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85.最後

思ったよりもあっさりとエリザは見つかった。

馬車置き場に一台、隅の方に置かれていた馬車。

ドアを開けると、中にはくずれ落ちるように倒れているエリザがいた。

椅子に上半身だけを乗せた状態になっていて、髪が乱れたままになっている。

いくつかの魔術具が床に転がっているのが見えた。

この中に王女の身体を乗っ取って操っていた魔術具があるはずだ。


「ひぃ…リオル、これって…どういうこと?」


俺の後ろから中が見えたミーシャが、悲鳴をあげそうになって口元を押さえた。

こわごわとエリザをのぞき込んで、俺に問いかける。


「以前、母上から聞いたことがある。

 魔力と生命力はつながっているって。

 魔力を使いすぎると、生命力を魔力に変換して使ってしまうんだ。

 それを使い切ってしまうと、一気に身体が老化してしまう。」


「今のエリザもそうだっていうの?」


「おそらくね。ロードンナの強力な魔術具だ。

 普通に使うだけでも術者の負担は大きかったはずだ。

 その上で父上の魔術具で魔力を吸い取られている。

 こうなったとしても不思議じゃない…。」


意識はなさそうだが、目は見開いたままのエリザ。

その顔や首、手は干からびたようになっていて、生きているのかもわからない。

父上が人を殺すような魔術具を作るとは思えなかったけど、あの恨みならそれもわからない。


「…生きているみたい。」


ミーシャが魔力でエリザの身体を探ったようだ。

まだ生きていると言われて、どちらとも言えない感情になる。

生きていてほしいのか死んでいてほしいのか、わからなかった。


「エリザもシーナに頼むしかないな…。

 もう少し落ちついてから頼むか。」


「そうね…下手に動かしたらまずいわ。」


ミーシャはエリザが生きていてほしいのか。

そう思ったけどそれについては何も言う気はなかった。


「こんな風に急に現れるとは思ってなかった。

 エリザはいったい何がしたかったんだ?」


「…多分、噂を聞いたんだわ。」


「噂ってなに?」


「リオルがロザリー王女を側妃に迎え入れることになったって。」


「はぁ?俺、王女とは一度も会ってないよ!?」


「わかってるわ。

 だけど、そんな噂が流れていたのよ。

 さすがに私に聞いてくる人はいなかったけど、

 レイモンドは何度か聞かれたらしいわ。」


「え…というか、側妃ってなんだよ。

 俺、王族ではあるけど、ただの公爵令息なんだけど。」


「そういう誤解されやすいのよ。

 レオルド義父さまも同じ誤解されたことがあるらしいから。」


「…うわぁ。なんでだよ。

 俺、ミーシャ以外と結婚する気ないからな!」


「大丈夫。わかっているわ。

 まぁ、その噂のせいでエリザが出てきたのなら…いいのかしら?」


「少しは妬いてよ…。まぁ、ミーシャが誤解しないのならいいけど。」


「ふふ。こんなことでは妬かないわ。」


いつも通りの笑顔のミーシャに安心はするけど、

今はのんびり話している場合じゃなかったことを思い出す。



「そうだ…父上のほうはどうなったんだ。」


父上に助けが必要だとは思っていない。

それでもどうなったのかが気になった。


「学園内にいるとは思う。探しに行こう。」


エリザが倒れている馬車に結界を張って、誰も入れないようにだけしておく。

また誰かに連れて行かれて行方不明になっても困る。


学園内で戦うのにちょうど良さそうな場所を一つずつ探していくと、父上は中庭の奥で見つかった。


冷たい表情で父上が見つめている先には…


黒いローブは見る影もなくボロボロに引き裂かれ、

身体中に大きな針状のものが突き刺さっている女が宙づりになっている。

その針状のものの先から血が少しずつあふれ、蒸発していくのが見える。


「父上!」


「…リオル、ミーシャ。

 エリザは死んだか?」


「…。」


父上のあまりに冷たい声に、どう答えていいかわからずに黙る。

あの状態を生きていると言っていいのかもわからない。

黙ってしまった俺たちに、反応したのは黒いローブの女だった。


「エリザ様に何をした!」


「…お前がしたのと同じことを。

 魔力を奪う首輪で、すべての魔力と生命力を奪った。

 もうお前が守る姫さまはいない。」


「なんだと!エリザ様をよくも!殺してやる!」


「ああそうだろう。俺も、俺たちもそう思ったよ。

 あの時血まみれになって、魔力を奪われて、

 ボロボロになって死んでいったエミリを見て、

 お前らを殺してやりたいと叫んだ。」


「なんだと!?」


「まだわからないのか。お前がしたことをそのまま返してやったんだ。

 大事な人を守れずに殺される気持ちはどうだ?

 あの時は復讐よりもエミリに再び会うことを優先した。

 だが、復讐したいという思いを捨てたわけじゃない。」


「…誰だ、お前。」


「シュバルツだ。お前が殺したエミリの夫だ。

 お前が仕えていたお嬢様が執着したバルだ。わからなかったのか。」


「お前が!?」


「どうやってお前らが転生してまで追いかけてきたのかは知らない。

 だが、それもこれで終わりだ。

 お前たちは転生させない。」


「はっ?」


「殺した後、精霊の森に封じ込める。もう二度と転生することはない。」


「…やめろ!…やめてくれ!私はまたお嬢様のもとに行かなければ!」


「そのお嬢様ももう転生しない。」


「いやだ…いやだいやだいやだ!」


「終わりだ…。」


全ての針から大量の血が吹き出した。

そのまま黒いローブの身体をおおうように流れ、消えていく。

針から何もでなくなって、女の身体も動かなくなった。


それを身動きせずにじっと見つめている父上のそばに誰かが立った。

父上の肩に手を置いて、同じように女を見ている。


「…終わったか。」


「シオン…。」


いつの間にかシオンが転移して来ていた。母上かシーナから聞いたのだろうか。

もしかしたらレミリアかもしれない。

レミリアも母上と俺の前世の話は知っている。

シオンの心の中に残っていたこともわかっているだろう。


「精霊の森に封じ込めてくるのは俺に任せろ。」


「お前が行ってくれるのか?」


「ああ。あいつを封じ込めて、ようやくエミリを忘れることができる。

 いや、忘れることは無いな。

 だけど、これでようやく納得することができる気がする。

 俺たちがあの時復讐するよりも生まれ変わることを望んだのは正解だったと思う。

 それでも、ずっと恨みは忘れていなかった。」


「…そうだな。これは俺だけの復讐じゃない。

 後はお前に任せるよ。頼んだ…。」


「任せろ。」


シオンが女の腕をつかむと一瞬で二人の姿は消えた。

精霊の森に封じ込めにいくと言っていた…。

元精霊のシオンなら、間違いなく封じ込められるだろう。


「父上…。」


「あぁ、エリザはどうしたんだ。死んではいないはずだが。」


「干からびて倒れている。あれが生きているとも思えない。」


「あれはあれでいいんだ。エリザを連れて王宮へ行こう。」


「わかった。」

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