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81.宰相

「あれ。宰相が帰って来てる。こんな時間にめずらしいね。」


授業が終わり、いつものように三人で帰ってきたら、

まだ夕方前なのに宰相がマジックハウスに帰ってきている。

いつもなら夜遅くに帰ってくるか、宰相室に泊まったりしているのに。


テーブルでシーナと二人、話をしていたようだ。



「おかえりなさーい。ジーンとブランに用があって待ってたみたいよ。」


「う…。」「ヤな予感。」


「そういう顔をするってことは、何かあったな。

 それとも王女と公爵令嬢のことを聞いたか?」


宰相がめずらしく素顔になっているのを見て、おやっと思う。

いつもなら宰相の姿は変化してわからないようにしているはずなのに。


白銀の髪に、緑に琥珀が入った瞳。

おそらく見る人が見れば、どこの国のものかわかるのだろう。

詳しく聞いたことは無かったが、他国から流れ着いた魔術師なのは知っていた。



「宰相、もしかして身分を公表するつもりなの?」


「その話もしようと思って来たんだが。

 …なに、俺のこと知ってたの?」


「いや。聞いてないよ。

 だけど、父上と対等で話せる身分なのは知っていた。

 人前ではそれを隠しているのも。

 だから、何かあるんだろうとは思ってたよ。」


「…意外と見てたんだな~。さすが二人の子というべきか。

 俺はレランガ国の元王族だよ。今のレランガ国王の叔父にあたる。

 つまり、俺も王弟だった。

 いろいろとあって、命を狙われてこの国に逃げてきた。

 その時にレオルドに助けられたんだ。」


「レランガ国の元王族…。なるほど。

 その髪と瞳が王家の色だから隠してたの?」


「そういうこと。

 さすがにもう命を狙われることは無いと思うが…。

 今のレランガ国の国王には子どもがいない。

 俺以外の王族も生き残っていない。

 つまり、ジーンとブランが最後の王族の生き残り。」


「「は?」」


あまりの話にジーンとブランの口が開けっ放しになる。

二人は宰相の身分を知らなかったようだ。


「どうやら、ジョエル国王に気がつかれたらしい。」


一瞬でこの話をした理由がわかってしまった。

ジョエル国王が、王女と公爵令嬢を留学させた理由も。


「…ジーンとブランを婚約させるつもりなのか?」


「いや、その気はない。

 俺は…レランガ国の次の国王は王族じゃなくてもいいと思ってる。

 ジーンとブランを連れて国に帰る気はない。

 だけど、ジョエル国王にバレてしまったからには、この国にいるのも難しい。

 ジーン、ブラン、学園に通うのはもう無理だ。」


「「…。」」


「…ちょっと待ってくれ。

 学園を休むのは仕方ないし、姿を消すのも仕方ない。

 だけど、この国から出ていくのはちょっと待ってくれないか?」


「リオル、少しでも情報が洩れたら、大変なのは陛下だよ。」


「…だけど、ジョエル国王が気が付いたっていうだけで証拠はないはずだ。

 宰相は素顔を人に見せていない。

 今の状態なら、まだ大丈夫なんじゃないのか?」


「……わかった。とりあえず、俺とジーンとブランは姿を隠す。

 王女と公爵令嬢があきらめて帰国して安全だとわかるまでは。

 それでいいか?」


「ああ、頼む。時間をくれ。

 俺は…三人がいなくなるなんて嫌だ。

 きっと父上もそうだと思う。だから、少し待ってくれ。」


「ジーンとブランもそれでいいな?」


「ああ。リオル…一人で大丈夫なのか?」


「俺たちがいない間…暴走しないって約束できるか?」


「…約束する。お前たちがいない間に無茶はしない。

 俺が暴走したら、よけいにまずくなるだろう。」


「それならいい。無理するなよ。」


「で、俺たち三人…って。母さんは国を出る気は無いんだね…。」


「あら。私が姫さまを置いていくなんて、あるわけないじゃない~。」


「「こういう人だった…。」」


がっくりしているジーンとブランの肩に俺の手を片手ずつ乗せる。

守護の術をかけると、同じようにジーンとブランから俺の肩に手を乗せられて、

二人から守護の術をかけ返される。


「大丈夫だよ。すぐに元通りになるさ。」


「ああ。」

「少しの間の我慢だな…。」







(宰相side)



「きりがないな…。」


「ホントだよ…レオルド様のせいなのか、リリー様のせいなのか…」


まったく減ることのない大量の贈り物を目の前にしてため息をついている息子二人に、

後ろから近づいてこつんと頭を叩く。


「「いてっ。」」


「何をさぼってるんだ。これじゃいつまでたっても終わらないだろう。

 早く贈り物を開けて確認しろ。」


「「はーい」」


俺が姿を隠している間の宰相の仕事をレオルドに任せる代わりに、

俺とジーンとブランは公爵家での仕事を手伝うことになっていた。


リオルとミーシャの婚約を発表して以来、ずっと贈り物が絶えることがない。

それを一度開けて中身を確認したら、礼状と共にすべて送り返している。

最初はリリーが送り返していたそうだが、あまりの多さとしつこさに参ってしまったらしい。


そうなるのもわかる…。

各領地の特産品はわかるが、なぜ娘の姿絵付きなんだ…。

婚約祝いじゃないのか…リオルは愛人の募集なんてしてないぞ。

ワインにはうっすら媚薬が混ぜてあったり、物には魔術がかかっているものもある。

ケンカを売っているのかといえば、そうではないらしいのが…貴族の考えのわからないところだ。


まぁ、俺も貴族って言えば貴族なんだけどな…。

命を狙われて逃げ切れたはいいがボロボロになって倒れていた時に、

レオルドに拾われるように助けられたのは二十年ほど前だろうか。

マジックハウスに連れて行かれた後、治療してくれたのがシーナだった。

死ぬしかなかったはずの命を救ってもらったのと、

しばらく指一本動かせない状態を世話してもらっていたせいで、いまだにシーナには頭が上がらない。


動けるようになった後は仕事を探しているというと、

住む場所と仕事を紹介すると言われ…感謝したのだが。

まさかそれが王宮で、宰相をやるはめになるとは思わなかった。


その数年後に…まさかシーナに子作りを頼まれ、

こうして夫婦のように暮らすことになるとは、もっと思わなかったけど。

側妃が襲われてシーナが呼ばれたとき、

ようやく治療が落ち着いて王宮から帰るのを見送ろうとしたら、

なぜか王宮内の俺の部屋についてこられた。

「姫さまのお子様に付ける侍従か侍女が必要だから、協力してくださいね。」

そうにっこり言われて…拒否できなかった。

…まぁ、なんだかんだ言ってシーナに惚れてる俺は拒否する気も無かったけどさ。


そんなわけで産まれた二人の息子だけど、俺は宰相の仕事が忙しくて、

あまりマジックハウスでの子育てには参加していない。

シオンの方が長くそばにいて面倒を見てくれている。

ジーンとブランとこうして長い時間一緒にいるのは初めてかもしれない。


レオルドとリリーに対して、シーナとシオンの主従関係は揺るぎない。

どれだけ仲が近かろうと良かろうと、主従だという線がはっきりしている。


だけど、リオルとジーンとブランは、人前では一応主従っぽくしているものの、

実際にはそのあたりがはっきりしていないように見える。

それに、お互いに依存しているような気もしている。

リオルは二人がいれば二人に任せてしまうし、

二人はリオルを自分たちの庇護下にあるもののように誤解している。


今回こうして離してみたが、三人にとっては良い経験になるかもしれない。

リオルには警戒するように話してはいたが、

ジョエル国王が今更俺のことをどうこうするとは思えない。

するなら、最初に顔合わせて気がついた時にしていたと思う。


ジーンとブランはシーナに似て茶髪だし、目の色は俺に似て琥珀が混ざっているが、

それだって近くで見なければわからないくらいだ。

今さら俺の関係者が探していたとしても見つからないだろう。


レオルドにこの話を持ち掛けられた時は鬼だなと思ったけれど、

遅かれ早かれ一度引き離してしまわなければいけなかっただろう。

戻った時に、三人がもう少しお互いに尊重しつつ一人で立てるように、

成長してくれることを願うしかない。



「おい、お前ら。それが終わったら外で剣の訓練するぞ。

 最近たるんでいるらしいな。」


「うわ。」「やばっ。」


ここにいる間だけでも、父親らしいことしてみるか。





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