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80.レイモンドの苦労

食堂に行くと、まだミーシャとレミリアは来ていなかった。

礼儀作法の授業は男女別なので、たまにこういうこともあったりする。

お茶会を実践方式で学んでいたりすると、時間がかかってしまうらしい。

それとは逆にレイモンドが剣技の授業で模擬戦だったりすると遅れてくることもある。

同じ学年でも男女によって授業時間がずれてしまうことは仕方なかった。



一人で座っているレイモンドの席に俺とジーンとブランが座ると、

レイモンドが俺たちの顔を見て安心したように大きく息を吐いた。

真面目なレイモンドが学園で、ましてや人の目がある時にこんな風になるなんてめずらしい。


「めずらしく疲れた顔をしているな…。

 レイモンド、王女たちは昨日の昼に王宮に着く予定だっただろう。

 もう顔合わせくらいはしたんだろう?

 どんな感じだった?」


「はっきり言って、王女たちはリオルとは合わないと思う…。

 明日から学園に来るけど、昼食は別にした方がいいな。

 ミーシャとレミリアも。」


「え?レイモンドだけで王女と公爵令嬢に付き添うつもりなのか?

 …気が強い王女って聞いてたけど、大丈夫なのか?」


「…いや、むしろミーシャとレミリアがいたらまずい気がする。

 それと、お前は顔を合わせたらまずい気がするから、

 会いそうになったら全力で逃げてくれ。」


「どういうことだ…?」


「結婚相手を探しに来たそうだ。二人とも。

 だから話し相手の令嬢は必要ないと。

 俺に娶る気がないなら、有力な令息を紹介してくれと言われたよ…。

 …俺は嫌だ。いくら優秀でも、あんな王妃や側妃は嫌だ。」


「嫁ぎ先を探しに来たのは知ってたけど、はっきり言うとはな。

 …そんなぐったりしてんのは、他にも何か言われたのか?」


「王女が、私を王妃にするなら、公爵令嬢を側妃として一緒に娶れと。」


「は?」


「知らない国で王妃になるのは大変だから、公爵令嬢を側妃にして、

 この国の令嬢たちをまとめあげるとかなんとか…。」


「えぇぇぇえええ?ありえないだろう。

 他国のものを王妃と側妃にしたら、この国の貴族が黙ってないだろう。

 ちょっと考えただけでも無理なのがわかるだろうに。

 本当に優秀なのか?その王女。」


思い出したらまた頭が痛くなってきたのか、レイモンドが額に手を当てたまま肘をついている。

さりげなくジーンがレイモンドを隠して、他の学生に見られないようにする。

さすがに…ここまで疲れている様子のレイモンドにしっかりしろとは言いにくい。


それにしても…ジョエル国王の娘でもあるはずなのに、

王女がそんな発言を他国の王太子に初対面で言うとは…何を考えているんだ。



「ちょっと疑問に思えてきた。

 ジョエル国王が優秀なのは知ってるけど、同時に冷酷な国王とも言われている。

 この国に被害がないのはレオルド叔父上のおかげだそうだ。」


「あー確かにすごい仲良さそうだったよ。母上とも。」


「留学してきたときに仲良くなったそうだ。シーナとシオンとも。

 だからこそ、王女にも留学を認めたんだろうけどな…。

 ジョエル国王が何を考えているのか…わからなくなってきたよ。」


ついに力尽きてぐったりと机に突っ伏したレイモンドの肩に手を置く。

あまりうまくないけど回復魔術をかけると、ようやく顔をあげた。


「悪いな…。ちょっと疲れすぎていたようだ。」


「いや、いいよ。

 わかった。明日から昼食は個室でとる。

 学年が違うから会うことも無いだろう。

 しばらくは王宮にもいかないことにする。」


「ああ、そうしてくれ。」


「…何かあったらミーシャかレミリアに言ってくれ。

 すぐに俺に連絡よこすように言っておくから。」


「わかった。…何もないことを祈るよ。」




次の日の昼、食堂の個室で待っていると、ミーシャとレミリアが疲れた様子で入ってきた。

ソファに座ると、すぐさまレミリアは怒ったように話し出した。


「もう最悪よ。何、あの王女。公爵令嬢も。

 何をするために留学して来たのよ!」


「レミリア、そんなにひどいのか?」


「ええ。ひどいとしか言いようが無いわ。

 令嬢とは話さず、片っ端から令息に話しかけて身分を確認するのよ。

 嫁ぎ先を探しているにしても失礼過ぎるわよ!」


「うわ…それはひどいな。本当にジョエル陛下の娘なのか?」


「でしょう!?ミーシャにもひどいのよ!

 自分が王妃の娘だからって、側妃の娘とは格が違うって言ったのよ!」


「はぁ?」


思わず殺気が漏れて、部屋の温度が低くなる。

部屋の扉に埋め込まれているガラスからピシッと音が鳴った。

それを見て、ジーンとブランが立ち上がった。



「うわっ。ちょっと待て。リオル、ミーシャが風邪ひくぞ!」


「レミリアも、リオルを怒らせないように話せよ。

 ちょっと落ち着け二人とも!」


慌てたジーンとブランに止められ、俺とレミリアは気を落ち着かせようとする。

それを見て、仕方ないとばかりに部屋の温度をミーシャが戻してくれる。

ふんわりと優しいミーシャの魔力に包まれるように、

少しずつ暖かくなっていく周りを感じて正気を取り戻していく。


「ごめん、ミーシャ。寒かったな。」


「いいわ。これくらいなら。レミリアも大丈夫?

 あの教室で怒らないように我慢するの辛かったでしょう。

 でも大丈夫よ。護衛たちからお父様に報告がいってると思うわ。

 王妃と側妃云々の話は、ジョエル国王にも苦情がいくでしょう。

 他国の王族と身分を比べるなんて、してはいけないのだから。

 ましてや同盟国なのよ。ありえないわ。」


冷静に話すミーシャだったが、いつもよりも声が硬い。

それだけ王女の行動は無礼だったのだろう。

いつものミーシャなら、自分の身分がどうので文句を言うようなことはない。

おそらく、それを聞いていたレミリアや他の学生の我慢を感じ取ったのだろう。


「レイモンドから俺は近寄るなって言われたけど、正解だったな。

 さすがに俺が暴走して吹っ飛ばしたり凍らせたらまずい。」


「そうね。近寄らない方がいいわ。向こうは会いたいみたいだけど。」


「は?俺に?」


「えーっとね、一番はお兄様ね。

 で、ジーンとブランにも会いたがってたわ。」


「え?俺たちも?」「なんでだよ。」


俺だけじゃなくジーンとブランもと言われて、不思議そうな顔している。


「馬鹿ね。宰相の息子だからよ。年も一つ上だし。

 結婚相手に考えているのに決まっているでしょう?

 それなりに容姿だって整っているのだから。

 意外と二人とも人気あるの、知らなかったの?」


レミリアにそう言われて、そういえばそうかとも思う。

名前も出身も明かしていない宰相ではあるが、陛下の信頼もあり父上の相棒でもある。

その息子であるジーンとブランは、容姿もいいし剣の腕前も強い。

その上、魔術師でもあるし婚約者もいない。


「そうだったな…忘れてたよ。

 宰相の息子で、俺の側近だと思われてんのか。

 婚約者もいないし、浮いた噂もない。」


「嘘だろ。」「嫌だよ、そんな女。」


「そう言われても、話が来たら断りにくいぞ?」


「「無理無理無理無理」」


首が取れるんじゃないかってくらい二人が同時に首を横に振る。

気持ちがわかる分、何とかしてやりたいとは思うが…。


「まぁ、宰相は断るだろう。陛下や父上も無理強いすることは無いと思う。

 母上にとってシーナは姉みたいなもんだし、

 ジーンとブランにそんな結婚を押し付けるようなことは無いと思うよ。」


「よ、良かった…。」「ほっとした…。」


「でも、正式に会いたいと言われたら会わなきゃいけないとは思う。

 さすがに会う前に断るのは…無理だろうから。」


「「…。」」


ミーシャとレミリアが心底哀れんだようにジーンとブランを見ている。

二人にとっても兄のようなものだから心配なんだろう。


「…レイモンドに後で話しを聞くか…。

 それからまた相談しよう。まずは、昼食を食べてからな。」




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