83.襲撃
放課後に廊下に出たのはただの偶然だった。
転移して帰る前に、校舎内に設置してある魔術具を回収して帰ろうとしていた。
エリザの時に設置していた物を回収し忘れていたことに気がついたからだ。
他国の王族が学園内にいるのに、監視用の魔術具を設置しているのはまずい。
気がつかれる前にすべて回収しておこうと思った。
人気のない廊下の壁際に設置した魔術具を外そうとしたら、後ろから何かがぶつかってきた。
その瞬間パーンと音が鳴って、守護の術が発動した。
あまりの衝撃に身体がぐらっと揺れる。
ジーンとブランに二重にかけられていた守護の術が壊れそうになっている。
それほど強力な何か。
振り向くと、白い影がゆらりとこちらに向かって来るのが見える。
どうやら俺にぶつかって、一度はねかえされたものらしい。
はねかえされたのに、また俺に向かって来る。あれにふれたらまずい!
ぶつかるよりも先に防御の術が間に合い、目の前に壁ができる。
壁に白い影がぶつかった時、一瞬だけ白い影の中にエリザの顔が見えた。
「っ!」
この白い影が何かはわからないが、エリザが関わっている。
ジーンとブランの守護の術は完璧だった。
それが二重にかけられていたのに、壊されかけたほどの強力な術。
あれは危険だ。捕まえるか、封じ込めなければいけない。
もう一度こちらに向かってきた時を狙おう。
そう思ったのに、白い影は俺ではなく、反対側の通路へと向かって消えていった。
「…なんだったんだ?」
あれが何かはわからない。
だけど、まずいものなのはわかる…。
この通路の先には…一年の教室がある!
まずい!ミーシャがいる!
すぐさまミーシャの所へと転移すると、ミーシャとレイモンド、レミリアが驚いている。
俺が学園内で転移して動くことは無い。
行き帰りにマジックハウスと三年の教室を移動する時くらいだ。
それが普段は行くことのない一年の教室に転移して現れている。
驚くのも無理はなかった。
「緊急事態だ。レミリアはレイモンドを連れて王宮へ行け。
すぐに父上を呼んできてくれ。俺一人の手では難しい。」
「っ!」「わかったわ。レイモンド行くわよ!」
驚いているレイモンドを引っ張るようにレミリアが王宮へと転移する。
それを見届けて、ミーシャに駆け寄る。
「ミーシャ、すぐに守護の術をかけられるだけかけてくれ。
俺とミーシャ、両方にだ。」
「わかったわ!」
緊急事態だと最初に言ったせいか、ミーシャは何も言わずに俺と自分自身に守護の術をかける。
ジーンとブランも得意とする術だが、強度で言えばミーシャの方が上だ。
エリザが狙っているのが俺なのか、ミーシャなのかわからない状況では、
まず守護の術をかけ直してからでなければ事情を説明する余裕がなかった。
「エリザがあらわれた。
といっても、エリザそのものじゃなかった。
白い影みたいなものが襲ってきたんだが、一瞬だけエリザの顔が見えた。
何らかの魔術具を使っているんだと思うが、
ジーンとブランが二重にかけた守護の術が壊れかけるほど強力な術だった。
こっちに向かってきていると思う。
できれば捕まえるか、封じるかしたい。力を貸してくれ。」
「エリザが!?…じゃあ、ここにいる人は帰らせた方が良いわね。
皆さん、早く教室から出てください。
護衛と侍女たちはこのまま王宮へと戻って待機。」
「護衛なしで大丈夫ですか!?」
「すまないが魔術具を使っている相手だと、身体を乗っ取られる可能性がある。
下手に周りに人がいると身動きが取れなくなる。
ここは退いてくれ。」
「わかりました…王宮へと戻り待機します。」
「学生たちも危険だから、すみやかに帰ってくれ。」
「「はいっ!」」
教室内に残っていた者たちが急いで教室から出ていく。
残ったのは俺とミーシャだけ…?
「ミーシャ、王女たちはどうした…?」
「あ!リオルを探しに三年の教室に行ったままだわ!」
「俺を…?じゃあ、俺がいなければこっちに戻ってくるのか?」
「ええ。だって、護衛とかここに置いていったもの!まずいわ!?」
「王女たち二人だけで行動してるのか!」
せっかくこの教室で白い影を待伏せしようと思って人払いしたのに、どうしようか。
探しに行く時間は無いし、ここで戦っている時に戻ってこられても困る。
判断に迷っていると、廊下から悲鳴が聞こえた。
「まずい!王女たちか!」
「行きましょう!」