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8.大事な発表

次の日の昼、王宮に着くと人だかりができていた。

貴族たちの中にちらほらと令嬢や夫人たちもいる。なんでだ?

今日は夜会じゃないんだぞ。当主以外来る必要ないだろう。

見慣れない光景に少し嫌な予感はしたが、謁見室まで行こうとする。

その道すがら話しかけてくるものがいて、この事態がなんとなく理解できた。


「あの!レオルド様が国王になられるって本当ですか?」


「それで、リリーアンヌ様の他に側妃も娶るって聞いて!」


「側妃選びを開催するんですよね!?」



…帰っていいかな。誰だよ、そんなこと言いだした奴は。

ため息が出る。というか、ため息しか出ねぇ。


「うるさい。」


寄ってこようとする者たちを一言で黙らせ、謁見室に入る。

いちいち返事をするのもめんどくさい。

全員に一度の説明で終わらせたいんだ。


「静まれ。」


手をあげて静止するように求める。

ざわめきが少しずつ静かになる。そろそろいいか?


「今日集まってもらったのは、俺から重要な話があるからだ。

 話が終わるまで質問は受け付けない。」


見渡すと貴族たちが期待するような目でこちらを見ている。

何を期待したんだろうな。

その期待は今から粉々にしてやろう。


「俺は、王弟だ。

 しかも、父親は先の女王の王配、母親は公妾だった侯爵の出だ。

 一滴もレフィーロ王家の血は入っていない。

 名前だけの王子だ。

 公妾から生まれた名前だけの王子は、

 通例で成人したら公爵を名乗ることと決まっている。

 だから本来であれば、俺はレオルド・レフィーロではなく、

 レオルド・ギルギア。ギルギア公爵を名乗らなければいけない。

 事情があって、この二年は国王の代理を務めてきた。

 だが、それも昨日で終わりだ。

 俺はギルギア公爵となり、王宮から出る!」



あちこちから悲鳴のような声が響く。

もう終わりだ!陛下になるんじゃないのか!

レオルド様が王宮を出るなんて!

様々な声が聞こえるが、皆同じように俺が去ることが不満のようだ。

深く息を吸って、その声に負けないように続きを話す。



「いいか?王家の血が一滴も入ってない王弟だぞ。

 他国から見れば、俺のクーデター状態だ。

 歴史あるレフィーロ王国が乗っ取られたと思われるだろう。

 俺は恩ある女王の王国に、そんな恥ずべきことはしない。

 権力をあるべき場所に戻すんだ。


 俺は今後一切王政に関わらない。

 関わる必要が無いように、皆で陛下を支えてやってくれ。


 あと、リリーアンヌも同じだ。

 もう王妃の仕事はさせない。」



リリーアンヌ様まで!女官たちが悲鳴をあげた。

側妃問題が解決したら戻ってくると思っていたのだろう。

あいにくだが、もうここに戻す気はない。


「リリーも同じだ。ただの王弟妃。

 今日からは公爵夫人なんだ。

 王妃の仕事の代理なんて、出来る権限無いだろう?」


どう見ても、どの顔を見ても不満そうだ。

納得できないけど、反論も思いつかないってところだろう。

さすがに、王家の血なんて入ってなくても陛下になってとは言えないよな。

言うやつがいたら、不敬罪で処罰してやろうと思ってたけど。


「わかったな?

 今までがおかしかったんだ。

 後宮の扉は壊した。

 陛下と王妃の隠れる場所はもうないはずだ。

 誰か、迎えに行って差し上げろ。」


文官たちが顔を見合わせるが動かない。

あの陛下の説得は大変だろうけど、俺の仕事じゃないからな。


「宰相や大臣たち、文官も女官も。

 俺とリリーなら仕事が少なくていいとでも思っていたんだろう。

 お前らが仕事しないから、今こういう状況になったんだからな。

 自分たちのやった結果だ。

 ちゃんと責任を取って、陛下たちを支えろ。」


「あの、お願いです!レオルド様!

 陛下たちがちゃんと仕事してくれるようになるまで、

 王宮にいてもらえませんか!

 僕たちだけでは無理です。」


必死な顔をした若い文官が声を上げた。

それに付随するように、そうだ!それなら!と周りの文官たちも続く。


「嫌だね。」


「「「えっ!」」」


裏切られたような顔するなよ。

俺だけに頼る、その文官たちの体質も、ホントどうにかしろよ。


「俺がいたら、絶対に、絶対に、陛下は仕事しないよ?

 それに、お前たちは仕事が進まないと俺に泣きついてくるだろう?

 俺は、もう、絶対に、王政には関わらない。

 お前たちが泣き叫ぼうと、もう戻ってこないから。」


そんな…と泣き崩れたのを見て、もういいかと思う。


謁見室を出ようと歩き始めたら、夜会かと思うような令嬢が立ちふさがった。


「レオルド様!お慕いしております!

 どうか、陛下になって、私を側妃にしてくださいませ!」


胸の開いた碧色のドレス。

金髪の髪をカールした令嬢は顔を真っ赤にして叫んだ。

見覚えは…あるようなないような?いや、無いな…。


「お前、誰?」


「えっ。学園で一緒の学年だった私です!

 エリーゼ・グランドール。グランドール侯爵家の二女でございます。」


グランドール侯爵家…学園で一緒。思い出せないな。

まぁ、どうでもいいか。

どうせ俺を陛下にしたい父親辺りがそそのかしたんだろう。

リリー以外の女で俺をなんとかできると思うとは。

まともな貴族って、ホント少ないんだな…。


「俺はお前なんて知らないぞ。

 俺は陛下にはなれないし、なる気もこれっぽっちも無い。

 それ以上言う気なら、不敬罪で処罰するぞ。


 それに、側妃だと?ふざけんな。

 俺はリリーだけいればいいんだよ。」


睨みつけると、ふらっと倒れそうになっている。

いや、助けたりしないよ。勝手に倒れてよ。

助けたりしようものなら、やっぱりとか言われそうだからな。貴族って怖ぇ。


「じゃ、そういうことで。

 俺のことはあきらめて、早いとこ陛下のほうなんとかしなよ。」



「待ってください!領地に行くなら、俺も連れて行ってください!」


護衛騎士の一人がそう言って、俺の前に跪いた。


「俺もです!」「お願いします!」


護衛騎士の横に、侍従や文官たちも並び始める。

何の真似だろう。再就職?え?王宮をやめて、公爵領で雇えと?


「俺は、しばらくは領地にも戻らない。」



「「「え!」」」


「だって、公爵領にいたら、

 陛下から戻ってくるように使いが毎日くるだろう?

 それだけじゃない、貴族や令嬢も押しかけてくる気だろう?

 そういうのも相手するの嫌なんだよ。」


皆が顔を見合わせて頷く。そうだろう。

俺の居場所がわかっていると、そうなるんだよ。


「だから、この国が安定するまでは、俺とリリーは姿を隠す。

 公爵領に手紙や使いが来ても、一切取り次がせない。

 王宮からも誰一人連れていくつもりはない。あきらめろ。

 じゃあな!あとは頑張ってくれよ!」


待ってください!と聞こえたが、後は任せた。

さくっと転移して王宮から出る。

追ってこれる者はいないだろうし、すぐ魔女の森に行くから、

ついてくるのは不可能だろう。


しばらくは俺の手の者たちは王宮に残してある。

どうなるのか知りたい気持ちはある。

でも、この国がどうなろうと、もうここに戻る気にはなれなかった。


王家の血が入ってないことがどれほど大事なのかわからないが、

それよりも愛国心というものが俺には無い。

王宮を出る理由には十分だろう。



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