。

 惚れるのは勝手だが、邪魔するような真似はしないようにね。」


「…はい、申し訳ありません。」


「うん。レイモンド王子にも謝っておきなさい。

 お前たちの暴走を最小限に抑えようと頑張ってくれていたようだ。

 ミーシャ嬢やレミリア嬢もね。」


「…はい。」


恥ずかしい…暴走だって言われたら、確かにそうとしか思えない。

今まで令息たちとほとんど会話をしていなかったために、

どうやって距離を縮めたらいいのかわからなかった。

せめてルビアと離れないように嫁ぎたい、それだけを考えていた。

今考えたら、なんて恥ずかしいことをしてしまったのだろう。


「留学期間は決めていない。

 好きなだけ楽しんでから、帰ってきなさい。」


「え!?…まだ留学していていいのですか?」


「今すぐに帰ったら、何をしに来たかわからないだろう。

 ゆっくりこの国を、周りの人を、自分というものを見てみるいい機会だよ。

 恋人を作ってほしい気持ちはあるが、それはいつでもいい。

 まずは友人を、ルビア以外の信頼できる人を見つけてほしい。」


「ルビア以外の…友人。できるでしょうか…。」


「そのために僕は二人を留学させたんだ。

 僕がこの国で友人たちに出会って、大事な思い出を作れたように、

 ロザリーにもそんな出会いをしてほしいと思う。」


「…はい。」


「無理はしなくていい。ダメだったら、いつでも帰っておいで。

 マリーナも心配していたよ。」


「お母様が?」


「うん。僕はいつだって人の話を聞かないで進めるからって。

 無理矢理ロザリーに留学させたんじゃないかって言われたよ。

 そんなつもりじゃなかったけど、本当だね。

 ロザリーとルビアが悩んでいるなんて思ってなかったんだ。

 …ただ、もう少しだけ自由に生きてほしかった。」


「…。」


「あぁ、まだ休まなきゃね。

 あと二日はこの国にいる。

 その間にゆっくりと話そう。

 僕とマリーナとの思い出も、ね。

 さぁ、今はおやすみ…。」



目を閉じたら、またすぐに眠くなる。

すぐ近くにお父様がいる気配を感じて意識を手放した。

次に目を覚ました時には、もっとお父様と話ができればいいな…。



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